宮内家―3
絶体絶命であった黎人を中心に、突如として凄まじい塵旋風が巻き起こる。
「うォわァァァッッ!?」
「うっ……あれ、私達には何も影響がない? もしかして私達を守って―――」
間近に居た黎人の父親が塵旋風に巻き上げられて姿を消し、燈里と雫には無害であった。まるで二人を包み込む形で塵旋風が発生し、数秒で霧散した。燈里は塵旋風が巻き起こった発生地点に佇む青年に目が奪われ、息を呑む。
腰まで伸びた灰色の長髪を紐で束ね、力強い意思が宿った黒い瞳に高い鼻と鋭い顎の美丈夫。深緑色で統一された無地の着物を着用し、金木犀が刺繍された膝丈の羽織を羽織っていた。
右手には白銀の直剣が握られ、宮内黎人だと物語る。
――――――――――――――――――――――――――――――――
自室にて背丈が数センチメートル程度低く、あどけなさが抜けきらない自身と向かい合う。
肉体に残された記憶という魂の残滓である俺が頭を下げた。
「謝って済む話ではないけど、こんな事に巻き込んでしまってごめん」
入れ替わってからの出来事を内側より観ていたらしく、負い目を感じたのか。自分自身であるからこそ理解できてしまい、苦笑する他ない。
見ず知らずの第三者を呼び寄せ、面倒事を押し付けた場合は話が別だが、別世界の自身であれば謝罪など不必要。俺の肩に優しく手を置き、首を横に振った。
「中から観ていたのなら俺がどう死んだのか知ってるだろ? あいつに苦しめられて死を選んだ同じ穴の狢、謝罪なんて要らない」
「―――そっか、確かにそうかも知れない。ただもっと早く奇跡が起きて欲しかった」
俺が自嘲気味に笑い、二人でその場に腰を下ろした。手元に血文字で魔法陣が描かれた紙が落ちており、何気なく拾い上げる。
どうやら入れ替わる直前の部屋が再現され、この世界の主は向こう側だ。故に停滞し、決してここから先に時間が進まない。
俺は大きく息を吐いてから、愚痴をこぼした。
「春休みが明けて魔法高校に通ったとして、卒業するまで場違いだと貴族達に嗤われただろうさ。我慢して我慢して、どうにか魔法使いの仕事に就けたとしても……平民には相応しくないと蔑まされ続ける羽目になる。だと言うのにあいつは強いて、お前が働くようになったら仕事を辞めるなんて言い出す始末。本当に何の為に生まれてきたのか、疑問だったよ」
「あいつは俺達を奴隷としか見ていない。俺については語らなくとも聞き及んでいるだろうが、父親に恵まれなかったよな」
「ああ……だから逃げた。現実から、あいつから……一発逆転の何かを掴めるかも知れないと、召喚魔法を選んだ結果がこれだよ」
自死前提で召喚魔法を行使し、偶然にも世界間が狭まった時期と重なり、別世界で亡くなった己自身を召喚した。自棄酒で泥酔して凍死した自身と比べると、一発逆転の機会を掴めたと言えなくもない。
そう、まだチャンスを得ただけである。現在進行形で窮地に陥り、俺達が望む勝利を掴めていない。
「俺は勝ちたい、あいつにだけは―――下衆には負けたくない」
「勿論、俺もだよ。だから……後を託そうと思って呼び出したんだ」
「託すってお前……」
俺の肉体が光の粒子となり、存在が薄れ始める。言わずもがな、
「肉体を全て明け渡し、俺は逝くよ。中途半端に残っていても邪魔になるだけだし、勝てると信じているから」
「そんな事ないだろ、俺の中に残っていればいいじゃないか」
「いいや、ダメなんだ。俺は異物認定されてしまい、同化を妨げている」
「同化? もしかして肉体とエネルギー体の関係を言っているのか? でも俺とお前は同一人物だから、関係ないだろ?」
「厳密には別人だから、その道理は通用しない。それに未練がましく残るのも嫌になってきたんだ」
地球の宮内黎人と
未練がましく残るのが嫌だとそれっぽい理由を述べているが、自身の存在が邪魔になっていると悟ったから出て行くと決めたのだろう。きっと逆の立場であったとしても、同じ理由を述べて逝く。
