これは信頼できない語り手かな? と思いながら読んだら、おや、様子が違うぞ……と転がされ、あの結末。読者がそう予想するのも、実はきっちり考えてのことなのでしょう。
特にラストシーンは白眉! 語り手の女性が見ているものが、映像としてちゃんと読者の脳裏に結ばれるよう演出され、「ひぃ」と戦慄が走って落ちる。
語り手はこれから、祟りなりなんなりで〝死ぬより悪いこと〟になりそうなのですが、わりと彼女にも非があるのも、良いバランスだと思いました。
超常存在のことを抜きにしても、普通にまずいこといくつもやっていますからね……。
ホラーにも色んな種類がありますが、個人的にただただ胸くそ悪いだけ・インパクト重視なだけ、みたいなホラーは苦手でして。そのへん、静かにしかし確かに恐ろしいジュージさんのこういう作品は大変好みでした。面白かったです。
尾八原ジュージさんによる、お得意のホラー小説です。
舞台はノスタルジックな薫り漂う昭和三十八年の日本。ひとりの少女を語り手として、彼女とその姉、つまり五歳年が離れた姉妹の物語が綴られてゆきます。何か冷たい手触りの感じられる世界にやがて姿を現すのは、姉妹の家に古くから祀られていた怪しの蛇神で……という、一種のまあ幻魔怪奇譚といったようなおはなしです。
小説技法としてはいわゆる「信頼できない語り手」と呼ばれるタイプのもので、客観的事実として結局何が起きていたのか判然としない部分も多いのですが、しかしそれがかえって和風伝奇的ホラーとしての情感を否応もなく高めている……という、小説ぢからのつよい作品でした。語り手の狂気がもう本当に怖くて、そしてその語り手の言葉を通じてしか作品世界にアクセスできないというのも本当に手触りが冷たくて。