リア充な俺が、嫌味な貴族に転生してしまった件!

おしゃもじ

第1話 我があだ名は「嫌味なフリフリ、フリル」!?

 俺は望月優17歳。


 両親は共働き。小さな弟と妹の面倒をみながら高校へ通う。


 自分でいうのもなんだけど、成績は優秀、スポーツ万能、ルックスもいけてる。友達もいっぱいるし、女の子からも、それなりにモテる。


 家は裕福ではないが、弟や妹はカワイイし、毎日が楽しい。


 こんな日々がずっと、続くのかと思っていた。


 そんな俺は......、今、西洋風の豪奢な部屋の大きなベッドの上で目を覚ます。ここは一体? 自分の手元を見るとフリフリのフリルがついたパジャマ。パジャマっていうか? ネグリジェ?ってやつ???


 ベッドから起き上がり鏡を見ると、金髪で青い目の少年の姿がそこにある。俺が右手を上げると、その少年も右手を上げる。俺が左手を上げると、その少年も左手をあげる。


 ……。これは......俺!?!?


 部屋の扉が開く。ビクッとして、そちらの方をみると、高齢の女性がそこに立っている。とても品が良く、優しそうだ。メイドのような服を着ているところからいって、この家の使用人だろうか?


「坊ちゃん。そんなに鏡を見てどうしたんです? 好きな女の子でもできたんですか? 大丈夫、坊ちゃんは男前ですよ」


 「ほほほ」っと、からかうように笑う。

 それでも状況が分からず、俺がボーっとしていると、少し怖い声を出す。


「ほら、早くなさってください! 学校に遅刻しますよ! まだ、ばあやの着替えのお手伝いが必要ですか!?」


 怖いお化けのようなそぶりをして、その高齢女性が近寄ってくる。その姿は楽しそうだ。俺は慌てて声を出す。


「だ、大丈夫です!!!」


 そう俺がいうと、「おやおや、かしこまって、敬語なんか」と笑いながら部屋を去っていった。


 「この金髪の少年は愛されて恵まれているんだろうな……」と、突発的に思う。いや……、それどころではない、なんか、ステータス的なものが見える。


 クラスメイトのオタクの山田君が言っていた。これは多分、異世界転生したヤツが見える、お決まりのやつ! 異世界転生ものは読んだことがないけど、オタクの山田君が言っていたのだから、間違いがない。


 どれどれ……、職業……金持ち……、特技……嫌味……。って何それ!?!? 何かカッコイイものはないものかと、探すけど見あたらない……。これだったら、前の方がいいじゃないか!


 と、とにかく、このフリフリを着替えて、この部屋を出ないと、また高齢女性が出てきてしまう。


 部屋を見渡すと、ちょっと軍服っぽいお洒落なジャケットに、スリムなパンツ、そしてロングブーツが目に入る。多分……これだろう。それらに着替えて、手早く部屋をでる。


 これまた床が大理石の豪奢なダイニングに入ると、そこには金髪の男性と、女性が笑いながら、この少年に挨拶する。


 「おはよう、フリル」


 この少年の名はフリルというのか。そしてこの男性と女性は、少年の両親。高齢女性と同じく、品がよく、優しそうだ。

 身なりからして、両親はこの豪奢な家の主に違いないが、先ほどの高齢女性と一緒に、朝食をキッチンから運んでいる。むしろ、高齢女性を気遣うようだ。

 物語の中で出てくる、高慢ちきな貴族とは様子が違う。


 また、ボーっとしていると、変に思われてしまうので、いそいそと食卓につく。


 焼きたてのクロワッサンに、スープなど、体によさそうで、美味しそうなメニューが並ぶ。......、待って……貴族でしょ? 食事のマナーとかどうすんの?

 てか、俺、まだ挨拶してない!


 「お、おはよう? ございます? お父さま? お母さま? ばあや?」


 すると、三人が面食らう。そして顔を見合わせて笑い出す。


「どうしたの? フリル? 朝はいつも不機嫌で挨拶なんてしないのに!!!」

「今日は雨でも降るんじゃないか?」


 ……。大丈夫か? このフリルってヤツは。この調子だと、食事のマナーは大丈夫そうだな。


 なんとか食事をすませて、学校へ向かう。不審がられたが、ばあやに聞くと、学校は魔法学校だ。

 貴族だから馬車か何かで行くのかと思ったら、徒歩だ。両親がそういう方針らしい。

 甘やかされているのかと思いきや、しっかり躾もされている。本当に恵まれてるんだな……フリルってヤツは。


 現実世界の小さい弟と、妹のことが心配になってくる。あいつら、ちゃんと朝ご飯食べたかな......。


 そんなことを考えていると、突然背後から、誰かが思いきりぶつかってくる。痛い!


