A子とB子のSF雑談(スコシフシギざつだん)
向日葵椎
宣言解除
リビングのソファーでテレビを眺めるA子とB子。
A子が口を開く。
「今すごく宣言してるでしょ」
B子が答える。
「うん。コロナでねー」
「だからもうすべての宣言が解除されてウワサすら一つもなくなるまで家から一歩もでないようにしたらどうかと思うんだ」
「それはまた極端だよねー」
「じゃあちょっとやってみるね」
「え、何をー?」
「そうした場合のシミュレーション」
「あ、うん。いいよー」
「いやー、テレビニュースも落ち着いて、早速外に出てみるかなー、ガチャ――あー清々しい空気! ちょっと深呼吸でもしとこうかな……スー……ハー」
「いいねー」
「よしっ、マンション降りて郵便受け見に行こう。スタタタタ……いやーこの光景も久しぶりだな。おっ、郵便受けから手紙が溢れてる」
「たまにそういうとこあるよねー。引っ越したのかわからないけどー」
「すでに引きこもってるのかもしれないね――はっ、先を越された!」
「いやそれはないと思うー」
「で、郵便受けは後回しにして、とりあえず道路まで出てみるわけ」
「手紙は帰りに持っていくんだねー」
「すると何か違和感がある。世界が、やけに静かだったのです」
「急にどうしたのー?」
「まあまあ聞いてくださいな。あれれーおかしいなぁ、とシーンとした世界を歩いて駅前の方へ歩いていく。案の定、人の影は一切なし。実に不思議なことですねぇ」
「そうだねー」
「まさかみんな引きこもってるのかなぁ、と考えつつも、そこで今朝見たニュース映像を思い出すんだ。いつも通り事件に事故にインタビューからエンタメ情報なんかの映像で街の様子が放送されてて、いつも通りに人々は生活しているらしかった。だからこんなに人通りがないのはどういうことだろうと思うの」
「たしかに不思議だねー」
「うーん、と悩む。そんなとき遠くで声が聞こえるんだ。『おーい』って。声のした方へ目を向けると、B子がこっちへ手を振りながら歩いてきた」
「えっ、私が?」
「そうそう。それで、あっ、会社の同期のB子さんだ。おーい! って私も手を振りながら駆け寄って――」
「ちょっと待って」
「え、何?」
「そこは付き合ってる、とか恋人、とかにしてくれないのー」
「そうすると引きこもってるあいだずっと寂しい思いをさせちゃうでしょ」
「あ、そっか。ありがとねー」
「うんん、そうなったら私も寂しいからさ。えへへ」
「えへへー」
「えへへへへ」
「えへへへへー」
「で」
「あ、それでー」
「それで、やけに静かだねーってB子さんが言うの」
「B子って呼んでよー」
「うんわかった。で私もB子に、そうだよねおかしいよねー、そういえばB子はどうしてここに? って聞くの」
「なんだろうねー。私のことだけどー」
「するとB子は、宣言解除されて世の中が落ち着くまで家に引きこもってようと思ったんだー。私は、なーんだ、一緒かーって言うの」
「あれ、じゃあ付き合ってる設定で一緒にこもってた方がいいよねー」
「待って待って、混乱してきた。じゃあいったん整理するね。今まで一緒に引きこもってたことにして、さっき一緒に部屋から出てきたことにしよう。ばったり出くわしたくだりは無しで」
「うん、それがいいねー」
「それから一緒に街を歩きながら考える。そのときポツリとB子が言うわけ。『まるで世界に取り残されたみたいだ』」
「私急にそんな詩人みたいなこと言うのー」
「そうだよ。B子のセリフはいつも私の胸に響いてるんだから。えへへ」
「えへへー」
「えへへへへ」
「えへへへへー」
「で」
「あ、それでー」
「私が、『
「なるほどー」
「世界は移り行く浮世、動き続けているものだから、引きこもってるうちに世界に置いて行かれてしまったのでした。おわり」
「おー……そういえば、これってシミュレーションになってるのかなー」
「物事は想定通りにならないものさ」
「ごまかしたねー」
「まあ、一緒なのは変わらないだろうね。えへへ」
「えへへー」
「えへへへへ」
「えへへへへー」
それからまた他の雑談を始める二人であった。
A子とB子のSF雑談(スコシフシギざつだん) 向日葵椎 @hima_see
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