第2話 転生した理由! 俺と山田君の真実、てか魔法大会!
家路に着く途中に、道端の雑草を自然に、フリルの体が摘み取る。その雑草には、可愛らしい花がついている。
家に着くと、編み物の途中で居眠りをしてしまっている、ばあやの手元にそれを置く。ばあやが、それに気づいて目を覚ます。
「おや、ぼっちゃん、お土産ですか? 小さいころから、いつも、ありがとうございます」
ばあやは、満面の笑みを向ける。
これは、フリルとばあやの、恒例なのか。メモリが言っていたように、フリルは第一印象と違って、いいやつなんだな。
俺の記憶の望月優の第一印象は良い奴だ。周りにも気が遣えて、みんなにも好かれていた。それが、俺の記憶。だけど……違うのか?
「気が遣えて」? 今、俺、自分でそう言ったか?
何で転生したんだっけ? 思い出せない。思い出せるのは、トラックの眩しいヘッドライト。
俺が山田君をイジメていた? いや、山田君をイジメてなんか......。山田君はアニメのことを教えてくれる友達で、ちょっと冴えない感じで......。
「ちょっと冴えない」って自分で今そういったよな……。下に見てなかったとは言えないな……。俺が記憶をなくしてしまっただけで、山田君をイジメてしまっていたとしたら。
山田君もメモリとして転生している。
え??? ていうことは、俺……。
山田君のことを殺して!?!?!?!?
「坊ちゃん、坊ちゃん!」
ばあやが、優しく俺の、いや、フリルの手を握る。
「学校で何かありましたか?」
優しい顔。
これは、優しいフリルに向けられたものだ。フリルに......、この体を返してあげられるかな? ばあやのためにも、こんな俺じゃなくて……。
「フフッ」
ばあやがクスクス笑って、フリルの手を優しく握ってポンポンと叩く。
「もう、ばあやに相談する年ではないですね。17歳……、随分と大きくなりましたね」
フリルが相談しないことを、少し誇らしいように、また少し悲しそうに、笑いなが見る。
いろいろ、違うんだけど、泣けてくる。
俺ができること? フリルみたいに優しく振舞うこと? 振舞う? それじゃあ、「気遣う」前の俺と一緒じゃないか。
メモリ……、いや……山田君。なんとか、思い出して、君に謝りたい。
「さあ、夕食の支度をしましょうか」
ばあやが、よっこいせと上げる腰を、自然とささえる。クソーッ、フリル、いい奴だな!!!
どうにかして、元の世界に戻って、フリルに体を返して、山田君に謝りたい!!!
ーーー
それから、メモリの復讐? が始まる……。
「フリルさーん。足ひぱらないでくさだいよー。なんですか、その魔法!」
魔法大会へに向けて特訓だ。くっそ!自分はチートに生まれ変わったからって!!!
「腕立て100回!」
「何それ!? 魔法関係ないじゃん!?」
「僕の雷を、フリル君の炎の魔法で相殺できなかったら、やるっていいましたよね?」
「それは、お前が勝手に決めたことだろ!? イジメじゃん!」
「……イジメ?」
メモリが俺をまた冷たい目で見る。
「や、やりますよ!」
「……、ちなみに腕立てはイジメじゃありませんよ。フリル君はお勉強ばかりで体力がないんです。魔法の技術やなんかに、メモリ君とそう差はありません」
「そうなの!? じゃあ、お前に勝て…」
腕立て中の俺の頭をメモリが抑え込む。
「腕立て100回できてから言いましょうね?」
隣でメモリも腕立てを始める。
「お、お前……、やっぱり、いいやつなの!?」
「違います。メモリ君の日課みたいだし、腕っぷしで、またイジメられたらイヤなんで」
「なんかさ……、しつこくない!?」
「……。」
俺は、またメモリの雷の魔法で、博士の頭みたいになる。ご、ごめん! フリル!!!
ーーー
座学を受けるために、講堂へ向かうと、メモリが可愛い女子達に囲まれている。メモリの顔が真っ赤だ。
そりゃそうだ、中身は冴えないオタクの山田君なんだもの! あ、また冴えないっていっちゃった。
仕方がないので、女子達と、メモリの間に割ってはいる。
いやー、しかし、本当に女子が可愛い! 金髪だったり、髪がピンクだったり、瞳の色も宝石みたいな子ばかり! しかも、服装はポンチョに短めのプリーツのスカートというファンタジーな感じ!
オタクの山田君は、そりゃもう、限界値だよ!!! 顔が本当に真っ赤! あ、またオタクって言っちゃった。
「ちょ、ちょっと、君たち。メモリ君が困ってるじゃないか! てか、授業始まるから、はい! 解散!」
女子達が「何さ、嫌味なフリフリ、フリル」って悪態をつきながら席についていく
。女子まで、そのあだ名で呼ぶの!? フリルよ!!!
