望ましくないエンディング&力への意志

 ピザエスの宣告した通り、毎日午前九時になると多数の小豆ゴブリンを引き連れた悪の令嬢軍が王宮にやってきて、王宮軍と戦闘するようになった。

 しかし、戦いは決着がつかないまま数週間の週が経過する。

 今では王宮軍、悪の令嬢軍とも疲弊してしまっている。まさにタルタルソースの沼に足を取られたような形になり、両軍の士気は下がりに下がった。

 そんな状況に置かれたピクルスとチョリソールは、乗馬の師匠である隊長ハッタイコから指南を受けた。二人が合体して、古くから伝承されているアルデンテの伝説的勇者「胡瓜ペガサス」に変身することで、小豆ゴブリンたちを浄化する作戦に打って出ようという作戦だ。

 それは見事に功を奏した。ついに悪の令嬢軍を撃退することができたのだ。

 だが戦いを終えた胡瓜ペガサスが元の二人に分離したところ、ピクルスの様子がおかしくなってしまった。


「わて、どないなってしもうたんやあーっ!?」


 なんと、ピクルスの顔が餃子っぽくなっていたのだった。これからはオッサンとして生きなければならない。

 つまり、【悲しいエンディング】を迎えてしまったのである。


 オッサンと化したピクルスは、やがて精神に異常をきたして亡くなり、別の世界のピィナッツという快楽主義者に転生することになるのだ。

 それから二周目・三周目と進み、似たようなエンディングを迎える。

 追加ストーリーにも突入した。ここからいよいよ最終ステージ、という段階を迎えたのだ。


《ああ、漸く悪の令嬢軍を撃退することができた……》

《ええそうですわ。さあ、元の二人に戻りましょう》


 悪の令嬢軍との戦いに勝ち、これで通算四度目となる合体解消の時がやってきたのである。


「あっピクルス大佐、そのお姿は!?」

「え、どうなさって?」


 一瞬間、ピクルスはとまどった。

 いつもの赤色の一級女官服姿ではなく、なんと純白の生地にダイヤ・ルビー・サファイア・パール・エメラルドといった高価な宝石がふんだんにあしらわれている豪華なウェディング・ドレスを着ているのだ!

 このピクルスの美しい姿に、ついチョリソール大尉が血迷ってしまった。


「ピピピ、ピクルス大佐! 愛しておりまっす!! 私と結婚して下されぇ!」

「まあ、わたくしでよろしくて?」

「もも、もちろんにございます!」


 こうして、王宮軍の戦勝祝賀パーティーは、同時にこの二人の婚礼の場になったのである。


【WEDDING END】


 Ω Ω Ω


 心トキめくアクションゲーム『四級女官は王宮を守れるか?』のエンディングを観終えたピクルスは、またしても不満たらたらである。


「今度も望ましくない結末ですわ! どうしてこうなるのかしら?」


 普通の少女なら喜ぶような結婚で落ち着く結末であるが、この元気溌剌十七歳の軍人少女にとっては、これほど望ましくない退屈なエンディングはない。


「お嬢様、一区切りになりましたか」

「ええ、八十八度目のエンディングですわ」

「八八でダブル末広がりとは、祝着にございます」

「祝着にございませんわ!」


 ピクルスはゲーム用のコントローラーを投げ捨て、勢い良く立ち上がる。


「ジッゲン、あたくしでかけますわよ!」

「おや、どちらへ行かれるのでしょう?」

「緑と自由の丘ですわ。ジェットフットの試験をしなければなりませんの」

「左様にございますか。では、お気をつけて」


 この数分後、紅白の派手なゴスロリ風衣装を身に纏ったピクルスが緑と自由の丘にやってきた。

 今日もまた良く晴れ澄み渡っており、雲に隠されることなく、ヒバリが高く飛んでいる。黒く潤いのあるストレートの髪が風になびく。

 ピクルスの両の手には四百発同時発射タイプの機関銃が一挺ずつ握られている。

 さらに背中には彼女の背丈ほどもあるバズーカが一門ある。

 丘の下の四方八方から数千の迷彩服が駆け上がってくる。


「きましたわね、お庭番ロボット兵ども♪」


 迷彩服たちは、皆ライフルを肩にかけており、颯爽とした走りで近づいてくる。


「さあ始めますわよ。それそれ、それそおれっ!!!」


 ピクルスの持つ二挺の機関銃から弾き出される毎秒八百発の弾を、まるで横殴りの雨又は雹のように浴びせかけられ、次々に倒れる迷彩服。


「おっほほほぉー、快感ですわぁーっ!」


 この少女が常々欲しているのは「力への意志」である。


【第三部閉幕(完結)】

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キュウカンバ伯爵家のピクルス大佐ですわよ! 紅灯空呼 @a137156085

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