第2話 日常

朝起きて、顔を洗ったり歯を磨いたりする時に洗面台にどっちが早く立てるか勝負する。

最近練習していたけど、やっぱりうまくできないから、髪を結ぶのは姉にやってもらう。

朝、ランドセルを背負ってる姿を見て「懐かしいなぁ」とぼやいていた。


学校から帰ってくると、ゲームを一緒にしたり、公園で遊んだりした。友達と遊ぶこともあったけど、その日は勉強を教えてもらうことにした。だけど二人とも同じ問題で煮詰まって、結局わからなかった。小学生の問題って案外難しいのね、って。


一人で風呂に入るのはまだちょっぴり怖かった。お母さんと入っていたけど、さっさと出てっちゃう。そうすると姉がこっそり入ってきて、「お化けかと思ったでしょ」とズバリ当ててくる。体つきが大人っぽくて、でもお母さんとは違ってた。今の私にはないものがたくさんついていた。

寝る時は同じ部屋で寝た。でも同じ布団で寝るのは流石にきつかったからお客さん用の布団を出してきてた。怖い夢を見たら一緒に寝てくれた。寝相が悪いのは今の私だけだろうと思ってたら、全然違った。むしろ姉のがやばいかもしれない。


姉妹だけど、姉妹じゃない。

双子の様みたいだけど、双子じゃない。

私だけど、私じゃない。



ある日、私は習い事のためにピアノの練習をしていた。「こんな曲よく弾けるね」と他人事の様に褒めたので、姉に弾くよう頼んだ。

姉は左腕に付けていた腕時計を外すと、「できないよ」と保証をかけておいて弾き始めた。まだ弾いたことがなくて聞いたこともない曲だった。左手の音や右手のメロディがぐちゃぐちゃになるのがわかったけど、私よりも上手なことがわかった。

でも、それより姉の腕時計に目がいった。針が4本ある。1年生の時に習った時は3本しかなかったし、今まで見たことなかった。「なにこれ。」と言う私の質問に、姉は「そのうちわかるさ。」と曖昧な返事で誤魔化した。

4本目の針は2と3の間を指していた。


その後姉はあまり喋らなかった。

独り言が多かった。

笑ったり涙ぐんだりはするけど、それだけ。

私が迷っている時は決まってふらっとどこかへ消えてしまう。

肝心な時にどうしていないんだろう。


姉は次第に家に帰って来なくなった。一晩中どこかに行っていたり、1日まるまるいなかった日もあった。1ヶ月と少し経って、夏休みが始まろうとする時、姉は完全に消えた。

お別れの付箋が食卓に貼ってあった。

「帰ります。ありがとう。夏海。」とだけ書いてあった。


しばらく泣くことしかできなかった私を親は不安そうに見つめていたけど、親は何事もなかった様に接するし、姉の服や、一緒に遊んだ形跡や、親に内緒で買ったお菓子までも無くなっていた。


ただ一つ、姉が付けていた腕時計が勉強机の上にのっていた。不思議な形の腕時計。時針、分針、秒針、そしてもう一本の針。それはちょうど12を指していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る