結界を解除して東門を開ける作戦

 しばらく空を見ていたピクルスは、ある作戦を考えついた。


「結界を解除して、東門を開けて下さる?」

「ラジャーッ!!」


 ザラメ軍曹が駆けて行った。

 任務に忠実な彼に任せておけば、間違いなく門は開かれる。

 チョリソールが、うやうやしく小型無線通信機を差し出した。


「ピクルス大佐、無線で連絡が入っています!」

「そう。とうとう発覚したのね」


 ピクルスはこの事態を予期していた。

 蒲鉾板のような通信機を受け取り、軽く陽気な口調で応える。


「へろ~、こちらピクルス大佐、どしたの?」


 まるで親友同士の気楽な通話が始まるかのようだ。


『ヘロウ、こちらゲーム運営部第四課長レバニイラ』

「あらレバニイラさん、わたくしになにか?」


 あえて素知らぬ振りをするピクルス。


『今そちらで進行している遊戯はね、悪の令嬢軍人ピザエスによるチート行為の度が過ぎているため、こちらからの処置を考えているわ。それで、もう一度リセットする予定だけれど、構わないかしら?』

「ピザエスさんのことは、今しばらくわたくしにお任せを!」

『でも手強い相手なのよ、分かっているの?』

「シュアー!」

『それならもう少しお願いするわ。しっかりね』

「ラジャー!!」


 戦いは了承された。

 通信機がチョリソール大尉の手に返された時、すでに前の前に小豆ゴブリンたちが大勢立ち並んでいた。ピザエスがやってきたのだ。


「ふふふ、この前のお礼にきてやったわ。さあくたばれぇ、ピクルス大佐!」


 ピザエスがキノコ爆弾を投げてきた。


「ぐもっ!」


 ピクルスの手刀が、二千発もあるキノコ爆弾を一気に吹き飛ばした。さすがはグモアクシス直伝の第二十八番奥義ウィーズル・ウィズ・シクル。

 しかし、小豆くらいの大きさだった小豆ゴブリンたちが徐々に巨大化して、今ではカボチャと同じくらいにまで大きくなっている。このままだと、人間並みのサイズになるのも時間の問題である。


「さあチョリソール大尉、届けられた四百連射銃にゴブリン浄化弾を詰めて、騎士隊に持たせなさい。女官たちはバケツに水を汲んで運ぶのです。よろしくて?」

「ラジャー!」

「ラジャーですわ」

「ラジャーですよ」

「ラッジャ!!」


 数々のラジャーが飛び交った。いよいよ臨戦態勢が整ったのだ。


「きゃあ!」


 だがこの時、ピザエスが女官を一人捕まえてロープで縛っていた。人質に取るつもりなのだ。


「ピザエスさん、その女官を解放なさい」

「ほほう。そうしたら代わりにどうしてくれるって、いうんだい?」

「どうもしませんわ」

「なんだって? 笑わせるんじゃないよ。ひゃっはっははは、ぬぁがっ!」


 今まさに戦闘中だというのに、なんとピザエスの口が塞がらなくなったのだ。

 この隙に、捕まっていた女官は逃げることができた。


「おやおや、顎が外れまして?」

「ふががぁ~~」


 大きく開けた口が閉まらなくなり、ピザエスはすごく困っている。今この瞬間こそ攻撃に出る最大の好機である。

 本来の戦いならば敵に情けをかけたりはしない。しかしピクルスは違うのだ。悪を許さないことに容赦はないが、外れた顎にまで罪はない。


「ピザエスさん、顎が戻るまでお待ちしますわ」

「ふがっと、ぜらちんのぜりぃ~~」


 フェア・プレイのなんたるかを学ぼうともしないピザエスは、顎が外れたままピクルスにゼラチン・ゼリィ攻撃を仕かけた。


「あなたをお待ちしてあげているというのに、攻撃するなんて卑怯ですわ」

「前にも似たようなこといってやったけど、戦いに卑怯も胡瓜もないんだよ!」


 これには温和なピクルスも、ついに堪忍袋の緒が切れた。


「それならそれで、こちらも容赦しませんわ! ぐもっ!!」


 旋風が発生して、ピザエスの身体が後方へ二十メートルぶっ飛んだ。


「痛たたたぁ~、ひぃぃ~~」


 地面に強く腰を打ちつけたピザエスが苦痛な表情で呻いている。飛ばされた衝撃で、外れていた顎は元に戻ったらしい。

 そこへピクルスが余裕の表情で近づいて行く。


「さあピザエスさん、覚悟はよろしくて?」

「くそったれ胡瓜めが!」


 追い詰められたピザエスは悪態を吐き、全身から黒い煙を出した。


「またお逃げですのね?」

「今日のところはこれくらいにしておいてやるのさ! 次の攻撃は、明日の午前九時からにしてやるよ。今後は毎朝、あたしたちがお前らの相手してやるんだから有難く思え! ひゃははは~」


 こんな負け惜しみの言葉と次回予告を最後に、ピザエスの姿が消えた。得意の黒煙隠遁魔法を使って退散したのだ。

 空間には、ゆらゆらと漂う黒煙と、焦げたチーズの匂いのみが残った。

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