第1話 聖女エリーナの日常


「あれ……もう、朝?」


私はエリーナ・クラエンス、この国の第三王女だ。


本来なら朝は雲のようにふかふかで、大きい天幕が貼られている無駄に豪華なキングサイズのベットで目覚め、身支度はもちろんメイドが手伝い。


栄養バランスしっかり整った朝食が当たり前のように毎朝用意されているはずだ。


だが現在私の目の前に映る光景はキラキラとした天幕ではなく、床……でもなく床を埋め尽くす数の本(読了済みだ)。


体がやけに重い。


2日前から床に突っ伏したまま本を読み漁り、そのまま寝てしまったせいなのか。心なしか目も霞んでいる気がする。


「……全身バキバキで痛い。今、何時だろう。まだ間に合うかな」


本来王女がお世話係なしで図書館に2日間籠るなんて不可能だ。


唯一私の魔法が全く効かない、執事のミラー・ミハイルが2日間王族業務の補佐で城を開けているタイミングを狙い。

1日前から自分の周りに認識阻害の魔法をかけ。

神のお告げがあるからと、周りを言いくるめて。やっと得た2日間の至福の時間―――――――


私のお世話係であり、王族業務の補佐も務めているミラーが今日の夕刻時に。第1王子のカミール兄様の補佐業務から城に帰る手筈となっている。


万が一ミラーが戻るよりも私が図書館から出るタイミングが遅かったら、怒られる……!


前回は1ヶ月図書館立ち入り禁止とミラーから出される課題が2倍に増えていた。


次またやったらわかってますよね、?


と背筋が氷る鬼畜スマイルで微笑んでいたのが記憶に新しい。


……なんとしても、私の気ままな読書時間を勝ち取らなければ!


そう思い私は急ぎペンダントに念じた。


「大地の女神ガイヤ。エリーナ・クラエンスが命じます、あなたの力を貸して」


そう唱えると。

緑の蔦が巻き付いている鍵が突然空中に現れ、日頃肌に離さず身に付けているペンダントに刺さった。


直後光に包まれると、目の前に手のひらサイズのやけに顔が整っている美少年が目の前に現れた。


―――――何やらむすっとした顔でこちらを見ている。


「やあ。がき」


「こんにちは、ガイヤ。早速だけどいつものやつおねがいね」


「毎回毎回この僕をこき使いやがって。いつものあれはちゃんと、用意してあるだろうな…?」


ガイヤは羽の生えたメルヘンな見た目で精一杯こちらを威嚇している。


「もちろんよ!はいこれ特製のローズマリークッキー」


「わぁ!やったーー!!…………ごほん」


「ガイヤって子供みたいで可愛いわね」


あまりにも無邪気ないい笑顔でクッキーに食いつくものだから、ついそう口にしてしまった。


「うるさいぞ。僕は君と違って300年生きてるんだからな、まだ14年しか存在してない人間のガキに……もぐ可愛いなど言われとおないわ……もぐ。うむ、まあいいだろう。今回巻き戻せるのはせいぜい一刻だ、それでいいな?」


「うん!ついでにさ、今目の前にある本を戻して。私を寝室まで移動してくれない?」


「……僕は君の便利屋じゃないんだぞ」


「そう言わずにお願い!!今度新作クッキー焼いてくるわ」


「違うものが食べたい」


「じゃあ、マカロンはどうかしら?」


「マカロン?!あのサクッとした生地に、中身はチョコレートで作られたガナッシュが挟まっていて。見た目が可愛いだけでなく、中身まで人々を虜にするという。あの、マカロンか?」


「ふふ…そうよ、ガイヤはほんと人間界のお菓子が好きよね」


「ごほん……あぁ、人間は大嫌いだが。その人間が生み出した甘くて美味しい菓子にだけは感謝と尊敬の念を授けるとしよう」

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引きこもりな第三王女は家を追い出されたので、今度は自分で物語を探しに行きます。   枝咲 @mameeda12

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