褐色美少女の優雅な一日

サリア

第1話 空港でのこと

新しい門出を祝うように、きらきらと、ガラス張りの高い天井が輝いている。

空港にはたくさんの人が集まり、きょうもまた、この国から出ていく人、帰ってくる人であふれかえっている。


ある少女は、そんな人々の姿を、固いシートに座りながら見ていた。少女は大きなバックパックを自分の腹のあたりに抱え、ピンとした姿勢をしながらぼんやりとした目を向ける。


(あぁきょうも会えないのかな…)


正面には外国への観光客が列をなしている。

少女は大好きながらも、いまだ一度も会えたことのない空港のマスコットキャラクターを探していた。毎日、学校終わりに空港に来ては、空港のマスコット、“キャビアン”がきてくれることを期待している。


少女は褐色系の肌を持っていた。いわゆる、白人と黒人の混血だ。目鼻の造形は非常に整っていて、まるで絵本からそのまま出てきたような美しさだ。

身長は120センチメートルばかある椅子に座るとほぼ隠れてしまうくらいの高さであるが、それでもそのスレンダーな体系と儚げな表情は人目をひきつけてやまない。



彼女の顔が不意に輝く。



彼女の姿に無意識に目を惹かれていた人々はその表情の変化に、思わず笑顔がこぼれてしまう。何か良いことがあったのだろうか、もしかしたら外国にいた家族を待っていたのかもしれない、もしくは親友か何かだろうか、様々な憶測が人々の脳裏に駆け巡る。


そして、少女は席を立ち、何かを見つけた方向に駆け出そうとし––––––––なにかを見つけてさっとうなだれた。


人々はまた、その表情の変化に戸惑う。

な、なにがあったのだろう、人違いだったのか、いやそれとも飛行機を逃してしまった?私なら次のせてあげるけど…(20代女性キャビンアテンダント)


少女はまた、ぼんやりとした目でどこかを再度見続ける。

(キャビアンかとおもったのに…)

彼女が見たのはキャビアンの対抗キャラクター“テンダン”だったようだ。


(テンダンは探してないのっ)


ぷくーっと一瞬頬を膨らませたかと思いきや、すぐにまたボーっとする体勢に入った。


人々はその儚げな表情にまた、心を惹かれ飛行機を待っていることも忘れて見入ってしまう。


そんな注目を浴びていることなどつゆ知らず、少女はまた考えていた。

(あぁ、たこやき食べたい)


少女は大阪に住んでいた。日本に旅行へ来たときに出会ったアニメや漫画に心を奪われ、一年前にイギリスから留学を果たしたのだ。


今はイギリス人の母の友人宅に住んでおり、毎日、新たな出会いに目を輝かせながら生活している。


日本の母レイネはいつもおいしいたこ焼きを作ってくれる。

不意にレイネが前に作ってくれたたこ焼きの味を思い出す。


(あれはほんとうにおいしかった)


少女はおなかのすき具合を感じ、今度はいままで見つめていた方向とは真逆の方向を向くことにした。たこ焼きがそちらにあると思ったのだろうか、今度はバックパックを背中に背負い、椅子の背もたれを抱えるような形で反対側を見始める。


大きなバックパックには、キャビアンのグッズがたくさん詰め込まれており、いつキャビアンが現れてもサインをもらえるように、と準備をした結果らしい。


人々はまた驚いてしまう。なんと、キュートな姿か!あんな風に抱きしめられたい!(20代女性)あそこの背もたれ、俺と変わってくれないかな(30代男性)あの子、なにさがしてるんだろう、周りの目が怖いからしっかり私が守ってあげないとね!あわよくば…手っとかつないじゃったりして!(50代女性)


(んん…でも、やっぱだめだ、レイネさんここにいないもん)


たこ焼きに目を奪われていた少女は再び心の中でこんなことを思っていた。


少女はうなだれて、今度は少し悲壮な雰囲気を醸して椅子に座りなおした。


その悲しく、ドラマのワンシーンかのような変化にまた人々は心を揺さぶられる。

くぅ、誰だあの子にあんな悲しそうな表情をさせる奴は!(20代男性)あぁ、なんて美しい表情なの…(70代女性)くそっ、なんで俺はあんな子供の顔から目が離せないんだ!(30代社畜)


この予期しない少女と人々との戦いは、少女の保護者であるイギリス人の女性レイネが来るまで終わらなかったという。


「ほら、たこ焼き作ってあげるから、帰りましょう?」

レイネさんの優しい声が少女の鼓膜に届く。「うん!そうする!」脊髄反射のようにその言葉に元気よく答えた少女はレイネと手をつないでルンルン気分で空港から去っていった。



忘れられたキャビアン–––––––––

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