「お前が決めた事だ、何も言わない。だが……代わりに何かやって欲しい事とかないのか?」
「そんなの言わなくても分かるだろ?」
「そうだよな、俺だもんな。後は任せろ、お前は悔いを残さずに次の道を進め」
「―――ありがとう」
俺が曇りない笑顔で握手を求め、握手に応じる。その瞬間に全身が光の粒子となって天に昇り、次の道に備えて旅立った。
世界の主が消えたので崩壊が始まり、意識が遠のいていく。数秒で己の内側から追い出され、現実世界に回帰する。
閉じていた瞼を開くと、世界が一変した。エーテル、アストラル、メンタル、三種のエネルギーを肉眼で捉えられ、呼吸すると吸い寄せるように膨大な量のエネルギーを補給できる。
足を踏み出せばエネルギー体も足を踏み出し、腕を振ればエネルギー体の腕も振るわれる。肉体、心、魂が一つとなり、現代の人々が忘却した在るべき姿を取り戻した。
アスファルトを蹴り、エネルギーの奔流に乗って庭の端に落ちた下衆まで接近する。得体の知れない負のエネルギーから第三者の気配が漂い、眉を顰めた。
(下衆を唆す輩に心当たりはないが……まぁいい、今はやるべき事をやろう。くだらない親子喧嘩を長続きさせるつもりはない)
「まだこんな力を隠し持ってたか、黎人ォ!」
大剣と直剣がぶつかり、甲高い金属音を響かせると共に火花を散らす。下衆は両手で大剣を握り締め本気のようだが、此方は片手で心器を扱う。
一合、二合と続き、数十合が過ぎる頃には下衆の額に脂汗が浮かび、呼吸が乱れていた。合間に挟む近接格闘術は弱体化し、反対に殴打と蹴り技を返される始末であった。
「こんなの認めない、青二才に負けるはずがない! もっとだ―――もっともっと、俺は強く成れる!」
「止めておけ、さっきも言ったがその力は身を滅ぼす。これ以上は後戻りできなくなる」
「俺はもう後戻りできない所まで来てしまってンだよ! 今更何を恐れるものかァァァッッ!!」
「馬鹿が……折角忠告してやったのに、救いようがない」
禍々しい力が異空から流れ込み、下衆を飲み込んだ。俺も引きずり込もうと手を伸ばすが、心器で斬り捨てて距離を取る。
下衆を覆い尽くした負のエネルギーが凝縮されて球体となり、鳥の雛が卵の殻を破るが如く新たな生命が産声を上げた。
「46333333!!」
(俺とは正反対、完全に堕ちたか。憐憫より同じ末路を辿る可能性があったかも知れないと思えてしまう辺り、後味が悪すぎる)
片時も静止せずに動き回り、獲物を探す赤い瞳孔。膨張した肉体は黒い粘膜に覆われ、木の幹の如く太い両腕から鋭利な鉤爪が生えた獣だった。
元がヒトであった、父親であったなど到底信じられないが、目を背けずに対峙すると獣は俺を標的に定めた。
「;えs! 6j5q@:fえtpwう。mkt333!! 66666666!」
「理性を失い、堕落ではなく退化と言うべきだろうか。こんなのがお前の求めていた強さなのか? 答えられるものなら答えてみろよ、下衆野郎」
獣は周囲の草木が揺れる程の強い雄叫びを上げ、鉤爪を振り回して飛び掛かってきた。常人ならば容易に切り刻まれる凶器を難なく捌き、厄介な腕を切り落とそうと斬撃を浴びせるが黒い粘膜と斬撃の相性が悪いらしく、思いの外ダメージが通らない。
刀身に氣を纏わせ、風に昇華。蓄積した剣気と擦り合わせ、風の薄刃を生じさせた。
「純粋な斬撃が通りにくいのなら、これはどうだ?」
「h@b@63333! 4、4w@t@、4w@t@3!」
風の薄刃を纏った心剣が黒い粘膜と筋肉質な太い腕を通過し、切り落とされた腕がゴロリと芝生を転がった。断面から黒水を撒き散らし、それに触れた芝生が急速に枯れていく。続けて連撃を浴びせようとしたが、獣の両腕の切断面がボコボコと泡立ち太い腕と鉤爪が再生した。
「hhh、fffffff! うywrf@おdえあtおq@、4w@t@f5。sf! 」wgq@、6;いtw。7zfえうえ!」
