ようやく

駅から戻って、洗濯やらを済ませた頃

佳月から連絡が来た。



『久しぶりにゲームしない?

 新しいの買ったんだ』


「新しいゲーム!?なんだろ〜」


『えー気になる!やりたい!』

『じゃあ、お昼食べたあと、1時くらいでどう?』

『おっけー』



調子に乗って、いつも通り約束してしまったけど…。

なんだか、智也に申し訳ない。

私が二人の関係をこじらせているようなものだし…。


よし、こうなったら、私が佳月の口を割らせてやるからね!



┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉



「お邪魔しまーす!」

「いらっしゃい」

「新しいゲームって何買ったの」

「パケ見せるよ、まだ開けてないし」

「おっ、開封式ですね?」



結局、楽しいことには勝てない…。

いやいや、本来の目的は忘れちゃいけない。

あくまでいつも通り、でもタイミングを見て…。



「ねえ」

「えっ?」

「なんかすごい普通にしてるけどさ」

「え…うん」

「いいの?来て」

「あ…ダメだった…?」

「嫉妬されちゃうよ?」

「…へ?」



なんで、嫉妬?

いやだって、将にいとのことは誰も知らないはず…。

いくらなんでもエスパーすぎるんじゃ…。



「誰に嫉妬なんてされるの、あははは…」


「俺が奏美に告ったこと、まさか忘れてないよね?」

「そ、そりゃあ…」

「ほんとさ、隙多すぎるんじゃない?」



なんか、すごい煽られてる…。

佳月の荒々しいそれは、一向に収まらない。

次から次へと矢継ぎ早に言葉を投げつけてくる。

でも、最後の最後で、私はようやく気づく。



「二人で何回も会ってんの、見てんだよ

 てっきり幼馴染先生の方だと思ってたのに…智也かよっ」

「…え?智也?何回も会ってるって…?」



佳月、見てたんだ。

私と智也が二人で会って話してるところを。



「なに

 …あっ、ちょ」



佳月の手首を掴み、スルッと押し倒して

唇に人差し指を縦に添えて、佳月の口を塞ぐ。



「説明させて?」



あっという間に押し倒されて

佳月はただ、呆然と目を丸くしていた。


誤解を解くため、

ついに私は将にいとの関係を他の人に明かした。



「それで、私と将にいは一緒に住んでるからその…

 佳月が言ってるのは完全に勘違いで……」

「…まじ、か」

「まじ、だ」

「ていうか、同棲してたのか」

「いや、私が小一の時から一緒に暮らしてはいてて…」

「じゃあ、完全に家族じゃん」

「ま、まあね…

 とりあえず、そういうことだから!」

「じゃあ、何話してたんだよ」

「智也からは、ずっと相談されてて…」

「何の相談?」

「それは言えない」

「なんでっ」

「佳月とのことだから」

「え?」

「あとは自分で確かめた方がいいよ」

「………」

「それと、ひとつ聞いていい?」

「…なに?」

「さっき押し倒されて、ドキッとした?」

「えっ……?

 いや、えっと…」



ああ、やっぱりね。

全く…とんでもない巻き込まれ方をしたものだ。



「私にとっては、佳月も智也も晴香も、大切な友達。

 佳月はそれぞれ、どう思ってる?」

「……智也のこと…俺…」

「佳月」

「なに…?」

「それが佳月の、今の素直な気持ちみたいだね」

「俺の…素直な気持ち…今の、気持ち……」



気がついたら、俺は家を飛び出していた。


今日サッカー部は練習試合で、

試合が終わればすぐに帰れる。

だからいつもより帰りが早いんだ。

そう、知ってる。ちゃんと知っていた。

だってそれは、智也が幼馴染だから。

ずっとそうだった。

それが当たり前で、今まで疑うこともしなかった。

幼馴染だから、智也には自分の素直な部分をさらけ出せた。

智也だって、いつも正直だった。

だからあの時、俺を抱き寄せたりしたんだ。

どうしてもっと早く気づかなかったのか。

関係ない他人のことばかりよく気がつくくせに、

自分のことになるといつもそうだ。



「ああっもう!!」



駅の階段を駆け上がる。

もう肺がはち切れそうだ。



「はぁはぁはぁ…」

「…か、佳月!?

 どうした!? 何かあったのか!?!?」



気がつくと、幻でも見ているような表情の

俺の幼馴染が目の前にいた。

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