顔を赤くしたメモリが言う。
「助けたつもり?」
「いや、まあ……」
「どうせ、オタクで冴えない山田には耐えられないって思ったんだろ」
やばい、図星……。俺はつい黙ってしまう。
するとメモリが噴き出す。
え? 今笑った?
間違った、という風に、またメモリが、ぶっきらっぼうな顔をする。
「いやいや、遅い、遅い、笑ったじゃん!」
「笑ってない......」
「笑ったじゃん!」
観念したように、メモリがニヤっとまた笑っていう。
「……、いやだって、本当の望月君を見たっていうか、取り繕ってなかったから、つい」
「取り繕う」か……。思い出せないけど、言葉の端々から、分かってくる。望月優ってやつが。
取り繕って、スクールカーストの上位にしがみついて、そんな感じのヤツだったんだろうな……。確かに、イヤな奴だ……
ーーー
そんなこんなで、魔法大会の日がやってくる。展開早くない!?
この魔法大会で上位に食い込めば進級しやすくなるそうで、どのペアも必死だ。ルールは一つだけ。魔法を使って、場外にペアのどっちかを出すこと。
あと、もう一つある。杖などの魔法道具を使わないこと。実際の力量が分からなくなることと、威力が強すぎて事故に繋がる可能性があるからだ。
俺とメモリは順調に勝ち進んだ。まあ、ほとんど、メモリのサポートがデカいけど。フリルが得意なのは火だけだが、メモリは得意な雷はもちろん、水も風も火もなんでも使えた。
俺が場外に落ちそうになったらメモリが水で壁を作ってガードしたり。
てか、この競技。メモリと組んだヤツが有利じゃない? もしや、教師はグリーン様のご子息であられるフリル様に忖度したんじゃ? フリルも、まあまあ優秀にしても、なきにしもあらず……。う、うん! どこの世界にもつきものですよね!
しかし、上位決戦になると話は違う。メモリだって優秀な奴二人分の力はない。そこは、俺も頑張らなくちゃいけない。
俺たちの秘策は火災旋風。ペアならではのなせる業。メモリが起こした風に、フリルの炎を合わせる。
学生で使えるヤツは少ない。
次の相手は留年組。この学校では留年は多い。何も怠けていたわけではない。その分、メモリやフリルより勉強している。つまりは格上だ。必死さも格上。
試合が始まると、メモリが二人いるみたいだ。なんで進級できなかったんだっていうくらい強い。
「フリル君、例の技に挑戦するしかありませんよ」
「でもさ、ここまで来たから、まあいいじゃん? 花持たせてやろうよ。年上だし」
「フリル君のご家庭と違って、メモリ君は特待生なんです。進級だけでなく、授業料免除も掛かってるんです」
「ああ! そうか!!!」
「まったく、望月君は人の気持ちってものが、まったく」
「あー、おしまい、おしまい、分かった!やるよ!」
魔法の発動には時間がかかる、まず、俺が火の矢を細かく放って、相手を攻める、その間に、フリルが風を起こし、俺が炎を加える。
成功した!
会場にでっかい、火災旋風!!!
俺と、メモリは同時に喜びで抱き合う!!!
慌てて、思い出したようにメモリが俺を突き放す。俺は笑ってまた、メモリに抱きつく。
油断……、しすぎただろうか。いや、それ以前の問題。相手が、小さな光る石を握っている。
魔法道具だ......。
一人が止めるが、もう一人が手を掲げる。大きいな水の竜巻が現れ、火災旋風を消しただけでなく、俺たちにも迫ってくる。
これ……場外に出るだけじゃすまなくない!?
俺は、メモリを突き飛ばす。
今度は間違いたくなかったから……。
山田君にまだ「ごめんね」を言ってなかったから。
水の強烈な魔法を、俺はもろに食らってしまう。痛いなんてもんじゃないな……コレ。
気が付いたら、俺はメモリの膝の上だ。教師や、あたりが騒がしい。
メモリがボロボロ泣きながら、俺の片手を両手で握っている。
ウソ……、俺は死ぬのかな? 転生先で死ぬとどうなるの???
