狙撃というものは、人間の精神と肉体の耐久性を極限まで追求するような行為です。そのような状況にしばしば人は神を見出すものですが、本作は「狙撃する」までではなく「狙撃した」後のお話。
政治的・宗教的事情から、狙撃による暗殺を試みた……という出だしは中々ピーキーなネタだと感じますが、そのへんの政治的背景がボカされているのは巧いバランスだと思いました。下手に実在の何かに寄せたり匂わせないのは大事なので……。
熱心な信者のようでありながら、主人公の行動や考え方に違和感を覚えていたのですが、それが最後に綺麗に回収されていて膝を打ちました。
そして、タイトルの意味!
それまであまり好きになれなかった主人公でしたが、彼が最後に選んだ行動で、初めて「悲しい人だな」と私の中でキャラクターが立ち上がりました。彼の人生に想いを馳せると、しみじみと湖水のような冷たく澄んだ余韻が広がります。