ガンマニア

高黄森哉

スポイラー

 俺は宇宙1のガンマンを自称する男。今日は、早打ちの世界大会が開催されるのだ。そう、世界大会。世界とは全宇宙のことである。バーを兼ねた待合室には、異形の宇宙人どもが雁首を揃えていた。俺はシングルアクションのリボルバーのシリンダーを勢い良く回転させ、手首のスナップで収める。


「おいおい、あんさん、そんな扱い方してたら銃、壊れまっせ」

「分かってら」


 向かいの赤いソファーに座っていた、ヲタクの成りをした大会参加者がたしなめる。

 そりゃあ、そうなのかもしれない。だが、そういう演出は見るもの読むものを盛り上げるのは確かだ。それにそんな些細なことで銃は壊れたりしないだろう。


「いやぁ、それでも大切に扱って欲しいものですね。それに銃口管理がなってない。銃口は人のいない場所に向けるのがマナーでっせ」

「明後日の方向に向いてたら、絵にならないじゃないか」

「いやぁ、でもねぇ」


 これだから、ガンマニアは。自分らがノイジー・マイノリティであることを理解してるのだろうか。少数派にすり寄って何になる。分り易さが求められる現代において、リアリティを追求することは敬遠されるべきなのだ。演出については素人なくせに、何様なのか。まさか専門家だとは思ってないだろうな。


「……………… いやぁ、でもねぇ」


 俺はぼそぼそ呟くガンヲタクを無視し、酒を飲むためにカウンターへ向かった。


[対決!]


 ようやく俺の番が回ってきた。俺はシリンダーを回転させようとしたが、どこからともなくあのヲタクが湧いて来て、俺を非難する展開が読めたので止めた。

 闘技場にでると三百六十度観客で埋まっていた。円形の広場に半球のエネルギーシールドがかぶせられている。

 

「ほほぅ、また会いましたねぇ」


 最悪なことに、あのヲタクが相手だった。小太りの体を上下させ、息をしている。そとに出てないからだ、俺はそう思った。

 俺たちは背中合わせになる。十歩進んでその瞬間が決着の時だ。

 

「では用意! 」


 ふー、と息を吐く。深呼吸、深呼吸。


「十!」


 一歩進むと、血管が波打つ感触が皮膚の下に感じられた。


「九!」


 また、一歩進むと心臓が内部のすべての血液を送り込んでしまったかのように、収縮し熱を持つ。


「八!」


 と、ここでくどいので監督によるカットが入る。別のシーンが挿入されて間を埋めることだろう。それでは最後の一秒から再開である。


「一!」


 俺はターンすると引き金を引いた。あれだけ知ったようなことを言ってた割にはあっさりとした最後。きっと、知識だけで本物の銃に触れたことなどなかったのだろう。


「ちょっと、タンマ。ちょっと、タンマ」


 ヲタクが立ち上がる。お前は死んだはずだ。


「その銃はシングルアクションだから、撃鉄を起こさないと打てないの! だから銃弾は発射されてない、銃声も出なかったでしょ! はい、仕切り直し」

「それを叙述して一体誰が喜ぶんだ?」

「いやいやいやいや、喜ぶとかじゃないの!」


 俺たちは仕切り直した。


「二!」

「一!」


 俺はホルスターから銃を引き抜くと同時に撃鉄を左手で倒した。この銃に装填されている球は拡張弾頭。なお、シリンダーは回転させず丁寧に押し込んだ。これは銃を傷めないための職人の知恵である。照準を右目で瞬きをしないように意識しながら覗く。右足は踏ん張れるように一歩後ろに。そして引き金を引く。この引き金はテンションを弱くしている、オーダーメイド品だ。引き金、撃鉄、シア、そして弾丸。爆発の膨張によって加速された弾頭は薬きょうを残して砲身を進む。螺旋に削り出された溝により回転が発生した弾丸は重力や風、無視できるほど小さいコリオリ力を受け飛んでいく。きっと、頭蓋内部でポップコーンのように避けた弾頭は脳みそへ修復不可能な損傷を発生させるのだ。


 だけども、銃声はならなかった。


「ストップ! ストップ! ストーップ!! ほらまたやってるよ。いいか、銃ってのはねえ!」


 また始まった。


 俺は、つまらないなと感じていることを観客に表現するため、リボルバーのシリンダーを回転させてみせる。何も入ってないシリンダーを回し、そして照準など覗かず、撃鉄も起こさず、ただかっこよく砲身が埋められたピストルを構える。そして、引き金を引いた。



 BANG!


 

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ガンマニア 高黄森哉 @kamikawa2001

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