 ぶつかってきた3人ぐらいの同級生かと思われる少年がニヤニヤ笑ってこっちを見ている。


「やーい! 嫌味なフリフリ、フリルー!」


 何!? そのあだ名!? おまえら、高校生くらいだろ!? なんだ!? その小学生みたいなイジメは! フリルが通うくらいの学校だから金持ちのボンボンが集まるのか、どいつも身なりがいい。


 そんなこと言って! フリルは両親や、ばあやにとっては、可愛くてしかたのない子なんだぞ! 


 ヨシ! 俺がバシっと言い返してやる!


「黙れ! 平民が! この俺を誰だと思ってる! お父様にいいつけるからな! お前らの親なんて、僻地に送ってやる!!!」


 ま、待って! 口からすごいセリフが勝手に出てきたよ!? フリル!? 3人は「うっわ! 性格わるーい! グリーン様がそんなことするわけないだろ!」といって、笑って走っていく。


 フリル……、あの両親からは想像もできないような子供だな。


 グリーン様っていうのは、フリルの父親か......。同級生たちもフリルの父親には一目を置いていて、そんなことしないって分かってるんだろうな……。


 優しいパパとママ……、さらには、ばあやにまで甘やかされて、性格曲がっちゃったんじゃないか!? フリル!?


 あー、もうヤダ。もとの世界、望月優に戻りたい!!!


 西洋建築で重厚感あふれる大きな校舎。これが、魔法学校かー。ちょっと、さすがにワクワクしてきてしまう。


 だけどフリルの特技は嫌味だからなー。


 さっきの3人組に不審がられながらも、教室に一緒に連れていってもらう。「どうした? 頭の中までフリルになっちまったのか?」って、言われる。まったく……。こういうセンスってどこからくるの?


 不審ついでに、「そのあだ名は、なんなのッ!?」って聞いてみる。

 入学式に、肖像画の中にいる音楽家みたいな恰好で現れ(この世界でもしない恰好らしい)、さらに性格が嫌味だからだそうだ。


 嗚呼……。フリルよ……。

 君の体を借りている身だ。俺のスペックで少しは地位向上に努めるよ。


 教室に入ると、大学の講堂のようだ。すごい人数の生徒達。ばあやが言っていた。名門の魔法学校だって。フリル……、裏口じゃないよね!? まあ、あの父親がそんなことをするようには思えないから、入学はなんとか頑張ったのかな?


 教壇に一人の少年が現れる。転校生だそうだ。

 茶色の髪、茶色の目、可愛らしく整った顔立ち。どこぞの村出身で、特待生だそうだ。


 特待生ねー。余程、優秀なんだろうな。フリルと違って主人公って感じ。いいなー、どうせなら、あっちに転生したかったよー。だって異世界だよ!? バンバン、魔法とか使いたいじゃん? 少年の願いじゃん!?


 成績優秀な俺も座学は退屈だ。というか、魔法の勉強とか大丈夫か!? と、心配したが、その辺の下地的なのはフリルの知識が使えるみたいだ。

 努力家なのか、フリルは良く勉強はしている。


 そして......、実技の時間。魔法の実習!!! フリル、実技はどうなんだ!? 意外にいけるのか!? いや、しかしステータスで特技が「嫌味」だった。得意なら、そこの項目が違うはず! ダメかー……。


 実技時間は講堂とは違い、細かくクラス分けされていて、屋外で行うようだ。


 そこに現れたのは、あの特待生の少年。名前は確か……、メモリという名前だったかな......。


 先生がメモリの相手をするように俺に言ってくる。マジっすか? 先生? 俺の特技「嫌味」ですよ? 相手は特待生ですよ? 優秀に決まってるじゃないっすか!!! と思って、大人しく断ることにする。


「僕が相手を? こんな田舎者の貧乏人に? 転校初日から痛い目をみても知りませんよ???」


 フリルーーーッ!!!!! バカ!!! 


 フリルの魔法の知識が使えるのと同じ原理?なのか、フリルの口癖みたいのが、勝手に!!! ていうか、フリルも、こうして頭の中と違うことを言っちゃってたのかな!?

 

 メモリと向き合う。メモリが右手を上げると、手から雷のような渦がバチバチ……。何!? それ!? 超カッコイイ!!!


 フリルの手が勝手に、地面の方に手を向ける。落ちていた剣が手に吸い寄せられるように、浮き上がる。


 フリル! すごいよ!!! カッコイイ!!! それなりに、実力あるのか! フリル! そうだよな、じゃなきゃ、先生が特待生の相手に指名しないよな。


 その剣が火をまとう。スゲー!!!! 超カッコイイよ! フリル!!! 俺も嫌味なフリフリ、フリルだと思ってごめんね!


