謎解きはザラメ軍曹にお任せ

 直立不動の状態で待ち構えていたチョリソールがここで口を開く。ピクルスとザラメの会話が一段落したと判断したのだ。


「ピクルス大佐は、ザラメ軍曹にどのようなご用件でしょうか?」

「そうでしたわ。これの匂いを嗅いで下さるかしら?」


 ピクルスは、エプロンのポケットに忍ばせてきたレジ袋を取り出し、中から蝉の抜け殻を一個摘み出した。

 そして、すぐさまそれをザラメ軍曹の鼻先に持って行った。


「わおん! これは、先日チョリソール大尉についていた女性の匂いです!」

「まあ、チョリソール大尉には、そのような仲の恋人がいらして?」

「憎いねぇチョリソール大尉、よっ色男!」

「うぉちょちょつおっ! ちちち、違いまっす!! ごっらぁザラメ軍曹、滅多なことを、そんな軽々しくいうものでは、ないぞぉぉーっ!」


 チョリソールは顔面を真っ赤にして、突如として自身に振りかかってきたスキャンダルを全否定した。


「違いますの?」

「そうです。ピクルス大佐、どうか信じて下さい。私の心の中には、あ……」

「あなたの心の中には?」

「あ、いえ、なにも……」


 喉まで出かかってきた、「あなた様しか、ピクルス姫様しかあり得ません!」という心の底からの雄叫びを、チョリソールは、すんでのところで飲み込んだ。


「そうしますと、その女性の匂いというのは?」

「はい、それは先の日曜日の午後に、私がポプコン山の麓で馬の稽古をしていた時のことです。見慣れない女性が倒れておるのを偶然発見しまして、それで人気のない場所でもありますし、とても気になって私が側へ近づいた途端、その女性が目を覚まして、突然私の下半身に飛びかかってきたのです」

「まあ、そうとうアグレッシブな方、なのですわね?」

「はい。容姿からは、とっくに三十歳を越えているように見えたのですが、なんと私と同じ二十歳だったのです」

「なるほど。分かりましたわ!」


 ピクルスは確信した。


「どういうことでしょう?」

「その女性が犯人ですわ。ええ、フライシラコ‐ピザエスに相違なくてよ!」

「す、すると、そのピザエスという者が、オチタスピのレプリカを盗んだということに、なるのでしょうか?」

「シュアー!」


 先日の真夜中に、ペンネ伯爵から届いた怪しい手紙に、「近日,あなたの大切なχクロスを貰おうと思う.」と書かれていたのはそういう意味だったのだ。しかも、もう一つ、このアルデンテ王国の実権をも奪う、という大それた野心が隠されている。

 そこまでの筋書きを、ピクルスは推理しているのだ。


 ――ズッドォーン!!


 突然、爆発音が聞こえた。


「おや、どこやらの軍隊が爆撃を仕かけてきたのかしら?」

「いやあ、今の爆破は、規模も比較的小さかったですし、それにこの王宮敷地内は、四重の聖水翼賛強結界にて、外部から強固に守られておりますし……」

「そうしますと、きっと内部に忍び込んだ者による小型爆弾での犯行ですわ。爆音は、女官たちの食堂がある辺りから届きました。さあ、チョリソール大尉とザラメ軍曹も、準備はよろしくて? 直ちに急行しますわよっ!」

「ラッジャーッ!!」

「ラジャーわおん!」


 二人と一匹が勢い良く駆け出した。

 エスカレートする嫌がらせ事件も、いよいよ大詰めを迎えた。

 果たして爆破実行犯は誰であろうか? その目的はなんであろうか?


 女官たちの食堂は火の手が上がっていた。

 ピクルスたちが到着した時、王宮消火部門に属している騎士たちもやってきて、ちょうど放水を始めるところだった。

 建物から大勢の女官たちが逃げてくる。先頭を走ってきたのは準一級女官ショコレットだ。その後方にパンコとパインチッチの顔も見える。

 ピクルスがショコレットに駆け寄った。


「ショコレットさん!」

「あピクルス大佐、食堂でラードが暴れたのよ」

「ラード!? あっそういえば、以前わたくしが倒した魔王ギョーザーはラードに転生したのだったわ。倒せまして?」

「ええ、もちろん。でも少しだけ手強い相手でしたわ」


 ラードになってまで戦いを挑んでくるとは、魔王ギョーザーもしぶとい惣菜キャラだといえよう。


「それで、みなさんはご無事ですの?」

「彼女たちは私の防火魔法で守りましたわ」

「さすがは準一級女官さん!」

「それももちろんのことよ。階級では負けても、魔法ではまだまだ負けません」

「ですわ」


 この時、上空を一機のヘリコプターが飛んできた。


「あ、オヤジがきた!」

「チョリソール大尉のお父様ですの?」

「イエッサァー!」


 水を得た海老が跳ねるかのように威勢良く応えるチョリソールだった。

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