(超速再生を備え持つが、負のエネルギーが減った。エネルギーが尽きるまで削れば、再生どころか活動できなくなりそうだ)
供給された負のエネルギーにも限度があり、巨体を活動させるだけでも燃費が悪いのに超速再生を繰り返せば三十分と経たずに尽きるだろう。けれども理性を欠片も持ち合わせない獣は本能に従い、後先考えず動く。
右手の払い除け、左手の鷲掴み、両腕を振り上げて叩きつけ、左右の鉤爪を交互に振り回す。動作の直前に負のエネルギーが軌道を描き、攻撃を先読みできるが故に回避は難しくない。
広範囲の地面に沿って負のエネルギーが漂い、嫌な予感がしたので
「jー4jw@zt5。c@!」
「ふむ、土属性魔法を使えるとは面倒だ。だが相性が悪かったな」
「う、うyq@s!? b;fjー4……え7、xzgk0x@t!」
土は水に強く、風に弱い性質を持つ。
剣気と氣を束ねて風属性の飛刃を飛ばし、土の槍を根元から刈り取った。威力が減衰せずに獣まで届き、獣が両腕で防いだが深い傷を残した。黒い粘膜も土の性質が適用され、風にめっぽう弱いようだ。
足場の
「h@b@3333333! hct@、hct@333! うp@q@、うp@6え1tx;。!!」
切り刻まれた獣が苦痛の声を上げ、鉤爪を滅茶苦茶に振り回す。しかし、掠り傷一つ負わずに一転攻勢は止まらない。
四肢を切り落とし、骨を打ち砕き、臓腑を抉り、黒い粘膜を削ぎ落とす。再生の度に多量のエネルギーが費やされ、次第に再生速度と動作が遅くなる。やがて獣は四肢を切り落とされて藻掻く以外に何も出来なくなり、処理に頭を悩ませていると獣の頭上で空間が歪んで裂けた。
溢れ出さんばかりの負に満たされた空間と繋がり、堆く積まれた骸骨の山の頂上に居座る怪物と目が合った。
(コイツが下衆を唆した輩……ダメだ、指先一つ動かせない。何者なんだ、コイツは!?)
怪物の正体はゆったりとした黒のルームウェアを着用し、褐色肌の女であった。
頭部には蝙蝠の翼が生え、ボサボサな黒い長髪。瞼が半分閉じた眠たげな紫色の瞳は妖しく光り、口に収まりきらない長い舌が垂れている。やる気が無さそうな印象とは裏腹に明確な敵意と濃厚な悪意が滲み出し、蛇に睨まれた蛙だ。
「僕の力を与えられておきながら、役に立たないね。緑の女神の使者くらい、倒してご覧よ」
「4。p5! mzsq@、mzsあtお09bp!」
「もっと力が欲しい? 強欲だなぁ……いいよ、君が望むなら幾らでもあげよう。全ては自己責任だ」
「fff、fffffffffffffffffffffffffffff―――」
不気味な空間から負のエネルギーが押し寄せ、獣へ過剰なまでに供給される。既に壊れかけの器にそんな事を行えば、壊れてしまうのが必然だ。
獣の肉体が溶け崩れ、残ったのは黒いスライム。粘着質な音を立て、声なき声を上げる。まるで意思があるコールタール、人間に後戻りできない段階に至ってしまった。
コールタールが塊となって飛び掛かって来るが、風の刃で切り刻む。
「!!」
(原型がないだけに、物理攻撃は効かないタイプか)
土の性質があろうと、相手は無形生物。切り分けた所で忽ち結合し、物理攻撃は効果がない。
氣弾を複数個生成し、コールタールを旋風の嵐に巻き込む。だというのに負のエネルギーを過剰供給された恩恵か、旋風の中を平然と突き進んで来る。
和いだ心に恐怖が生じ、同化が途切れかけて肉体がズレた。
(落ち着け、平静を保て。相手が生物であるからには、必ず突破口がある筈だ)
希望を胸に恐怖を封じ込め、深呼吸によってエネルギーを取り込み心を落ち着かせる。
コールタールは見た目に反して俊敏な動きで襲い掛かってくるが、回避に徹しながら対処法を練るべく観察を行う。
(通り道の芝生が削り取られているのは……触れたものを吸収するのか。魔法等も吸収できるのか?)
