次回の診察にご期待ください

 色相科には白い人ばかりが来院しているのかと思いきや、白い人間は数少なかった。私の他には二人、いや今一人診察室に入っていったから一人だ。ぼんやりとした色味の薄い緑色や、紫を一たらし混ぜたような濁った黄色の人が多い。電車の中と色の構成はあまり変わらなかった。


 病院へ来るのは久しぶりだったので気づかなかったが、そうだ、病院というものは待ち時間が長いのだった。本の一冊でも持ってきていればいい暇つぶしになっただろうか。

 私以外の待合室の人々は、八割がぼんやりと宙を眺めていて、一割がタブレットで何某かをやりながら暇をつぶしているようで、残りの一割は私に注目していた。待合室にいる白い人間は私を除けば現在あと一人、注目が集まるのは仕方のないことだ。


 病院には観葉植物がつきものだ。この医院にも観葉植物が一鉢置いてあった。しかし、置いてあるだけだ。誰も観葉植物をじっくり鑑賞などしていない。私の家にも観葉植物などないが、これがあることで一体どんな効果があるのだろう。観葉植物のない私の自宅でも、私は十分にくつろげる。観葉植物のないカフェでも落ち着ける。そして観葉植物のある色相科のこの医院で、私は大変に居心地の悪い思いをしている。これは私が白色で一分患者に注目されているからということもあるが、白色の人間が待合室に一人もいなくなっても、誰かが観葉植物に注目するのか甚だ疑問だ。


 そんなことを考えてしまうほど退屈が募り募った頃、私の名前が呼ばれた。私の担当医は「あおい先生」というらしい。漢字表記は伏せられている。原則、医師や教師などという職業につく人間の表記は伏せられている。だから私は卒業した学校の恩師の名前もひらがなでしか書けない。


「白井さん、ですね」

「はい」

 色相科の医師は全身にマントをかぶっている。色相科の医師が何色なのかによって、治療の説得力に影響が出ることを防ぐためだ。

「最近、なにか体調とか環境とか、精神とかに何かありませんでしたか」

「私には何も変化がないと思うんですけれど」

「自分ではわからないんですね」

「ええ、まあ」

「じゃあ、とりあえず色相保険薬だけ出しておきますね。本日はありがとうございました」

「はい」

「ありがとうございました」

 どうやら診察は以上でおしまいのようだった。

「あとは窓口で処方箋を受け取ってください」

 本当に、これでおしまいのようだった。

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白い人間 天城春香 @harukaamagi

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