 と、思ったのも束の間。


 メモリの雷は、あっという間に倍以上に大きくなり、俺が攻撃する間もなく、ビリビリっと……。

 俺は倒れて、フリルのサラサラの髪が、実験に失敗した博士みたいに!!!


「お父様に……、お父様に言いつけてやる!!!」


 あっという間についてしまった決着。嗚呼……、もう、本当に当て馬な貴族ぅ!!!!


 メモリがそんな、俺に手を差し伸べる。

 嗚呼……、これぞ主人公。嫌味な貴族にも優しい。


「望月君?」


 へ? 俺の名前をメモリが口にする。


「俺だよ、山田隆」


 え!? 山田君!? オタクで冴えない!? 山田君も転生してたってこと!? 俺は嬉しくなって山田君と肩を組む。そして噴き出してしまう。


「え!? どうしたの!? そんなにカッコよくなっちゃって! 美少年じゃん! 天才じゃん!!! 別人じゃん!」


 俺は爆笑しながら、山田君の肩をバンバンたたく。

 メモリは俺をにらみつける。


「望月君は全然変わらないね? 嫌味なところとか、そのまんま」

「は?」


 俺はメモリの態度に、不機嫌になる。俺はリア充で、優しくて、前の世界では主人公みたいなポジションだった。何言ってるんだ? こいつ???


「いや、フリル君に悪いこと言っちゃった。望月君とフリル君は違う。フリル君は不器用な性格で思ってもないことを言ってしまうだけで、立派な父上に良く似て優しい子だって評判だ。みんなフリル君が好きみたいだ」


 何言ってるんだこいつ。フリルみたいに、みんなにからかわれるような人間じゃ、俺はない。


「転校初日でよく知ってるんだな?」

「手早く周囲の子に聞いてリサーチしただけ。あっちの世界みたいに失敗したくないから」

「失敗?」


 本当に何いってるんだ? 失敗って、オタクで冴えないのは自分のせいだろ?


「そう……。僕は望月君にイジメられてた。正確には望月君が必死でしがみついていた、カースト上位のグループに」

「は? 俺は転生前は、優しくて勉強も出来て、スポーツも......」

「……覚えてないの? 何も???」


 覚えて? 頭が痛い......。俺はこめかみのあたりを抑える。


「何で転生してしまったのかも?」


 転生? なんで? そうか、転生って事故か何かにあって……。夕方、トラックのヘッドライトが光っているのが脳裏に浮かぶ。あれ? なんで、そんなことに???


「望月君は幸せだな。何にも覚えてないだなんて」


 山田君も転生してるってことは、山田君の身にも何か? 俺がイジメてて、え? それって???


「ちなみに、望月君は優しくも、優秀でもなかったよ。記憶の改ざんがすっごいね!」


 え? 優しいくも優秀でもない?


「よかったじゃない! 優秀な貴族のフリル君に転生できて。転生ってやっぱり前よりも良くなるものなのかな? でも、メモリ君の方が魔法の力は大分上みたい!」


 呆然とする俺の肩に、ポンッと優しくメモリが手を置く。


「立場、逆転だね!」


 ニコッとメモリが笑う。何……これ……、ホラー!!!???

 

 待って、待って!惑わされるな俺! 分が悪い!!! だって俺何も覚えてないんだもん!!! 山田……、いやメモリが適当なことを言っている可能性だって!


 そこへ先生が口をはさんでくる。


「なんだ! 二人は知り合いなのか!」

「はい!」


 美少年メモリが、カワイイ笑顔を先生に向ける。待って! 先生! 騙されないで!!!


「じゃあ、成績を決めるペアでの魔法大会は二人でいいかな? 優秀な二人チーム、優勝したら、先生は嬉しいな!」

「任せてください! 先生!」


 「きゅるん」って感じで、また美少年メモリが照れ臭そうな笑顔を先生に向ける。騙されないで! 先生!!! グリーン様のご子息であられる、優しいフリル少年の身に危険が!!!


 てか、成績を決める魔法大会!? 何そのイベント性!!!


 メモリが、冷たい目でこちらを見下ろす。


「足引っ張らないでね、望月君」


 俺は空いた口が塞がらない。


 授業が終わった後に、メモリには、たくさんのクラスメイト達が集まる。そのクラスメイト達にも、可愛らしい笑顔を振りまいている。


 この、異世界転生はホラーサスペンスなの!?!? 復讐劇なの!? つづく!!!!

 


 

 

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