「望月君……」
そうだ……いわなくちゃ。「ごめんね」を。
「山田君……。イジメちゃって、ごめんね……」
「……思い出したの?」
「ううん……」
「思い出してないのに、謝るの?」
「……いや、うん。なんか死んじゃうかもだから、スッキリしておこうと思って」
なんじゃそりゃって感じで、ボロボロとメモリが泣きながら、少し笑う。
「……本当に素直になったね。そう……。望月君はいつも、僕をイジメてた。望月君はカースト上位の子達に好かれようと必死で、そのために、いつも僕をからかって、イジメて、ネタにしてた。だから……僕は毎日学校に行きたくなかった」
「ご、ごめん」
「でも…、でもね……、二人だけで帰る時、望月君は優しかった。好きなアニメや漫画の話をしたんだ。あの日、特に望月君は普段よりも饒舌だった。家が貧しくて、それが原因でイジメられたくなくて、いつも必死なんだって言ってた。でも、そんなこと僕は知るかって感じだよ。だからって、イジメられる僕はなんなんだって、謝罪のつもりって?」
「ご、ごめん……。本当に」
「あの日、僕らは、夕方で見通しが悪かった道路でトラックにひかれてしまったんだ。......あの時も、望月君は今みたいに僕をかばってくれた」
「……? 山田君も転生しちゃってるじゃん」
「そう、望月君が突き飛ばして、余計にトラックにぶつかっちゃって」
「……ダメじゃん……。てか……、自分で言うのもアレなんだけど、もしかして、自分が助かりたくて、山田君を突き飛ばしちゃったのかもしれなくない?……」
「ううん。それは違う。僕を突き飛ばしてなかったら、望月君は事故自体に合ってないから」
そうか……、それは、よかった……のか? あ、いよいよ意識が。
メモリの、山田君の涙が俺の顔にボタボタ降ってくる。
「僕は......、望月君が大っ嫌いで、ほんの、ほんの、ほんの少しだけ好きなんだ」
「……ほんのね。フフッ。この世界みたいに、最初から仲良くなれたらよかったね......」
「うん......。あとね、よく望月君と、お話も作ったんだ。僕が異世界ではメモリっていう名前のチートの少年で、望月君はフリルっていう名前の貴族で優秀な少年。二人で魔法学校のトップになるんだ」
「それって……」
「そう……。トップにはなれなかったけど……、望月君!?」
あ、ダメだ……。本当に、もう、瞼が重い。
ーーーー
目を覚ますと、日本の病院? かな?
両親、そして、弟、妹が俺の顔を覗き込んでいる。弟と妹がボロボロ泣いていて、それが俺の手にボタボタと落ちている。
俺は、なんとか生還した。
リハビリも順調。とうとう、高校へ登校できるようになった。
一緒に事故にあった山田君は、俺より軽かったって両親から聞いていた。
あの異世界でのことは夢だったのかな?
教室に入ると、山田君がいる。カースト上位の奴らに、囲まれてる。
山田君、異世界ではカワイイ女子に囲まれていたのに!
でも異世界と一緒なことがある。君は……一人じゃない。
僕は、あの時みたいに美少女ではなく、カースト上位のやつらと、山田君の間にはいる。
「今から山田君とアニメの話するからどいてくんない?」
事故にあってから人が変わったんじゃないかと、カースト上位のやつらが言ってくる「ペコペコ餅つき、モッチーが!」って! 何そのあだ名!? センスなくない!?
俺は恐る恐る、山田君に声をかける。あの名前で。
「……メモリ?」
「やめてよ! 教室でその呼び方。恥ずかしすぎる!」
そうか、コレはもともと二人の空想の話なんだ。少し寂しい気持ちになっていると、山田君がニヤっと笑う。
「嫌味なフリフリ、フリル!」
そそそそ、それは!!! 考えてないぃぃぃ!!!!
山田君は笑って俺に話し出す。
「望月君と連動するみたいで僕もあの後少ししてから、こっちの世界に戻ったんだ。フリル君は大丈夫だったよ。元気にまた嫌味いってたよ。メモリ君も多分僕がこっちにいるから、戻ったんじゃないかな」
「夢じゃ!」
「夢じゃないよ!」
「早く言えよ! 見舞いに来て言えよ!」
「本当に望月君は人の気持ちが分からないなー。僕だって、僕だけの臨死体験かな?とか、思うじゃん! 言ったら変な奴だと思われるかな?とか、思うじゃん!」
「そ、そうか……」
あー、本当に俺は人の気持ちが分からないんだな! 嫌になる! 俺が自分の頭を掻きむしっていると、山田君がいう。
「本当に分かってないよ......。教室に入ってきて、望月君が僕に声をかけてくれた時、僕がどれだけ嬉しかったか……」
山田君が目に涙を浮かべて、はにかむ。その姿はメモリのまんまだ。
俺も、山田君に笑顔を返す。
俺は山田君の顔をじっと見つめる。当然、山田君は不思議そうだ。
「な、何?」
「山田君、ちょっと顔貸してくんない?」
「は?」
「その重たい髪をなんとかすれば、割とメモリなんじゃね? ちょっとワックスもってっから」
「い、いいよ!!!」
「大丈夫、大丈夫。悪いこといわないから」
何故か必死に抵抗する山田君の頭を、なんとか抑えつけながら、二人でケラケラ笑う。
あの世界はなんだったのかな……。
フリルは僕で、僕はフリルで……、メモリは山田君で、山田君はメモリで……。パラレルワールドってやつなのかな?
フリルと、メモリも、あっちで仲良くしているのかな?
きっと、そうだ。二人で魔法学校のトップになるんだ。そうに違いない!
あっちの世界も楽しそうだ。
だけど……
魔法も、魔法大会もないけど、こっちの世界でいい。いや、こっちの世界がいい。
俺と山田君の冒険はこれから、始まるんだから!
リア充な俺が、嫌味な貴族に転生してしまった件! おしゃもじ @oshamoji
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