第4話
私は、自首をした。警察で事情を話すと、気の狂った老人と勘違いされたのだろう。早々に追い返された。
「心配したよ、爺さん。」
私が町へと戻ると世話焼きの若人が声をかけてくれた。3日ほど町を離れていたからだろう。もしかしたら、捜索されていたのかもしれない。
「古い知人に会ってきただけだよ。心配かけてすまないね。」
「本当だよ。家を空けるなら、せめて誰かに伝えてからにしてくれよ。」
「今度は、そうするよ。」
私は、若人にそう告げると教会へと向かった。
教会には牧師が1人で暮らしている。昔と違いこじんまりとした教会を目にして、時の流れを感じた。
ぎぃぃぃ、と教会のドアは鈍い音をたてた。掲げられた十字架の近くで作業をしている牧師に声をかけた。
「お久しぶりです。牧師様。」
「お久しぶりです。スカーレットさん。憑物は落ちましたか?」
牧師はそう答えた。懺悔室で長年私の話を聞いていたので、彼だけは検討がついていたのだろう。
「私はいつから間違えていたのでしょうか。あのような者達の口車に乗せられた時からか、引き金を引いて人を殺した時からか。それとも、そのずっと前から間違っていたのでしょうか。」
私は牧師の横に立ちそう口に出していた。
「人は誰しも間違えるものです。私もそうです。あなたを救えなかった事。それは私の力不足であったと今も思います。」
「かつての私は信仰を持てば必ず救われる、と思っていました。しかし、それは誤りでした。正しい信仰を持つことが救われる唯一の道なのでしょう。昨日、ライフルの引き金を引けなかった時にわかりました。」
「それは難しいことです。私にも何が正しい信仰なのかはわかりません。ただ、あなたが過ちを繰り返さなかった事。それだけは主の思し召しだったと思います。」
「今更気がついても遅いのかもしれません。」
「いいえ。決して遅いなどということはありません。」
私は神に祈っていたのではなく、神に願っていたのだと、あの瞼を閉じた時に理解した。それは、信仰では無い。神にすがっているだけだ。だから、心の隙間を悪魔や他人に入られるのだろう。
「また、教会に通っても良いですか?」
「主は何時でも誰だろうと歓迎してくれますよ。」
牧師がそう告げると、教会の奥へと日が差し込んできた。既に夕時となっていた。日は落ちてまた登るのだろう。それだけは生まれてこの方、変わることがない。
私は椅子に座り目を瞑った。ここ数日の疲れがどっと襲ってきた。今度は開けるまで大分時間がかかりそうだ。
神様、もう一度だけ あきかん @Gomibako
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