第13号線「水没都市へ」
レンの爺さんが何者なのか、どんなルートで二輪車などを蒐集していたのかは、いずれ機会があれば聞いてみることにし、当面、俺達はレンの宝探しに付き合う事にした。
「オヤジ、この場所、心当たり無いか」
レンから携帯端末を預かり、写真をオヤジに見せるも、オヤジには心当たりは無いらしく、
「何だこれは。…いやぁ、これだけじゃあ何とも分からんぞ。そもそもこりゃ何時の写真だ」
と、首をかしげて写真を見つめるだけだった。
「こいつの探し物なんだが、どうにも情報が足りなくてな。正直、現存しているのかどうかもわからん」
「まあ、空に人間の住居が移ってからというもの、地上の開発はめっきり無くなったから、人為的に解体されたり更地にされた可能性は少ないだろうが…、西の方はごっそり水没しちまったからなあ…」
オヤジは保護メガネを外し、遠くを眺めながらそう呟いた。
「水没都市か」
俺もオヤジと同じ方角を向いてそう呟く。
水没都市。俺はまだ行ったことは無いが、話で聞いたことはある。
地上で水没した道路や家屋はいくつもあるが、今居る整備場から西に10km程進んだ先は、窪地に築かれた町の全てが水没してしまっており、Walkerの間では「水没都市」と呼ばれていた。5階以上の高さの建物は上層階が水面から突き出しているが、都市と言えどもそこまで規模の大きな町ではなく、そんな建物自体、10軒もない。
町の中心だった時計塔は文字盤が水面より上で、保存団体がいたらしいが、最近はめっきりそんな話も聞かない。
「もし水没都市の中にあるんだとしたら、潜水服でも用意せにゃぁ、見つけるのは難しいだろうよ。…いや、それ以前の問題か。何の目的かは知らんが、最近あそこらで政府の役人だっちゅう輩がウロついてるみたいでな。子攫いのWalkerとでも勘違いされたら、探し物どころじゃぁねぇぞ。お前さんは愛想も悪いからな」
「大きなお世話だ」
俺はそう吐き捨て、遥か遠くの水没都市から顔を背けた。
「ルリハ」
「は、はいっ、なんでしょうか」
「水没都市の概要と、そこまでのルート、わかるか」
俺がそう尋ねると、ルリハは「もちろんです」と、すぐに説明してくれた。
「昔は葱川町と呼ばれていた町ですね。84年前に閉町してゴーストタウン化していましたが、町の水没が始まったのは20年前、葱川のダムが地震で決壊したことで、徐々に水没してしまったみたいです。鉄筋コンクリート造のビル7軒と中央の時計塔以外、全て倒壊、または水没しています。政府関係者が立ち入る理由については…、公表されている情報の中では、該当するものはありません。ルートについては、旧国道を道なりに進めば、特に支障無く辿り着けます。目的地に指定しますか?」
さて、どうするかな。
レンの探し物がそこにあるか分からないが、未踏の場所に興味はある。
「んー…。まあ、行くだけ行ってみるか」
「分かりました。くれぐれも、安全運転で」
俺達はレンを連れて、水没都市を目指すことにした。
レンの二輪車はハチヤの親父に預け、簡単なメンテナンスだけ依頼した。
「ケッ、高くつくぞ」
親父は二輪車を預かるなり、憎まれ口を叩いた。言葉とは裏腹に、マシンを消耗品と考えないレンの態度を気に入ったらしい。この偏屈親父が好みで仕事を選ぶことを、俺はよく知っている。
「今度、茶でも奢ってやるよ。いい店を見つけたから」
俺はそう言って、水没都市へと車を走らせた。
旅に出ることにした 44 @Ghostshishi
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