夏休みスペシャル大作戦③

佳月はラケットを手離し、

壁にもたれるようにしてしゃがんだ。



「本当は分かってたんだよ

 だから取られたくなくて告白した

 でも、やっぱ駄目だった」

「…佳月、すげえな」

「え?何が」

「自分にすごく、素直だなあって」

「なんだよ、それ」

「俺は調子者だけど、いざって時ひよるし

 佳月みたいにすぐ行動に移せないっていうか…

 羨ましいよ、ほんと」

「智也だって結構正直者じゃん」



顔や声は笑ってるけど、目は全然笑ってない。



「そんなことないよ、佳月はすごいよ」

「褒めたって何も出ないぞ」

「俺はただ…佳月のそういうところが好きっていうか…」

「ははっ…智也に好きって言われるとは思ってなかった」



佳月の声が震えたような気がして、智也は横を見る。

切れ長な目から、涙が一直線に流れていた。

幼馴染の智也でさえ、佳月の涙は滅多に見ない。


思わず、頭を手のひらで包んで

智也は自分の肩に抱き寄せていた。



「は…?何してんだよ……」

「ここで泣いてたら、変な奴だと思われるだろ」

「男同士でこんなことしてる方が変だろ」

「そんなことない」

「それに、お前も変な奴だと思われる」

「そんなの、関係ない

 …嫌なら、やめるけど」



自分の心拍音が聞こえていないか、智也は心配だった。

そんな心配も数秒で終わり、佳月はさっと身体を離した。



「俺を慰めようだなんて、百年早いぞ」



┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉



「あ、おかえり〜」



見慣れたイケメンコンビが颯爽と歩いてくる。

ここがランウェイでもレッドカーペットでも、十分絵になりそうだ。



「何してきたの?」

「テーブルホッケー」

「へえー!楽しそう!」


「ん、んん…」

「あ」

「うーん?…あれ?寝てたぁ?」

「がっつり寝てたよ、おはよ」

「おはよぉ…」



ようやく目覚めた眠り姫を連れて、

佳月と智也が遊んでいたゲームコーナーに来た。



「私もテーブルホッケーやりたいなぁ」

「さっき俺、智也に負けたから智也とやったら?」

「え?そうなの?意外」

「意外ってなあ…」

「じゃあ智也!一緒にやろ!」

「おう」


「芦野、眠気覚ましにモグラ叩きでもやるか」

「やるやるー!」



晴香と佳月も大丈夫そうだね。

なんだか二人の様子からして、

あんまり上手く行かなかったみたいだけど…。



「智也、大丈夫?」

「うん、まあ」

「ごめん、余計なお世話だった…?」

「いや?」



智也のシュートが勢いよく決まる。



「奏美の気持ち、めっちゃ分かった」

「え?私の気持ち?」

「うん」

「(どういうこと…?まあとりあえず

 モヤモヤがひとつ消えたみたいで良かったけど)」

「(佳月でも敵わないわな、ありゃ)」


 ・ ・ ・


「おおっ!最高記録きたーっ!」

「なあ、芦野」

「うん?」

「…お前、なんか企んでるんじゃないか?」

「え?企んでるって、何を?」

「いや、何をってそれを聞いてるんだけど…」

「よっし!金色連続ゲットー!」

「ちょっと…芦野?」

「ねえ、なんで私が佳月くんのこと諦めたか、分かる?」

「えっ…、いや、さあ?

 (諦めてたのか…まあそれはそれで全然いいけど)」

「ふふっ」



晴香は、いじらしく笑ってみせた。



「私よりも、佳月くんのこと

 ちゃんと大好きな人がいるからだよっ」

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