白い人間

天城春香

人生はからっぽでした

 そう言って窓口に来た人は、驚くほどに白かった。いや白いとかではない、向こう側が透けていた。どう見ても透明人間なんだが、白く濁った窓ガラスのような材質の人間だったので、輪郭だけが分かる。そんな特殊すぎる人間が、窓口にやって来た。


「あの、お名前は」

「白石透です」

 名前がそうさせたのか、それとも偶然か。白く透けている人間の名前としては出来すぎていた。

「それで、ご用件は」

 それでも県民謄本には名前があったし、先程述べてもらった住所も間違いない。ただ、身分証明書として出してもらった障害者手帳に写真が貼られていないは気になった。

「失業保険をもらいたいのですが」

「それれは別の窓口ですね」

 働いていたのか。一体何をしていたのかとても気になったが、そこまで突っ込むのは、流石におかしいだろう。私は失業保険の申請に行くための然るべき施設を紹介して、手続きを済ませた。


「白井さん」

 デスクに戻ると隣席の黒岩さんから声をかけられた。

「あなた、どんな人生だったんですか」

 黒岩さんの体はがっしりとした黒色で構成されている。きっとすべての色が混ざるくらい濃厚な人生を送ってきたに違いない。

「今日の色、ちょっとおかしいですよ」

「そうですかね」

 黒岩さんに言われるほど、今の私の色はおかしいのか。私はオフィス内の片隅にある姿見に自分の体を移してみた。

 透け始めていた。

「危ないですかね」

「今度の休みにでも、病院へ行ったほうがいいですよ」

「病院って日曜日でも空いてますかね」

「私は随分とお世話になってませんからね。土曜ならやってるんじゃないですか」

 とりあえず昼休みを利用して、色相科の病院へ予約を取ってみることにした。

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