第2話 小さな一歩
登録されたメールアドレスに面接の日程が送られてきた。学生というところを考慮されてなのか、平日の夕方。学校が終わってからなんとか行ける。
「お母さん。明日帰り遅くなるから。隣町にバイトの面接に行く」
今日は、お父さんはお仕事で帰りが遅い為不在である。お母さんと2人の食卓で切り出した。
「隣町? 電車で行くの? 何の仕事なのさ」
「んーん、自転車で行ける距離だから。帰って着替えて行ってくるね 。カラオケボックス〜」
私はマイクで歌う仕草をしながら2階へと駆け上がった。
翌日、授業が終わるのが待ち切れなかった私は、いつもより落ち着きがなかったと思う。帰宅して、そこそこ綺麗目な服に着替えたら時間も追っていた。
急いで自転車に飛び乗り隣町のカラオケボックを目指す。時間ギリギリに辿り着き、中を覗き込んだ。全国チェーンのカラオケボックス、ついにこんな
平日の夕方。娯楽の少ない田舎だからなのか、とても賑っている。
「すいません。バイトの面接に来たんですけど…」
受付待ちの列を無視する形になって少し気まずいけれど少し割り込ませてもらった。
「えっ? ちょっとお待ち下さいね。店長〜」
「えーっと。 18時から面接の松木さん?」
そう。私の名字は松木。
中年と若者の狭間みたいな店長が出てきてリアクションに困ってしまった。
「あっはい、松木です。 よろしくお願いします」
「じゃあこっちに来てくれる? ちょっと狭いけど。はじめまして。店長の
長田さん長田さん。これからお世話になるだろうおじさんの名前を一生懸命覚えた。
「えっと、何曜日に働けそうかな? 時間とか希望ある?」
愛想が悪い、とはまた違った不思議な雰囲気を出す人だ。ちょっと苦手かなぁ。
「そうですね、出来れば土日が良いです。時間は4時間くらい働きたいです」
「土日はね〜人気だよ? 皆入りたいからさ。今日よりお客さんも多いし、長く働いてくれると助かるな〜」
「そうなんですね。それじゃあ土日なら沢山働きます!」
「うんうん、そうしてくれると助かるな。えーっと、家は隣町だっけ。今日は遠くからありがとね。また結果は連絡がいくからさ」
「はい、ありがとうございました!」
気難しそうな長田さんだったけど、話してみたら割と優しかったな。
私はもう既にバイトを始めた生活を妄想していた。受付であったお姉さんと仲良くなれるかな、とか忘年会に参加する時の服装どうすかな、とか。
そんな私の妄想は、面接の2日後に崩れ去ったのだった。
「『今回は採用を見送らせて頂くことになりました』?! つまり駄目だったってこと?!」
まじかぁ。何がいけなかったのか。ググってみると、面接の礼儀やマナーが色々書かれていた。あ、私ダメダメだったわ。
そして何より収入のアテが無くなったのと、もう2度とあのカラオケに行けない…。
「おかぁさーん。カラオケ駄目だった」
夕飯前の食卓に突っ伏しながらスマホをいじる私。
「何、やっぱり不採用? そんな事だろうと思ったわよ」
こちらを見ることなく夕飯の支度を続けるお母さん。他にもバイトがないか探してみるも、近くに高校生可のところが無い。
「お母さんの友達のところに話つけといたから。今度の土曜日、15時に
背中を向けたまま、マフィアのボスのように話すお母さんが私は大好きなのである。
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