季節の終わりで待っていて。【ショートショート 700字未満】
蒹垂 篤梓
第1話 季節の終わりで待っていて。
なぁぉう――と鳴いた気怠げな声
病室の窓
開けたままうたた寝していた
初秋の乾いた風が心地好くて
ついつい微睡んでしまう
ふと窓の向こうの木に枝に黒い丸いモノを見つける
猫がじっと見ていた
何か語りたげで、どこか物憂げで、
「どうしたの」
聞こえるはずもない、分かるはずもないのに
つい話し掛けてしまった
すると、にたりと口元が歪んだ…気がした
その場から動かず赤い口を開く
『君の寿命と引き替えに願いを叶えよう』
声がした
猫の……声?
目醒めたつもりで目醒めてなかったのかな
まだ微睡みの中にいるのかな
それなら……
「外の景色が見たい。自分の足で歩きたい。友達と一緒に散歩したい」
夢の中なら何でも言える
絶対無理だと分かってることでも
それでもし叶っても夢の中のこと
期待はしない
けれど、期待してしまう
『いいだろう』
猫が言った
『君の病は治る。ただしこの秋が終わるまで。その後は……』
「分かった」
私は強く頷いた
『では、悔いのないように』
そんな言葉を残して
そこにいたはずの猫が消えていた
息を吐く、ゆっくり、ゆっくり
夢なら今の内に醒めて
夢じゃないなら……
私は自分の足で立つ
立てるはずがないのに、立っている
通りかかった看護師さんが慌ててやってくる
しばらく、大騒ぎだった
強い希望で家に帰れることになった
お父さんお母さん、ごめんね
勝手に寿命決めちゃって
でも、それでも、皆と一緒にいたかった
ずっと一人は、寂しかったんだ
さあ、悔いのない秋を過ごそう
胸を張って、あの猫さんにもういいよと言えるように
だから
季節の終わりで待っていて
季節の終わりで待っていて。【ショートショート 700字未満】 蒹垂 篤梓 @nicho
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