第3話
その夜は「俺」が色々なことを教えてくれた。8Gスマホも触らせてくれた。そのスマホは正面から覗き込むと3 D になっていて、まるで自分がそこにいるかのようにリアルに映像を見ることができる。しかも、臭いや味までもが再現される仕掛けだった。「俺」はこれで彼が住んでいる並行世界の様子を見せてくれた。一見われわれの世界とたいして変わらないようだったが、自動車はみんなタイヤが無く、地面から2、3 0センチ浮き上がって移動していた。高速通信網が普及していてバーチャルリアリティ技術が進歩しているようだが、あえて会社も学校も病院もオンラインにはなっていないようだった。これは人間には生のコミュニケーションが不可欠だからなんだそうだ。ちょうどオリンピックが開催されていたので、やはり金メダルや銀メダルを競うのかと聞いたら、そこは違うらしい。メダルを競うゲームではなく領土や関税利率をスポーツで競って決めると言う。例えばこの前の野球の試合で韓国に勝ったので、竹島は4年間日本のものとなる、といった具合だ。ちなみに北方領土については、来年の北京オリンピックのスキージャンプでロシアに挑むらしい。国際問題は全てオリンピックで決めるので戦争は無いんだそうだ。「俺」は戦争ほど愚かなものはないと言った。
最後に「俺」は時空を超える理論を教えてくれて、これでノーベル賞をとれと言ってくれたが、残念ながら俺には難しすぎて理解できなかった。
「俺」はあと数時間もすれば戻れるというが、俺のほうは疲労と睡魔で付き合っていられそうにない。「話の途中で寝てしまったらすまない」と先に別れを告げておくことにした。
「そうそう、俺に何か協力して欲しいって言ってなかった?」
「実は重大な頼みが一つある。」
「色々教えてくれたお礼に何でも協力するよ。」
「本当にいいんだな。」
この時「俺」の目がキラリと光ったような気がした。同時に本能的に「しまった」と俺は思った。が、遅かった。俺はそのまま眠りに落ちていった。
「俺」は薄ら笑いを浮かべながら、眠りに落ちていく俺に向かってこうささやいた。
「悪いが、おまえのスマホの充電器を使わせてもらうぜ。しめしめ、俺のスマホと同じ、USB-C タイプだ。」
(完)
俺 ヤギサンダヨ @yagisandayo
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