重なる誤解と嫉妬

晴香による「夏休みスペシャル大作戦」以来、

私と智也はよく二人で会って話すようになった。

というのも、ただ公園でジュースを飲みながら

智也の話を聞くことが主だけれど。



「へえ、あのときそんな事したの」

「びっくりだよね、自分でも驚いた」

「それで何人の人間が悶絶することか…」

「いやいや、んなことないって」


カサカサっ


「ん?なんだ?」

「猫じゃない?」



 ・ ・ ・



俺だって、たまには散歩に出掛ける日がある。

勉強するのもだるくて、ゲームしすぎって怒られて

そうしたらあとは、外に出るしかなくなる。


それで雨上がりに、駅の周りを歩いてたら

公園の前に来たとき、聞き覚えのある声がした。



「うんうん……」

「それでさ、俺…」



え?あれ、奏美と智也…?

たまたま会ったのか?

それともお互い会いに来てるのか?


気になって、次の日も、その次の日も様子を見に来た。

結局この一週間で三回も、同じ公園で二人きりで話していた。


まさか…、奏美の好きな奴って、あいつじゃないのか?

…智也なのか?


なんだよ、智也なのかよ。

じゃあ、芦野が言ってたあれは何なんだ。

二人が両想いならどっちみち、

俺を好きな人なんて居ないじゃんか。


ははは、なんだろ、何がこんなに悲しいんだ?

奏美が俺じゃない他の誰かを好きなのは分かってた。

でもこんなに悲しいのは、妙だ。

何なんだ?何が俺をこんなに悲しくさせるんだ…。



┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉



「ただいま〜」



買い物もして来れたし、ラッキー。

あの公園、ちょうど帰り道に安いスーパーがあって助かる。



「将にい?どこー?」

「…おかえり」

「あっ、そんなとこにいたー」

「今日も会ってたの?」

「え?ああ智也?うん、まあね」

「そう」

「…将にい?」

「いや、心配なんだよ、その…」

「智也にはただ、色々と相談をされてるだけで

 なんにもないから、ね?」

「うん、分かってる、分かってるけど…」



ああ、来る。

またあの将にいが、顔を出す。

男の冴島将太が、また私の心をえぐりに来る。

このえぐられが妙に快感で、

脳内に染み込むように爪痕を残す。


将にいが私を挟むようにして

テーブルに手を付いて、身動きが取れない。


今ならいいかもと、いつも思ってしまう。

将にいの小さな顔を両手で包んで、優しく口付ける。



「今日は、将にいの好きなことしよう?」



テーブルの上に押し倒される。

綺麗な唇が私のと重なって水音を立てる。

でもそのまま、私の肩に顔をうずめてしまった。



「ごめん…また俺……」

「…将にい」

「自分でも怖いんだ

 理性が保てなくなって、感情を抑えきれなくて…」

「大丈夫、大丈夫だよ」



あの事件があってから、

心身ともに疲弊したままだった。

もう二度と私をあんな目に遭わせまいと、

ずっと気を張ってきたんだと思う。

だから、心配なんだよね?



「将にいの気持ち、分かってるから

 ありがとう、守ってくれて」



将にいの背中を、優しくトントンと叩く。



「それに私、案外好きなんだよ?

 スイッチ入る感じが、ドキドキする」

「奏美……」

「今日もお疲れ様」


「…好き、大好きだよ、奏美」


将にいの声は、震えていた。


「うん、私も大好き」



そのまま寝室へ行き

久しぶりに狭いベッドで二人、眠りについた。



 ・ ・ ・



次の日、将にいは早朝から出勤だった。



「はい、お弁当」

「ありがと」

「気をつけてね」

「行ってきます」



将にいを見送ってから、

やっぱり靴を履いて追いかけた。



「おっ?」

「たまには駅まで一緒に歩こうかなって」



一瞬何かを考えて、それからすぐに

私の唇に短いキスをした。

そのときは、何が起きたのか分からなくて戸惑った。



「えっ?…えっ??」

「今朝は早くてよかったな」

「ちょ、ちょっと…!」



意地悪く笑う将にいが愛おしかった。


あの屋上以来、初めて外でしたキスだったからか

初めて、本当の私たちを表に出したいと思った。

そこで私は、将にいの手をそっと握ってみた。


将にいも黙って、指を絡ませてくる。


どうしよう、にやけが止まらない。

幸せすぎてどうにかなってしまいそうだ。



「今度、浩介おじさんのところに行こうな、二人で」

「うん、二人で」


「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」



日曜の朝、ほとんど誰もいない改札で

将にいを見送った。

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