第37話 聖女マリカと対峙

 『薔薇伝』では聖女はひたすら闇の神が残す闇を浄化していた。最後の方は全く効かなかったけれど。

 乙女ゲームの天然入った良い子のヒロインちゃんって感じだったけれど少なくともこんな我儘ではなかった。

「ねえねえ。ちょっと聞いてるの? この部屋にして欲しいと言ってるんだけど」

「そう言われましても……」

 聖女にいきなり部屋に入られて部屋を変えろと言われて面食らったけれど彼女の言い分を聞いてると頭痛がしてきそうだった。

 私が彼女の命令に従わないのが気に入らなかったようだがバルドとフリーニャに誘導されてマリカは不満そうにしつつも部屋を出て行ってくれた。

「部屋の警備はどうなっているのでしょう?」

 そう言ってアナベルが確認するも――。

「聖女様だから通したとのことでした。考えられないことです。あんな近衛兵は首にすべきです。本当一体最近の王宮はどうなっているでしょう?」

「聞いてきてくれてありがとう。アナベル。本当にお兄様があのような聖女と仲良くなっているなんて……」

 正直、そのことは結構ショックだった。優しいお兄様だったのに今では聖女にべったりで……。

「本当にフォルティス王子様らしくありませんが他の皆様もおかしいから何とも言えませんね」

「そうね。それにしても聖地の方々を悪く言うと不敬だと言われるかもしれませんがあまりにも横暴な行為だわ」

 マリカを追い出したバルドも戻って来て不思議そうな話に加わった。

「確かに聖女様がいらしてから皆さんおかしくなりましたね。どうかするとこちらの方が悪く言われ一体どうなったのかと思いました」

 バルドはフォルティスお兄様に解任されてしまうほどのことになったのよね。

「でも、全部が全部ではないでしょう? 何か共通点はあるのかしら?」

「共通点ですか?」

 アナベルやバルドが考え込む。

「……そういえば、あの歓迎会からでしょうか。私はあのときリルア様について宴席を離れたので、吟遊詩人の歌を聞いていませんでした」

 バルドがぽつりと言いだした。

「そう言えばそうですね。私もリルア様についていますので聞いていませんね」

 フリーニャとアナベルもそう言って同意を示した。

「……」

 セレクの歌。何か呪歌が歌いこまれていたのかもしれない。それにフリーニャが言っていた何かの雑音のような調べ。セレクは一体どちら側についたの?

 『薔薇伝』の中で闇側につくルートがあるのはアラス様とセレクだった。メインで選んだ場合はないけれどプレイヤーとして選ばなかった場合光側か闇側になって現れる。ランダムなので登場時にセーブしてやり直すことをお勧めされていた。

 セレク、聖地が闇に堕ちたなんてことはないよね。

 それから数日、マリカの突撃は無くそれなりに平穏な日々だった。ルドガーやマリカの周囲にいるセレクに話しかけるチャンスは難しかった。

 でも、実はセレクの闇落ちは分かり易い。ハーフエルフだから闇側になると髪が闇に染まるのだ。遠くで見るけれど黒髪にはなっていないので今のところ大丈夫かなと安堵していた。


 そうして、なんとアラス様がエイリー・グレーネ王国に到着したのだった。お父様達は無表情だったし、聖地のルドガー神官は忌々しそうにアラス様を睨んでいらした。何があったのだろう。

 アラス様の要望も有り私の私室での応対となった。一応婚約者ですものね。

「お忙しいのに大丈夫なのですか?」

「ふふ。婚約者の顔を見るために来たのだ。もう少し色よいことを言って欲しいぞ」

「はへ?」

 奇妙な言葉がでましたが、今のはアラス様の方が悪いです。今までそんな甘いムードなど経験値がございません。

 それに護衛にバルドやフリーニャだっているんです。

「そなたの提案の有った魔道船の試運転を兼ねて参ったのだ。エードラム帝国からだと一週間ほどで着くようになった。まだまだ改良の余地はあるがな」

「まあ! それは見たいです!」

 魔道船が出来たのね! これで決戦のときに備えられます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る