第3話 将来

月日が経ち、12年の時は瞬く間に過ぎた。

気づけば姉のいた1ヶ月余りの事は夢だった様に感じ、あまり思い出さなくなっていた。でも、あの時計だけは何故か手放しきれなかった。


私は大学4年生になり、アテのない就職先を探し歩く日々が続いていた。それまでたくさんのことがあった。

中学になっていじめられたり、高校になって部活に入ったり、修学旅行で告白されたり、受験に失敗して挫折も味わった。大学で残り少ないキャンパスライフを楽しく過ごしていた、22歳の梅雨。


ちょうど近くのスーパーに行こうとした時だった。腕時計で時間を確認して、青に変わったばかりの道路を横断しようとした。だから信号無視で突っ込んできたトラックにはきづかなかった。

そして、轢かれた。

鈍い体。

意識が朦朧とし、驚きで脳がいっぱいの中、声が聞こえた。

 

「なにこれ。」

「そのうちわかるさ。」


歳の離れた姉妹の声。

一人は10歳の私。

もう一人は22歳の私。

これは走馬灯?


『12年前に戻りたい。』


心の中で強くそう願った。

すると、今まで動かなかった腕時計の4本目の針が動き出し、右回りにちょうど一周して止まった。魂が宙に飛び出し、12年前に戻る!



あの頃を思い出す。

夢だと思っていたあの日々。

もう一度会いたかった私。

懐かしい日々。

忘れたくなかった。



死ぬまでの49日間、私は過去の自分と過ごす。

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腕時計 霜月のよん @tommy-1104

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