試しに火、水、風、土の初級魔法を放ち、効果があるのかどうか検証する。コールタールに向けて
どのような器官を有し、どのような方法で外界を認識しているのか定かではないが、コールタールの異常な反応を見逃さなかった。
(
コールタールらしく弱点属性が火属性だと判明し、心器が纏う風の薄刃に火炎を混ぜて高熱の炎剣と化す。コールタールは自身を屠る武器に怯えて後退るが、そんなのお構い無しにコールタールまで肉薄し、剣気と炎を束ねて強烈な一撃を繰り出した。
「燃え尽きろ!」
「!!?」
剣気、炎、推進力を切っ先に一点集中させ、間合いとタイミングを見計らい心剣を突き出す。ブワリと炎が渦を巻き、コールタールが心剣で突かれた箇所から勢い良く燃え上がった。
粘り気がある黒い液体がウネウネと苦しそうに蠢き、体積を小さくしていく。下衆の意思など欠片も残っていないだろうが、無心で燃え尽きるまで見守った。
「はぁー…………器が弱い分、期待外れだったね。力を分け与えてあげたのに、これじゃ損だよ。こうなったら僕が直々に憎き緑の女神の使者を始末しよう」
怪物はつまらなさそうに呟き、重い腰を上げた。まだ現界していないのに足が震える程の威圧感が周辺一帯を包み込み、今すぐ逃げろと己の本能が危険信号を発する。
チラリと後方を見やると、雫を避難させた燈里が映った。人間の命など易々と奪う高位次元の存在から発せられた威圧を受け、冷や汗を垂れ流して卒倒寸前であった。
(このままだと二人とも命を奪われる、どうする……どうしたらいい、相手は圧倒的に格上だぞ。逃走を図ったところで無関係な人々が犠牲になる)
怪物が頭蓋を踏み砕き、一歩また一歩と距離を縮めてくる。死神が、死の恐怖が、人類が相対してはならない存在の顕現が刻一刻と迫る。
ふと拡張された知覚が強大な氣の塊を感知し、怪物の現界を目前に控えながら安堵感に包まれた。燈里の元まで飛び退き、震える肩を抱き寄せて羽織りの中に入れる。
「れ、黎人君……貴方の父親は何処に? あの怪物は何者なの?」
「下衆は負の力に呑まれ、身を滅ぼした。奴は人の命を玩具だと思っているような、人類の敵―――遅いですよ、華蓮さん」
上空から強大な氣の塊が飛来すると、怪物から庇うように降り立った。見目麗しい妙齢の女性でありながら、頼り甲斐がある芯の通った佇まい。氣の塊の正体は華蓮、俺の師である。
「遅れてごめんなさいね、結界を抜けるのに少し手間取ってしまったのよ。それとお久しぶり、土の邪神様」
「華蓮、お前から出向いてくるとはいい心掛けだ。宇宙の果てに封印されてから幾星霜、復讐できるこの時を待ち侘びていたぞ!」
「あら、二千年も焦がれてくれたなんて嬉しいわね。私としては二度と会いたくなかったけど」
(華蓮さんと因縁がある邪神か……俺達ではまともに立てなくなるのも納得だ)
邪神が殺気に満ちた鋭い視線で華蓮を射抜き、大きく口を開いて吠えた。けれども華蓮は何処吹く風と気にも留めず、飄々とした態度である。
その態度は邪神の感情を逆撫でするのに十分で、ドス黒い高密度のマイナスエネルギーを充満させて呪詛を撒き散らした。
「何だその態度は、巫山戯るな! 僕の御前だぞ、身の程を弁えろ!」
「御前だから何? 私達は貴方を信仰の対象とせず、敵という認識よ」
(華蓮さんは間違いなく本気だ。やべえ、鳥肌が止まらない)
華蓮から発せられた膨大なプラスエネルギーの塊と空間の亀裂から溢れたマイナスエネルギーの波が衝突し、両者の間で在るべきエネルギー、大気、重力、色彩が捻じ曲げられ、観測出来ない無が生じた。
別次元の存在同士のやり取りを前に俺達は身動き一つ取れず、行く末を見守るしかない。
「今すぐその首を掻っ切ってくれる、覚悟しろ!」
「生憎と貴方の相手をしてあげる時間は無い。また暫くのお別れよ、『
邪神が頭蓋を踏み砕いて跳躍し、現界を試みようとしたが華蓮の手によって阻まれる。分厚い層の魔法陣が邪神の肉体を貫く形で幾重にも張り巡らされ、邪神の身動きを封じた。
「フクク、僕だって二千年間を怠惰に過ごしていた訳ではない。『因果消滅』」
邪神を束縛していた魔法陣に亀裂が走り、端から粉々になって消滅する。華蓮は焦りの色を見せずに淡々と指で印を結び、
