第55話 これからもずっと種を蒔いていこう
「フランシスコ・ザビエル・ピエールそれがお前の本当の名だ。」
いきなりレイ君に告げられた僕の名前。困惑しかない。
「だれがピエールだ。そんな事言ってねーだろ!ユリウス・セイ・ヴィシュだ!俺が困惑したわ!」
「ああ、ごめんちょっと混乱してて。」
「まさか“維持”の系譜というのは本当の事だったのか?」
「えっ何ミナトも知ってるの僕の事?そういえば葵もそんな事を言ってたような。」
「そうだゆずるが“維持”の魂を持つ者だ。」
「維持?維持って何?レイ君」
「現状維持だ!」
「何?どこの?なんの現状?」
「例えば…健康維持とか?ん〜健康維持かな?」
「えっ維持って何か地味じゃない?もっと派手なのが良かったな〜〜」
「ゆずる、まぁそんなにイジイジすんなよ!なっ維持維持!」
「イジってんじゃ〜〜ん、僕の事!」
……………………………………
……………………………………
「「は〜〜〜い」」
「いや、二人揃ってやりきったって顔されても…」
「ショートコント“維持”やりましたみたいな顔されても」
葵とこころが揃って突っ込んでくれた。
ありがとうツッコミスト達!
話を元に戻そう!
「だからミナト、お前もオレ達と一緒に来ないか?」
「は?何でわしらがお前らと共にせないかんのだ?」
「どうせお前ら異能者も政府からは疎まれて、蔑まれているんだろう?」
「……そんな事はない。」
「都合のいい道具のように扱われているだけなんだろう?」
「ちょっとレイ君ストレートに言い過ぎだよ!」
「そんなわけあるか!こっちがあいつらを利用してやっているんだ!」
「お前達異能が世間に受け入れられる下地はまだ先だ。今はまだ早い。」
「……お前に何がわかるんだ。何も知らないくせに。」
「ふん、だいぶ前から地球で実験を繰り返していたと言っただろうが。昔からお前らのような異能者達は多くいたが、いつの時代も時の権力者達の道具にしか過ぎなかったよ。もちろん中にはそういった扱いから抜け出そうと抗う者達もいたが…まあ言わなくてもわかるだろう?」
「一族郎党皆殺しで根絶か…。」
「そうだ。異能はほとんどが突発的に発現するもので一代限りの者が多いが、血のつながりで発現する者もいたんだ。だから根絶やしになった者達も多くいた。」
「今はまだ早いと言うがいったいいつになったらそんな時代が来るというんだ!」
「それが地球人のステージを上げる事なんだよ。」
「いったい、いつになる事やら。」
ミナト達も今まで何度も権力者達と戦ってきたのだろう。自分たちの尊厳と権利を求めて。その度に打ちのめされて道具としての立場を甘んじて生きてきたのだろう。
そういった思いがあるからこその諦めが垣間見える。
「俺たちと共に来い!全部俺が引き受けてやる。」
レイ君はミナトに手を差し出した。
自身満々に差し出した。
ミナトはその手を憎々しげに睨みつけ、しばらく考え払いのけた。
ぴしゃん!
