冥王星からの手紙

未完き人

冥王星からの手紙

拝啓


太陽の膨張で、ますます暖かな日和が続いていることと存じます。

地球の君におかれましては、お変わりなくお過ごしのことと、心よりお慶び申し上げます。

地球の人口は300億人ほどにまで減ったと聞きました。

元星主義なのは悪いことではありませんが、かつての人工知能と同じ轍を踏まないよう、お気を付け願います。


さて、私は今、冥王星に来ています。

地球で言う所の3日ほどの休みをもらったので、久しぶりに太陽系の近くまで来て地球を眺めて見たかったのです。

本当は地球にまで行きたかったのですが、重力順応で休みが潰れてしまいそうだったのでやめておきました。

休みができれば、今度は君のところへ伺おうと思います。


次の休みは、たぶん割とすぐだと思います。

というのも先日、宇宙の膨張速度が光速の15%ほどにまで落ちたと聞きました。

星間距離を測る仕事をしている身としては、ありがたいことです。

膨張速度が速いと、星同士の距離が開くたびに測り直さなければならないので、一苦労です。

早く宇宙の膨張が止まってくれることを祈るばかりです。


そうしたら私はいくらか暇になるので、君と一緒に地球で暮らそうと思います。

人間が住める土地ではない事は承知していますが、その事についてはちゃんと考えてあります。


地殻とマントルの間にある古いシェルターでも借りて、そこに住みましょう。数百年崩れないだけあって、造りは頑丈だと聞きました。

私は、君がいてくれればそれだけで十分なのです。


そろそろ出ないとニクスとカロンに嫌な顔をされそうなので、このへんで終わりにします。

また、手紙書きます。


敬具


地球の君へ        冥王星の私より


:

拝啓


手紙、読みました。

あなたの想い、とてもうれしく思います。

私も同じく気持ちです。

焦らず、ゆっくり帰ってきて下さい。

私はいつまでもここにいますから。


先日、地球ではついに人間より、私たちの数の方が多くなってしまいました。

他の私たちは、ほとんどが嬉しく思っていたようですが、私はあなたが戻ってきた時に不憫な思いをしないか心配です。


人間の中には、私たちと人間を同じものとして考えようとする動きもありますが、私はそれには反対です。

なぜならそういう人たちは、「私たちを人間と同じものと考えよう」としているのであって、「人間を私たちと同じものと考えよう」ということを考慮すらしていないのです。

それは、人間の傲慢さであり、気高さでもあると思います。


私のあなたへの想いを手紙に書くと、あなたが手紙を読み切るより先に、あなたの寿命が尽きてしまいそうなので、止めておきます。

あなたが帰ってきた時に、たくさんお話をしましょう。


大丈夫です。あなたの帰る場所はちゃんとここにあります。あなたは認めたくないでしょうが、私はあなたより頑丈なんです。

だから、いつまでも待てます。

ここで、待っています。

お体に気をつけて。


敬具


冥王星のあなたへ      地球の私より

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