得意気な表情を浮かべた邪神であったが、華蓮の目的を察すると大きな手の平を空間の裂け目に向けた。
「させるか! 眷族よ、来たれ!」
幾つもの裂けた空間より、邪神の眷族が現世に侵攻する。黒いコールタールが流れ込み、背中に蝙蝠の翼が生えた巨大なヒキガエル達が飛び跳ね、石器を携えた猿に近いヒト型の獣人集団が押し寄せた。
しかし、華蓮は顔色一つ変えずに氣弾を生成し、仙術を行使した。
「ご自慢の眷族であるタールスライム、エストド、エレクアミね。まとめて焼き払ってあげる、『煌炎華葬』」
「あの時の仙術か、それなら大したことは―――」
「あれから二千年が経っているのよ? 平和な世界に怠けて過ごしてきた訳じゃない、見縊りすぎよ」
夜空に煌く星の如く、輝き燃え盛る蓮華の花が無数に咲き誇る。花弁が一枚、また一枚散ると邪神の眷族に降り注いだ。
「!??」
「ヴォォオオオオ!!」
「グェエエエグググ!」
「何だと!?」
花弁に触れた眷族達は業火に包まれ、悶え苦しみながら焼け死んでいく。そんな光景に邪神が狼狽え、足を一歩引いた。
たかが二千年、されど二千年。邪神も研鑽を積んだのだろうが、華蓮はその上を行く。印を結び終えた華蓮が指先で邪神を指定すると八卦の陣が敷かれ、東に青の光の柱、南に赤の光の柱、西に白の光の柱、北に黒の光の柱が築き上げられた。
「来たれ、天の四方を司りし守護霊獣よ! 邪なる神を監視し、顕現を企む狂信者を蹴散らせ! 『天辰封印』!」
遠方より青、赤、白、黒の光球が光速で飛来し、配置に着くと獣の雄々しい鳴き声が轟き、邪神が四色の縄でぐるぐる巻きに拘束された。
高位次元の存在の力を取り入れた封印ともなれば邪神でも抵抗できないらしく、激しく尖った歯を擦り合わせて歯軋りを鳴らす。
「やはり本体でないと、お前と使者を殺せないか。フクク、一時の平穏を精々謳歌するがいい!」
不敵に笑う邪神が陣に飲み込まれていき、負のエネルギーが消滅すると夜の静寂が訪れる。
張り詰めた緊張感から解放され、集中力が途切れた直後には元の姿に戻っており、拡張された知覚等も普段の状態となった。燈里は腰が抜けかけるが、腰に手を回して支えた。
「大丈夫、燈里さん?」
「ええ、ありがとう。しかし……邪神とは一体? 黎人君も別人みたいでしたが?」
「順を追って説明しましょう、その前に場所を移さないとね」
華蓮がパチンと指を鳴らすと、精霊の森にある華蓮の家まで移動した。テーブル席にはヴァンが着席し、俺達の到着を待っていたらしい。
今さっきの弱りきった姿は何処へやら、燈里が目を輝かせた。
「もしかして転移魔法ですか!? 初めて体験しました、流石は華蓮様!」
「そそ、そのうち黎人や燈里ちゃんも習得できるわよ。ヴァン、お茶の用意は済んでる?」
「相変わらず華蓮は精霊使いが荒いな。向こうの良い茶葉とケーキを持って来たんだ、文句を言わないでくれよ?」
「風の大精霊様のお茶を頂けるなんて、大変嬉しく思います」
(前契約者に使いっ走りにされる大精霊……燈里さんにも知られてるとなると、知名度が高いのだろうか)
ヴァンは各席に並べたティーカップにティーポットから紅茶を注ぎ、切り分けられたショートケーキが風に運ばれて配膳される。嫌々やってる様子はなく、日常的なものなのだ。
各々が席に着くと、ヴァンから話を切り出した。
「さて……すまなかったな、相棒。俺達精霊は邪神と相性が悪く、華蓮を呼ぶくらいしかできなかった」
「負のエネルギーを直にぶつけてくる相手だから、それもそうか。でもヴァンが華蓮さんを呼んでくれたお陰で助かったんだ、ありがとう」
「華蓮様と風の大精霊様、そして黎人君のお陰で一時的ではありますが脅威は去りました。誠にありがとうございます」
燈里と揃えて礼を述べるとヴァンは額を手で押さえ、華蓮が腕を組んで唸る。まるでお礼を言われる筋合いがないとでも言わんばかりの反応に、燈里と二人で顔を見合わせるしかなかった。
二度目の探求者 逆義 @Sakagi
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