第3話 時間を持て余す
「トメノさん、大変だ。やりたい事がない」
「良いじゃない、タケミさんはゴロゴロしてて良いのよ」
「70過ぎだからゴロゴロ出来たんだ。この身体じゃ力を持て余してる」
「あらあら、そうね。困ったわね」
「でしょ、困ったね」
「タケミさん、まずは日常生活から始めましょうね。朝ご飯は何にします?」
「そうだな、卵かけご飯が食べたいな」
「それよ!先ずは卵をどうにかしましょう。解決策を考えながら、お魚を釣って来て貰えるかしら。焼き魚で朝食が食べたいわ」
「よし、任せろ」
僕は麦わら帽と釣り竿を掴み、坂道を駆け下りて、昨日乗った舟に乗り、釣りに出た。波は穏やかで、揺れは少ない。針にフナムシをつけて、糸を垂らした。この辺の魚はスレてないので直ぐに釣れた。ホッケだ!幻のホッケだ!ホッケ、ホッケ、ヤリイカ。これ位にしといたろ。ヤリイカは釣り上げたホッケに抱きついて来た。
「トメノさん、大漁だよ。待っててね」
朝から畑仕事をしているトメノさんに声をかけると、釣って来た魚を持って台所に向かった、僕は台所で魚を捌いて、寄生虫を含めてクリーンをかける。それをザルに載せて庭に出る。ファイアで火を焚いて遠火で魚を焼く。外に調理台が欲しい所だね。
「トメノさん、ヤリイカはどう調理する?」
「そうね、イカ素麺にして」
「了解」
良い感じにホッケが焼けたので、テーブルに運ぶ。台所に戻ってヤリイカをイカ素麺にして、テーブルに運ぶ。
「トメノさん、出来たよ!朝ご飯だよ!」
畑に向かって声をかけると、トメノさんが戻って来た。
「お疲れ様。畑には何を蒔くんだい?」
「カブ、大根、牛蒡、かしらね。また、街に出てタネ探しをしたいわ」
「トメノさんはフィリピンとかマカオとかには行った事は無いの?」
「マカオには行ったかしら」
「ビンゴじゃないか!マカオに行ってみるのはどう?トウモロコシとかジャガイモとか有るかもよ」
「あらあらあらあら、素敵じゃない。タケミさんと行ってみたかったのよ。マカオでデートしましょう」
「じゃあ、近い内にマカオに行ってみよう。今日は街に出ようね」
「それで良いわ」
食事を終えて、暫しデッキで休憩タイム。いい風が吹くので、いつの間にか寝てしまった。
〜・〜
目が覚めると、トメノさんは居なかった。テーブルの上は片付いていて、何もする事が無かった。暫くボーッとしていると、『あ、そうだ、卵だ。僕には卵をどうにかするミッションが有ったんだ』と思い出した。洞窟の西側はトメノさんのテリトリーなので、東側の森を拓いて鶏小屋を作った。鶏小屋の前には、鶏を放す柵まで作った。何か調子が出て来た。鶏小屋を山頂に向かって登った所に、3本の太い木を見つけてスナップ、デッキ部分の広いツリーハウスを作った。あ、階段を忘れてた、スナップ。完成。
ツリーハウスに登ってみると、辺り一面が見渡せた。何か野草を摘んでるトメノさんが見えた。
「トメノさ〜ん!」
大声で呼びながら手を振ると、最初はビクッとして此方に気づき、笑顔で手を振り返してくれた。可愛い。森の妖精みたい。スナップ、デッキチェアを出して、飽きるまで眺望を楽しんだ。読書したい。
「椿の木を見つけたの。素揚げに使ってみたわ」
「小さいけど、何の鳥だろう」
「多分だけど、キジバトじゃないかしら」
「旨味がギュッとしていて美味しいね」
「うんうん、見つけたらまた狙っちゃおうね、ふふふ」
「午後なんですが、博多に行きませんか?珍しい物も見つけられるかも知れないし」
「あら、博多に行った事が有るの?」
「学生の頃ね、部活の大会で1度だけ」
「あら、初耳ね」
「フフフフフ、ミステリアスだろう」
「あらあらあらあら、私にだってタケミさんが知らない過去くらい有るわ、ふふふ」
ドキッとした。
「良いですね。おいおい聞かせて貰わなきゃね」
「あらっ、知らない方が良かったと思うかもよ、ふふふ」
ああ、こんな話しなきゃ良かったよ。困った顔をしていると、
「嘘よ、ウソ、ウソ、さあ、ご飯済ませて博多に行きましょう!」
感情を揺さぶられ、いつも掌で踊らされてしまう。トメノさんは止められない。
「さて、私はシャワーを浴びて来るわ、タケミさんはどうします?」
「そうだね、ここを片付けたら、トメノさんの秘密を探りに行くよ」
「きゃっ、恥ずかしい」
悪戯っ子の様にニヤッと笑って、手で顔を覆いながら、バスルームの方に駆けて行く。マジ小悪魔。さてと、さっさと片付けて、秘密を探りに行かなきゃ。
〜・〜
若いって素晴らしい。
〜・〜
この頃の博多には、ちらほらと輸入物が出回っている。僕は鶏さえ手に入れば良いので、トメノさんの従者と化している。まあ、荷物持ちだ。荷物持ちと言っても、人目が無くなると空間収納している。僕は昔からトメノさんの買い物姿を見ているのが大好きで、1日中アウトレットで荷物持ちしても苦にならなかった。トメノさんの表情の変化が見ていて楽しいんだ。
「あ、トメノさん、種籾は佐渡で買いましょう。その土地に適した種籾が有るのかも知れません」
「あら、その通りだわ」
「珍しい物を主に買いましょうね」
「そうするわ」
ニンニク、レタス、ニラ、シソ、キュウリ、ナス、あ、ほうれん草も有る。トメノさんはお店の人に栽培方法を熱心に聞いている。キュウリとかナスなんかは、苗でしか見た事無いけど、苗が有るって事は種も有るんだよね。なるほど、初めて見た。トメノさんの話しが終わったのを確かめて、店のおばさんに鶏が売っている所が有るか聞いてみた。なるほど、時告げ鳥か。
〜・〜
家に帰って鶏小屋に放してみた。空間収納は生物も大丈夫だったよ。あれ?トメノさんも収納出来るのか?怖いからやらないけど。鶏は全部で7羽。雌鶏6羽、雄鶏1羽だ。鶏小屋の一方に雄鶏と雌鶏3羽。もう一方に雌鶏3羽を入れた。雄鶏が居る方が繁殖用だ。食べる事を考えて名前はつけない。佐渡には大型動物が居ないらしく、1番の大型動物が狸みたいだ。でも狸も狐もイタチも鶏を狙うので、鶏小屋周辺に動物バリアを張った。逆に虫バリア圏外にした。
さてと、トメノさんを畑に見つけ、近寄っても気づかないトメノさんの肩を叩き、
「トメノさん、街に種籾を買いに行きますか?」
既にトメノさんは野菜の苗作りにかかっていた。
「明日にしましょうか?」
「そうね、明日にして貰えると嬉しいわ」
そう答えると、もう意識は野菜に行っている。一抹の寂しさを覚えながら、
「僕は海に行って来ますね」
もう聞いていない。僕は材木を空間収納に入れて、投網を持って海に下りて行った。
魔法が使えるのに戦国時代の日本に転生しました〜国盗りには興味ない〜 真夏さん @isawo
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