午前三時
横井慎一郎
第1話
夜は余計な事を考えやすい。
一日の振り返りや生きている意味、昔の黒歴史。慌ただしく流れていく昼間とは違って穏やかに流れる夜の波の中で、そう言った考えなくてもいい事を何時間も考えている。
これは全て、眠れない夜の
午後十一時。
風呂から出た後に少しだけSNSを見る。
早く髪を乾かさなければ風邪を引いてしまうな、生乾きだと菌が繁殖するとどこかのサイトに書いてあったなと考えながら、スマホを無心でスクロールする。内容が頭に入る前に、画面は上へ上へと移動していく。
急に、身体が震えた。
夏の夜とは言え、クーラーの効いた部屋に濡れたままでいると、ほんの少しだけ肌寒さを感じる。壁掛け時計を見ずにスマホで時間を確認すると、風呂を出てから二十分以上経っていた。
「そりゃ寒くなる」と独り言を呟き、脱ぎ捨ててあったTシャツを着てからドライヤーの電源を入れた。
午前十二時。
日にちが変わったのを確認した後、特に意味もなく動画を見始める。あなたへのおすすめに出てくる動画の中で、自分の暇だと言う渇きを潤してくれるものがないかを探す。
「…はは、つまんね」
空虚な部屋に、自分の独り言が溶けていった。画面に映し出された「
午前一時。
動画に飽きた後、手元にあった本を捲った。表紙には「人が生きる
いつ買ったのかを思い出していると、確か本屋でタイトルに一目惚れをして買ったものだったような気がした。これを読めば、生きる意味が分かると思ったのだろう。
しかし、思考には個人差がある限り、自分が思う正解と言うのは結局のところ。自分で導き出すしかなかった。
午前二時。
部屋の壁掛け時計が一定のリズムで音を鳴らす。カチ、カチと針が移動するたびになる音を、天井を見つめながら聞いていた。
「あ、ビデオの返却日…今日か」
ベッドから降りて部屋に散らばったレンタルビデオを集める。別の事に意識を向けているからか、いつの間にか時計の音は聞こえなくなっていた。
「これだけ返却期限過ぎてる」
書類に埋もれていた一つのビデオは、二週間も前に借りたものだった。
「あー、延滞料金払わなきゃいけないな…」
頭を軽く
ビデオを拾う度にぽつりぽつりと出ていく独り言は、また部屋の中に溶けていった。
午前三時。
遂にやる事がなくなった。
ビデオを拾うついでに床に散らばったゴミを捨てていると、そのまま流れで軽く部屋の掃除をしてしまっていた。
疲れがどっと体に押し寄せてくる。体は疲れているはずなのに、目は冴えていた。
暇な気持ちからまたスマホを触る。いつもの流れでSNSを開いてしまった。タイムラインに表示された最後の投稿は、一時間前のもの。それを見た瞬間、眠気が急に襲いかかってきた。
「あ、寝れる」
そう思った瞬間、意識がふっとどこかへ飛んでいくのが分かった。
今日の起床時間は午前七時。
それなのに、眠りについたのは午前三時。
起きるまでの四時間を、海を漂うように眠る。明日、起きられるのかな。寝坊したくないな。眠りにつきながらも、そう言った考えなくてもいいような事を考えている。
ゆらゆらと揺れる意識の波の中で、全ての無駄な考えは一つの結論に辿り着いた。
────ああ、寝坊しても仕方ない。
これは全て、眠れない夜の
午前三時 横井慎一郎 @yk_25
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