Melusine
@akai4547
第1話
ある所に男の子が住んでいました。男の子は人の目を惹きつける美しい容姿を持ちながらも、人間の心を持っていませんでした。
男の子が遊んでいると、お母さんが来て言いました。あなた明日から小学生になるのよ。
学校に連れてこられた男の子は何をして良いか分かりません。
周りにいる一人一人が自分と同じ人間だと思えないのです。どうして自分がそこにいなければいけないのか分かりません。
あれはまだ毛も生えそろわない小学生のことだ。何年生だったかは正直覚えていない。ただ良く晴れた熱い日だったことを強烈な生臭さと共に覚えている。その臭いの元は海のように一面広がった血の海だった。
小学校では些細な言い争いから殴り合いの喧嘩になることは日常茶飯事だった。誰のカレーが多いだとか、おかわりの牛乳を誰が飲んだだとかそんなどうでもいいことで喧嘩した。
そんなある日、k君が包丁を盗んで持って来た。錆びた大きい包丁だった。赤くこびり付いた血みたいに錆が浮かんで、それがいかにも物騒だというのが小学生の自分にもわかった。
包丁を盗んだk君は、それをズボンの背中側に隠していた。そして、先生に宿題を提出する時の列に割り込まれたとかそんなどうでもいい理由で友人に包丁を突き付けた。相手は顔も名前も知っている友達だった。運動は得意じゃないけどお調子者。k君はいつもその子に喧嘩で負けていた。
錆びた包丁は、切る所だけは研がれていてギラリと光った。k君は怖がらせるのが目的だった。小学生でも勿論、刃物なんて向けられたことがある人なんていなかったから、誰だってすぐに謝るのは想像できた。
でもそうはならなかった。
宿題の提出列がいつもよりも長くて、列の前の方でおしくらまんじゅうをして遊び始めていた。
ドミノを倒すように列の前から順繰りに同級生が倒れてくる。
あっ!と声を出す瞬間には、k君の手にあった包丁は、前に立っていた友達の手に刺さっていた。
まるで粘土で作った手に包丁が突き刺さったようだった。手の腹から手の甲にかけて真っ直ぐに突き刺さっていた。
傷口から赤い血が真珠のように丸くしみ出して、ゆっくりと床に垂れる。
反射的に引き抜かれた包丁が硬い音を立てて床に転がった。
刺してしまったk君は顔を青白く変えて行った。
「ぼくはやっていない……ぼくじゃない……」
異変に気が付いた先生が駆け寄ってきたがそれが質の悪いいたずらか、絵の具を手に零しただけだと思ったようだった。
8月の終わり、宿題の提出日。
いつもと変わらない日常。誰かがやっていない宿題を忘れたことにする二学期。
でもその日はそうならなかった。
「綺麗だね」
彼がそう言ったから。
教室の椅子を引く音で目が覚めた。
今日は8月31日。夏休み明けのけだるい空気が流れる教室の中で、みんながシャンと席を立った。
瑠璃は慌てて席を立ち、皆に紛れるように浅くお辞儀をした。
生まれつき色素の薄い茶髪がゆっくりと風に揺れて、少なくない同級生の目を惹きつける。
瑠璃は高校生になった。中学での成績はまあまあ、第一志望の進学校には勉強面で問題があり落第。第二志望は内定辞退者の枠にギリギリ滑り込んだ。
中学で顔見知りとなった同級生とはすっかりバラバラになって居心地の悪さは悪化の一途をたどっている。
高校生にもなると皆色めき合い、付き合う相手を探しているのが人間関係に強くない瑠璃にも分かった。
「るい君はぁ、彼女とかいるの?」
「僕の名前はルリって読むんだ」
瑠璃はめんどくさいなと思いながらイヤホンを外した。
でも笑顔を忘れない。相手が何を考えているのか分からないから。
知らない女の子だった。お菓子のような、花のような匂いがする。
部活で焼けたのか、褐色の肌が彼女の活発さを表しているようだった。
「彼女はいないよ」
「えーうそー!! じゃあさぁ、好きなタイプってどんな人?」
「良い匂いのする人、かな」
Melusine @akai4547
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