第39話 アラス様と帝国へ
その後のアラス様の歓迎の晩餐も行われた。
もちろん聖地の皆様も一緒にだけど、マリカはお兄様に色目は使うけれどアラス様には全くだった。どうやら既に顔見知りのようだった。
「以前、エードラム帝国に押し掛けてきたのを追い返した」
そう言って悠然と微笑むアラス様にルドガー神官は引きつった笑顔を浮かべていた。マリカに至ってはびくりと肩を竦ませていた。そしてお兄様に視線で救いを求めたのよ。お兄様はあれだけ慕っていたアラス様を睨みつけた。
「アラス様、マリカは可愛いでしょう? どうしてそのようなことを」
「……フォルティス王子も大変のようだな」
アラス様が苦笑をするとますますフォルティスお兄様は苛立たしそうな表情をなさった。本当にマリカが来てからお兄様は変わってしまった。いいえ、お父様やお母様までも、まるでマリカを娘のように可愛がっている。
何度かお話したけれど相手にされないどころか私の方を邪険にするようになった。他の貴族だって……。
セレクが晩餐の席で生演奏をしていた。始めて聞く調べはどこか物悲しい曲だった。しかし、それもアラス様が食事には合わないとばっさりと切り捨てて更には部屋から追い出してしまったのだ。
まあ、お食事中には確かに向かなかったしね。
それからはとりあえず久しぶりに穏やかなお食事になった。正直マリカと一緒の食事は落ち着かなかったの。
そして、食後は私がアラス様のお話相手を務めることになったのよ。まあ婚約者ですものね。
今夜は月が格別美しかったので中庭へと案内して、今はなんとアラス様と二人きりなのよ。
でも、まあ、お互い恋愛対象とするにはまだちょっとだし、次期帝国皇帝たるアラス様が私にそうおいたをすることを心配する人もいないと思う。
月明りで明るい中庭を二人でゆったりと散策しているとふとアラス様が歩みを止めた。私は怪訝そうに見上げるとアラス様は真摯な表情をなさっていた。
「何やらエイリー・グレーネ王国にも騒乱の兆しが有りそうだな」
「え? それはどういう……」
「あの聖地の連中だ。そなたが気がついておらぬのか?」
「いいえ。何も……」
「それにそなたの扱いが酷いな。本当なら、そなたに帝国の重石を背負わすつもりはなかったのだ」
「それって……」
つまり、ほとぼりが冷めたら婚約を解消するという話ですよね?
「だが、今日の晩餐の席で感じたのだ。このようなところでそなた一人置いておくことはできないと」
「……」
ここ数日本当に皆変わってしまった。まるで魅了の術でも掛けられているかのよう。――まさか、『薔薇伝』の術にそれはあるけれどそれを防ぐ術も持っているはず。だからそう簡単にはかからないはずなのだ。
「最初はそなたの小さな肩に乗せられているモノが少しでも軽くなって憂いを晴らせるならと、それだけだったのだが……」
アラス様は私の前で片膝をついて見上げるようにしてきた。
月の光の下で幻想的な雰囲気と相まってただならぬ雰囲気になっている! アラス様の瞳に星の光が宿っているように見える。
「――だが、そなたのような者はいない。いや、これからもそなたのような人は見つからぬ」
……こ、これって、何気にマズイのではないかろうか。
アラス様のあまりの真摯さにその場を茶化して誤魔化すことも出来ず。私は星の光を宿したその紅い瞳を見返すだけだった。
――アラス様のことは嫌いではない。寧ろ推しキャラだった。だけど今の自分ではどうしたらよいのか分からない。今までリア充は爆発したことなど無かった。皆無。虚無。虚無僧。
「もし、余の隣にいるのも、顔を見るのも嫌いと言うなら諦めよう。但し、それができるかどうか分からぬがな」
「そ、それはありません! あの、その嫌いとかではなく……」
――寧ろ好みのドストライクでございます!
あの覇王とも喚ばれるほどのイケメン皇帝アラス様の悲し気な言葉と様子についほだされて、
「とても頼りにして好ましいと存じます」
気が付いたら私は飛んでもない告白めいた言葉を返してしまっていた。
……だ、だって、現実でこんなシチュエーションは無かったのよ。
アラス様の悲しそうな姿に申し訳なさすぎで、ついその口が滑ってしまった。
アラス様は驚いたように見上げてきたが、口元には笑みが浮かんでいた。
「では……」
もう、開き直るしかない。
「そうですね。わたくしもアラス様の国は一度足を運んでみたいと思っておりましたの。それに新しい魔道船にはとても興味がありますわ。……ですが、私の体も随分良くなりましたけれど、そのような長旅ではどうなるか分かりません。それでも宜しければ参りましょう」
私が言い終わるや否や、ぎゅっとアラス様に抱き締められていたのだ。
「ありがとう。礼を言う。確かにそなたの体は心配だな。どうにか負担にならないように考える。とにかくこのようなところにそなた一人置いてはおけぬ」
――あぁぁぁ、こんな筈では。
でも、帝国に行けばきっと国民や貴族達は他国の姫との婚儀など反対しているかもしれない。きっとそう。アラス様にお似合いの令嬢とかが出てきて私に嫌がらせとか婚約破棄とかあるかも。
そんな暢気なことを私は考えていた。
そして、私の助言により開発された魔道船に乗って帝国へと旅立つことになった。両親や兄からはとくに反対もなく、元々私の婚約は決めっていることだったので帝国での皇子妃の教育もあるとのことで準備が進められた。
「これがそうなのですね」
目の前にはあの薔薇伝に出てくる魔道船があった。私の下手な絵でも伝わったみたいで私は感動して見上げていた。
「そなたのお陰だ。我が帝国は何処よりも早く強い船を造ることができた。ただ、まだ試作段階だ。それに貴重な魔石や機材を使っているので量産はできない」
「そうなのですね。それでも……、これがあればきっと」
――闇の神との聖戦に臨むことが出来る。そのためには飛行船の風の術式の組み換え理論さえ分かれば……。
私はアラス様と共に魔道船に乗せられる限りの護衛兵等と帝国へと向かったのだった。
第一章了
暫く書き溜めるため更新はお休みします。
応援等ありがとうございました。まだシステムが分かっておらず四苦八苦しております。
暁の薔薇の伝説~滅ぼされる国の王女みたいです~ えとう蜜夏☆コミカライズ傷痕王子妃 @135-etokai
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