第3話

 あいつの手掛かりを掴んだのは最近の事だ。事件からは数十年は経過していた。スコープを覗いて見える公園のベンチには老人とその孫が座っている。

 考えてみれば簡単な話だった。政敵である組織が暗殺を企てた。それにまんまとのった馬鹿の1人が自分だったのだ。

 何人か同じような人がいたのかもしれない。それはもう知るよしもないだろうし、自分が知ることも許されないだろう。

 そんな事はどうでもいい。目に映るのは楽しそうに孫と遊ぶ老人とその家族の姿。終ぞ自分には持つことが出来なかったものだ。あの日以来、私は悪夢にうなされて、物を握ると利き腕はわずかに震えるようになった。これでは仕事も禄に出来ない。それでも町の住人は優しくしてくれたのだろう。だからこれまで生きてこれたのだ。

 しかし、それが辛くもあった。許されない罪人の私が優しくされるなどあって良い事とは思えない。次第に町人との関わりは少なくなっていった。

 私が未だに死んでいないのは、彼奴等に一泡吹かすためだ。目の前のあいつに銃弾を食らわせる。それだけが生きる気力をわかせてくれた。

 照準を合わせる。手が震えだす。私は何年かぶりに主への祈りを捧げた。


天にまします我らの父よ

ねがわくは御名をあがめさせ給え

御国を来らせ給え

御心の天になるごとく地にもなさせ給え

我らの日用の糧を今日も与え給え

我らに罪を犯す者を我らがゆるすごとく我らの罪をもゆるし給え

私に勇気を与え給え

アーメン


 スコープから見える家族団欒に怒りがわき、手の震えは益々激しくなるばかりだった。

 目を瞑る。真っ暗な瞼の裏には何も映らない。直ぐに目を開けて、私は引き金から指を離した。

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