夏休みスペシャル大作戦②

「俺はこれで…佳月はこれかな

 奏美と芦野は?決まった?」

「うん」

「おっけー

 …すみませーん」



ボウリング場のすぐ裏手にある売店で、

それぞれ飲みものを二つずつ買った。



「おおー、冷た」

「そうだね…」



どうしよう。

気になる。

気になって仕方ない。

ここで思い切って、聞いてみちゃおうかな。

どうしようかな…。



「奏美?」

「へっ?」

「どうした?何か落し物でもした?」

「あ、いや…」

「ん?」

「その…智也、最近なんか様子が変だから

 なんて言うか…気になっててさ」

「え…っと

 そんなに、変だった?」

「変っていうか、その…

 佳月と何かあったのかなー?的な?」



ああ、俯いてしまった。

そうだよね、嫌だよね。

誰にでも、干渉されたくないことの

一つや二つ、あるよね。



「ごめん、やっぱり何でも…」

「最近さ、すっごいモヤモヤするんだよね」

「え?」



整った横顔が、斜め上を見上げる。



「佳月は奏美のこと、まだ好きなのかなって」

「私のこと?」

「だって、あいつに告られてるだろ?」

「知ってたの…?」

「そりゃ俺だって、二人の様子見てれば分かるよ」

「意外と分かりやすかったかもね…」

「でも、奏美は振ったでしょ?」

「うん…ごめんなさいって言った」

「それで、奏美と先生のことで色々あって

 何となく流れていたけど…

 なんか、すっげえ気になるんだよなあ」



そうか。そうだったんだ。



「なーんでそんなこと気になるんだろうな」

「………」

「マジで、ほんとに気になって仕方ないんだよ

 見ていてやっぱり奏美のこと好きなんだなって思うと

 なんかこう…モヤモヤするっていうか…分かる?」

「……うん、すごく分かる」

「ほんと?分かってくれる人いて嬉しいわ」

「……」



私も前に、なんでだろうって不思議なほど

モヤモヤして、ズキズキしたことがある。

智也も同じなのかもしれないと、なんとなく思った。


手に持ってる飲みものから、水滴が零れ落ちる。



「ねえ、智也」

「ん?」

「あんまり難しく考えないでさ

 こう…もっと自分に素直になったらいいんじゃない?」

「自分に、素直?」

「そしたら、理由が分かるかもしれないし

 仮に分からなくても、それはそれでいいし」

「分からなくてもいいのか」

「とりあえず、フラットな気持ちでいてみたら?

 そしたら自然と、答えの方に傾くと思う」

「…ポエマーになったのか?」

「ひどいなぁ、詩人だって立派な職業だよ」



ハンカチで結露を拭き取って、二人の元へ戻った。




「あー!やっと来たー!」

「ごめんごめん!私が何飲もうか悩んじゃって」

「奏美なら許す!

 さんきゅー智也」

「おう」

「晴香、寝ちゃったの?」

「そうなんだよー、俺の肩でぐっすり

 全く、まだ俺の事狙ってんのかねえ」



そういう佳月も、全く相変わらずだねえ。


智也の横顔をチラッと見る。

その目線はひたすら、佳月のことを見つめていた。



「私が佳月のとこ交代するからさ

 晴香が起きるまで二人で何か遊んできたら?」

「えっ…ああ、そうだな!佳月行こうぜ!」

「俺さっきので肩痛いんだけど…」

「はいはいっ、行ってらっしゃ〜い!」



無理やり佳月を押し出して、智也に預ける。

二人きりになれば、何か話せるかもしれない。

なんとか上手くやってよ、智也!



┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉



「ゲーセンも久々だなあ」

「何する?」

「うーん、テーブルホッケーでもするか」

「肩死んでるんだって…」

「佳月は両利きだろ、反対の腕使えばいいじゃん」

「へいへい…」


カコンっカコンっ


「ガキん時よくやったよね」

「懐かしいなあ」

「佳月しか友達いないのかってよく親に心配されたよ」

「それは俺も一緒」


ブルーに1点。


「なあ、佳月」

「んー?」

「奏美のこと、今でも好き?」

「えっ?」


レッドに1点。


「今なんて?」

「だから、奏美のことまだ好きなのかって聞いたの」


レッドに1点。


「そりゃあ…気持ちは変わんないよ」

「…そう」


ブルーに1点。


「なに、やっぱり俺も好きとか言い出す感じ?」

「そういうんじゃないけど」

「じゃあ何」

「いや…別に…」


ブルーに1点。


「でも、奏美は俺のこと、絶対好きにならないんだよなぁ」

「そうなの?なんで分かるんだよ」

「分かるから」


レッドに1点。


「理由になってねえじゃん」

「でも、分かるんだよ

 奏美が見てるのは、俺じゃない」


レッドに1点。


「奏美…好きな人でもいるのか?」

「………」


レッドに1点。


5点先取。智也があっさり勝ってしまった。

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