第3話 働くということ
正直かなりショックだった。バイトで落とされるってあまり聞いたことがない気がする。私はもしかして甘やかされて育ったのかな。
クラスの友達には、バイトの面接に落ちた事は言いづらい。恥ずかしい。
「こないださー、隣町のカラオケのバイト落ちたわ。もう行けないし最悪」
女友達には言えないけど晴人には話しちゃう。
「そうなんだ、どんまいどんまい。また次探そーよ」
晴人はスマホをいじりながら答えた。あわよくば晴人のバイト先紹介してもらおうと思ったのに冷たいヤツ。
まぁいいや。私にはお母さんの紹介の所があるし。
「お母さんの知り合いのとこで決まったんだよね。翡翠荘って知ってる?」
「おお、昔からある旅館よなー。なんか結婚式とかやってたって婆ちゃんが言ってたな」
「私、そこでバイトしてみる。お母さんの友達がやってるらしくてさ」
晴人は興味無さ気だ。スマホをいじりながら、遊びに行くねーと呟いた。
実際のところ、友人関係というのは強いもので。私はトントン拍子で初出勤の日を迎えた。自転車で20分。お母さんの友達の旅館だから安心だ。
事前に教えてもらった自転車置き場に自転車を停めて従業員出入り口に向かった。
「今日からお世話になります。松木です。」
出入り口で待っていてくれた人に声をかける。あ、なんか小さい頃に会った事あるような。忘れていた記憶が蘇る感覚って初めてかも。
「あらあら、藍里ちゃん。当たり前だけど大きくなったねぇ。お母さんに宜しくお伝えしてね」
そう言うと優しそうな表情になったのを私は見逃さなかった。親戚の様なやり取りは一瞬。凛とした表情に変わっている。
「翡翠荘本館、三代目女将。
そう言うと深々と頭を下げるのだった。
私の故郷は温泉街 睦月 @mutsuki1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。私の故郷は温泉街の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます