第38話 アラス様と魔道船
「そなたの助言のお陰で新型の魔道船ができたのだ」
「まあ、それは嬉しゅう存じますわ」
どんなものだろう。やっぱり『薔薇伝』の通りの形でしょうか?
私は興味津々で尋ねた。
「随分開発が進んで、今回はその試作した船の処女航海を兼ねてのものだったのだ」
驚いたことにこちらの船は馬車のように箱型だったのよ。四角い箱をそのまま海やら川やらに浮かべてガレー船みたいに人力で動かすの。四角い箱は船内の快適さを求めてのことみたい。だからかとても遅い。私はそれで水の抵抗を少なくするため流線型のを提案してみたの。詳しい仕組みは分からないのけどね。でも、それで大分というか速度が上がって、更に帆船のことも話してみたこともあった。
本来ならエイリー・グレーネ王国とエードラム帝国の片道は船旅も入れて尤に二月以上はかかる。
「私の拙い思いつきのお話をさほどまでに信じていただけるとは……」
私はアラス様の話に感心していた。今まで私のアイデアを聞いてくれた人は少ない。王宮なんかは特に。
お父様もお母様も私の『薔薇伝』の話は理解できていないだろう。今ならもっとでしょう。
昔、向うでの話をしようとしたけれど子どもの戯言にように思われてしまった。そりゃそうよね。あと数年でエイリー・グレーネ王国は滅ぼされて、無くなってしまうなんて信じられないだろうし。まだ、古代ギリシャのカサンドラ王女のように殺されなかっただけでもましだと思わないとね。
家族の中ではまだお兄様は私のことを理解しようと努力してくれているのは感じていた。
『リルアは本当に凄いね。こんなことが出来るんだ』
『あら、今更ですか?』
私が無い胸を張って自慢げにするとフォルティスお兄様はにこりと笑って私の頭を撫でてくれた。まだまだ子ども扱いよね。
私はお兄様とのことを思い出して、最近の理不尽なことをするお兄様と比べてしまう。
「――それでは魔道船を使えば片道一週間ほどで着くのですか? ここからアマゾナス国だってそんな時間で着けるかどうか。本当に素晴らしいですね」
フリーニャの興奮した声で我に返った。
――いけない。アラス様が折角遠くからいらしてくださったのにぼんやりしてはいけないわね。
アラス様はフリーニャの言葉に肯いていた。
「海上の方が障害物は少ないので速度が出せるからだ。そなたの話した通りだったな。それに今回は聖地の有る海洋諸国を通らない航路を開拓する目的もあった」
アラス様はそう仰ると私に微笑んで見せた。
だって、地球の大航海時代もそうだったよね。いろんな人が世界一周を目指して進歩していったのよ。
そう言えばゲームの『薔薇伝』には転移門とか〇ーラとの呪文という便利なものは無かった。移動手段はあくまで船や馬車だった。
だから移動時間が掛かるのが地味に辛かった。
移動時間は本当に曲者でイベントによっては同時にできないものもあったのだ。だから一周ではやりきれないものがあって何度もやり込むことになる。
ただイベントをこなしているとそう後ろに戻る必要はない。
それでもストーリーの進行上、行き来をせざるおえないところもあった。
「ですが、直接、エードラム帝国とエイリー・グレーネ王国が行き来することになりますと大変なことになりませんか? とくに海洋諸国とそれに連なる聖地が黙ってはいないでしょう」
フリーニャがアラス様に尋ねた。アラス様はその言葉ににやりと笑みを浮かべられた。そして――、
「そのようなこと。黙らせればよいだけだ」
アラス様はまだ帝位に就いてはいないけれどもう風格とかそんなものが滲み出ていた。
「それにリルアを我が帝国に招き入れなければならない。体もまだ魔力が戻っておらず、極力旅の日程は少なくて済むようにと考えている」
「私の立太子式にはリルア王女に側にいて欲しい。帝国としても正式にリルア王女が私の婚約者であることを発表するつもりだ。リルア王女には今回の魔道船の開発状況も確認して欲しいのもある」
魔道船はとても気になりますが、エードラム帝国の皇帝の正式な婚約者になるのはちょっと困ります。
だけどそんなことを言うと帝国と離反ということになるのはもっと困るし、どうしたらいいの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます