side高崎明翔5 高崎明翔の最大の幸せ

「秋の体育祭実行委員を――」

「やります!」

「やります!」


 白いタンクトップの担任の先生が驚く勢いで、俺と深月が手を挙げる。


「春、秋、連覇だ! 2年1組! 優勝あるのみ!」

「優勝あるのみ!」

「やるぞ! おー!」

「おー!」


 よしよし、早くもみんな、闘志に燃えている。絶対、優勝だ!


 放課後、早速体育祭実行委員会に出席していたけど、途中から明らかに深月の様子がおかしかった。最後、グランドに出て入退場門の位置の確認などをして解散となる。


「トイレトイレトイレトイレ」

「行ってらっしゃい~」


 あ、いい匂いだなー。どっからだろう?

 トイレの方へと歩いていたけど、ふんわりと辺りに漂う甘い香りに足が止まる。


 あ、これだ。このオレンジがかった花。すっげー小さい花なのにたくさん咲いてて、香りが強い。なんて植物なんだろう、これ。この匂い好き。


「いた! どうした? こんな所で宙を見つめて、何か思い出してた?」

 トイレの前にいなかったから俺を探してたのかな、深月が走ってくる。


「宙を見てたんじゃなくて、この花を見てたの」

「花見てたの? 何センチメンタルになってんだよ。どうした? 何かあるなら言ってみ?」

「センチメンタルになってたわけじゃないよ。この匂い好きだなーって思って」

「ああ、金木犀きんもくせいか。この匂い嗅ぐと秋だなーって思うわ」

「金木犀ってゆうんだ、これ」


 あー、甘くて気持ちが安らぐいい匂いだ。ずっと嗅いでたい。

 ふと視線を感じた。深月が俺をじっと見てる。

「何?」

「金木犀似合うな、明翔」

「え? そう?」

「うん。明翔、最近そういう、穏やかーな笑顔よくしてるよな。俺も安心する」


 深月にしては珍しく温厚に微笑んで、俺と並んで金木犀の花を見る。


 安心……?

 あ、深月が今みたいに何かあった? とかちょくちょく聞いてくるのって、俺のことを心配してたのか。何の心配か分かんないけど、俺を気にかけてくれてるんだ。


 俺の好きな人が俺を気遣ってくれてる。俺が穏やかに笑ってるだけで、安らぎを感じてくれる。何これ、めちゃくちゃ幸せじゃん。


「深月」


 深月にキュッと抱きついたら、深月がカバンを落としたみたいでドサッと音がした。

「ちょ、ど……どうした?」

「好きだよ」

「お……おう……」


 俺も好きだよって言ってほしいけど、深月はそうそう言ってくれない。分かってる。いい。

 両腕でグッと抱きしめてくれる。それだけで十分。


「明翔」


 顔を上げたら、目を細めて笑う深月がキスをした。

 びっくりしたー……深月のこんな落ち着いた優しい微笑み、初めて見た。


 でも、次の瞬間には、

「まったく、学校で何させんだよ、お前は」

 と真っ赤な顔で俺の頭をポンポンと軽く叩く。


「俺がさせたんじゃないでしょ、今の」

「いーや、お前がさせた。しろって顔してた」

「深月がしたかったんじゃないの?」


 だって、俺はハグで満足してたんだから。

 図星だったのか、深月が更に赤くなった。


「かっ、帰るぞ、明翔! ツンとデレが腹すかせて待ってる!」

「深月、カバン落としっ放し!」


 カバンを拾って、振り返らずにズンズン歩く深月の背中を追う。

 耳から首まで燃えてるように真っ赤だ。半袖のシャツから出た腕も赤い。全身が熱そう。


 深月はそうそう言葉にはしてくれないけど、ダダ漏れなんだよなー。

 デカい深月がかわいく見えてくる。やっぱり俺、今めちゃくちゃ人生最大に幸せだ。

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BLはファンタジーだって神が言うから ミケ ユーリ @mike_yu-ri

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