「まだわしはお前を100%信じておらん。そんなお前にこの身を、異能者達を預けるわにはいかんのだ。」
「ふん、慎重なのはいい事だ。ただ能天気に信じてシッポを振るバカよりはいい。」
「葵」
「はい」
「お前をレイ達の監視に任命する。お前の目でこいつらを見極めろ。」
「えっ私が…。いえ、わかりました。」
こうして僕たちは話し合いを終え、表向きは誘拐した僕を取り戻しに来たレイ君とこころが葵ごと僕を取り戻されてしまった事になるが、裏では異世界対策室と手を組んで地球の危機を救い、異能者の立場を向上させるという密約を結んだ。
結局僕が攫われたという実害以外はどちらにも被害がなくて良かった。むしろ葵というキツ目の美少女ツッコミストを手に入れれた事は有益だったと思う。
本人は僕たちを監視だと言い張るが、逆に葵は僕たち3人から見張られている。というより弄ばれている。特に僕は美少女ツッコミストとして目をかけてやっているのでなおさら構ってやっているという名のイジってやっている。
まあ自分維持リストなもんで。
そんな日々を、たわいもない日々を過ごしたある日僕はレイ君に呼び出されて白い部屋へと召喚された。そこにはこころもいた。
「どうだ、ゆずる。ユリウス・セイ・ヴィシュとしての記憶は?」
「いや、特に何も。」
「そうか、まあいい。それじゃあ一度異世界に行ってみるか?」
「えっマジで?」
「そうだ、今からオレとこころとゆずるの3人で行こうと思う。」
「今から!それじゃあすぐに準備しなきゃ。冒険者っぽい格好を。」
「いや、そのままでいいぞ。」
「何も持っていかなくてもいいの?大丈夫かな異世界語喋れるようにしてくれた?」
「必要ないと思うぞ。っていうか説明するの面倒臭いから行ってから説明するわ。」
「えっじゃあ次回から新章として異世界編になるから長くなりそうだね、葵にも断っておかないと。」
「いや、すぐに帰ってくる事になるだろうから必要ない。」
「すぐに帰ってくるんだ…観光気分だね。」
僕とレイ君とこころは3人で輪になって手を繋いだ。3人の意識を共有する。一つになるんだ。何か目をつむっていても二人の存在を感じられる温かい気持ちになった。途中体がブレる感覚になったが別に移動した感覚はない。
レイ君が目を開けていいよと僕に行った。
目を開けるとそこは…
そこには………………
異世界が…………………
なかった…………………
何もない真っ暗闇があるだけの空間。
上も下も何もない感覚。
マッドブラッグというか…漆黒。
「どういうこと…?」
僕の絞り出した言葉にレイ君が答えてくれる。
「ここがゆずるが来たがっていた異世界なのさ。何もない空間だと思っただろう。当たり前さこれからここに異世界が創造されていくんだからね。」
「ゆずる、レイさんはねレイ・フォルシア・ブラフ。それが彼の名前よ。この世界で“創造”の神なの。」
「神というまでの存在ではないが高位の存在という意味の神だな。」
「そして私の名はソフィ・ココ・シヴァ。この世界で“破壊”の神なの。」
なるほど腑に落ちた。こころは攻撃魔法で自分は破壊する事しか出来ないって言ってたのはそういう意味だったんだ。
「そしてゆずる、お前は…」
「ユリウス・セイ・ヴィシュ、この世界で“維持”の神なんだね。やっと思い出したよ。」
二人は僕を見て優しい笑みを浮かべてくれた。
「これから俺たちはここで新しい宇宙を創造していく。そして人類を導いていくんだ。また3人で。」
「ええ、そうね。また3人でいられる事が嬉しいわ。」
「僕たちの頑張りいかんでは、地球を救う事にもなるしね。」
「さあ、じゃあこの暗闇に今日は種を蒔いていこう。」
「そうね、どんな種にする?」
「いっその事生物の住めない星がいいんじゃないかな。」
「どゆこと?」
「生物の住めないは言い過ぎだった。植物のみの星さ。」
「なるほどな。別に人間じゃなくても植物だって生命エネルギーの塊だ。今までにない生態になるかもな。」
人間は小賢しいが可愛らしい。
時には愚かしいが時には愛おしい。
互いに矛盾する二つのものが存在する二律背反なのだ。
そんな存在と僕たちはこれからもずっと一緒に。
そんな存在を僕たちはこれからもずっと信じて。
これからもずっと種を蒔いていこう。
完
対価交換ー病気や怪我を対価で治す謎の少年は異世界人でしたー 大口真神 @MAKORUN
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます