さらけ出して

「…か、佳月!?

 どうした!? 何かあったのか!?!?」



体育以外ではほとんど走ることの無い佳月が、

いま目の前で息を切らして、そこにいる。

あんまりに辛くて、声が出せないらしい。



「と、とりあえず、どっかで休もう、な?」



ヘロヘロで汗だくの佳月の肩を抱えて、

すぐ近くの公園まで歩いた。



「ふう…じゃあ、とりあえず

 水かなんか買ってくるから」



そう言って立ち上がると、

服が引っ張られているような感覚がした。

振り向いて見ると、佳月が裾を掴んで俺を見上げていた。



「座ってよ」


「お、おう…」



俺を見る佳月の目が、なんとも言えず…こう…。

とにかく、身体が佳月の言葉にすんなり応じてしまった。


なんだか変な座り方になってしまった。

まるで卒業式みたいな手の置き方だ。

佳月の手と触れそうで触れない、この距離感が

こんな暑さよりも、変な汗をかかせる。


しばらく続いた沈黙を、俺は待った。

佳月が何かを言う準備をしているのだと、分かったから。

そしてその沈黙は、破られる。



「智也のこと、蔑ろにしてごめん」



え?蔑ろ…?

俺、いつそんなふうにされたっけ。

自覚無さすぎて全然分からない。

いつもならすぐに言い返すけど、

今日はやめておいた。



「俺、智也の気持ちも自分の気持ちも、

 全然分かってなかった」

「…さては奏美に何か言われたな?」


佳月は静かに頷く。


「確かに俺は、奏美のことが好きだった

 でも振られて、それからは見て見ないふりしてた

 誰にもそんな自分見せたくなかったから」

「うん」

「智也にもそれを隠してたけど、智也はずっと

 俺の素の部分を見ようとしてくれてた

 それなのに俺、全然素直なんかじゃなかった

 ほんとに、ごめん」

「…謝るなよ、佳月が悪いみたいじゃんか」


笑いながら、佳月の頭をわしゃっとする。


「こんなボロボロの佳月、幼稚園以来だな」

「う、うるせえ」

「それで?佳月の気持ちは今どんな感じなの?

 俺はね、今更すぎて笑えるけど、たぶんお前のこと…」



言いかけて、顎を片手でホールドされる。

そのまま佳月の顔の目の前まで引き寄せられた。



「えっと、佳月?」

「………」



やば。近い。

今までこんな近くで顔なんて見たこと無かったけど…。



「…あ、えっと、俺いま汗かいてるからさ」



とりあえず、一旦離れよう。

心臓が持たない。


でも、佳月は離してくれなかった。



「俺も、汗かいてるよ」



再び顔を引き寄せられた。



「!?!?」


「ちょ…おまっ…」

「うん、結構いけるもんだな」

「いやいやいや、ちょ、ちょっと待て?」

「え、何を?」

「いや何をってお前な…」



爽やかに笑う佳月。

こういう顔も、久々に見た気がする。



「嫌だった?」

「あ、えと…」



優しすぎる目線が、俺の肉体をも通り抜ける。



「…嫌じゃ、ない

 嫌じゃない、けど…」

「嫌じゃないけど?」

「その、急すぎて俺…」

「ふはっ、かわいいとこあるじゃん」

「なんだよそれ!?」

「じゃあ帰るか」

「はーっ!?」



┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉



八月下旬。またまた四人で遊ぶことになった。



「おーい」

「やっほー」


「なんか、久々?」

「そうか?」

「いやまあ、俺らはほぼ毎日会ってたからな…」

「え、そなの?」

「あ、うん、まあな…」

「ふうん」



なんだか、いい感じらしい。

すごく心が洗われる気分だ…。



「ちょっと奏美、奏美っ」

「ん?なに?」

「ねえ、奏美、あの二人に何かした?」

「え?いや?」

「まさかあそこ、本当にくっついたんじゃ…」

「さあねー」



佳月が何か思い出した様子で、晴香の肩を叩く。



「そうだ、芦野」

「え、なに?…ひゃっ」

「…教えてくれて、ありがとな」



耳元で囁かれて、完全に硬直している。



「ていうか…私なんか教えたっけ…?」



どうせカマかけただけで、

本人は忘れてるパターンな気がする。



「あああ、なんか悔しい…!

 こらー!智也ーー!!!あんたって奴はぁぁぁ!!」

「え〜!?なに!俺なんかした!?」

「ははははっ、智也がんばー」

「ちょっと佳月、助けろよー!」



平和だ。平和すぎる。


あ、忘れないうちに…。

『将にい、今日の夜ご飯は何がいい?』



「奏美ー!智也を捕まえるの手伝ってよー!」

「あー、はいはい!」

「いや手伝うなって!!」





ピコん。


『またあの素麺がいいな』

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担任の先生はお兄ちゃん 〜夏休み編&修学旅行編〜 明音 @xcpQ5238

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