第4話 作戦会議とドラゴンゾンビ

 さて、エドガー。

 朝早くからこうして人目につかぬ物置へ誘導したのは他でもない。


 ゆゆしき事態だ。


 図書館を出入り禁止にされてしまった。


「……そりゃあだって、まる1にち鍵しめて占領して、おまけに本を何回も何十回も何百回もめくって傷めつけたんだもの。出入り禁止だけですんだのが奇跡だよ……あ、いてて」


 どうした?

 か?


「ちがうよ! けさ起きてから、からだじゅうが筋肉痛なんだよ。なんでかなあ。魔法をつかいすぎると筋肉にも負担がくるのかなあ」


 ああ、それは。


 きみが眠りこけているあいだに山の奥から井戸の底まで狩場をリサーチしてまわっていたからだな、きっと。


「え?」


 きみが眠りこけているあいだに山の奥から井戸の底まで狩場をリサーチしてまわっていたからだな、きっと。


「え?」


 きみが眠りこけているあいだに山の奥から井戸の底まで狩場をリサーチしてまわっていたからだな、きっと。


「3回きいたけどやっぱり間違いないようだ……。晋作、それってもしかして、僕のからだを勝手に動かして……?」


 もちろんさ、エドガー。

 私はいま、きみに取り憑いているのだからね。


 魔獣すら近寄らない毒ガス地帯だろうが、侵入すれば法をおかすことになる禁域だろうが、このからだを使って冒険するしか最適な狩場をさがす手段がないのだ。


 安心したまえ。

 せっかく見つけた攻略対象を、そうむざむざキャラデリしようとは思わんよ。アカBANも避けたい。


 昨夜は「最悪でも腕いっぽんロス」で済む程度のところまでしか探索しないよう配慮はしておいたのだ。


「……あのさ、晋作。いままでなんで言わなかったのか、自分でもよくわかんないんだけどさ」


 ほう。どうしたベスト・フレンド。


 もう少し無茶をしてでも適正狩場をさがすべきだったかね。

 それともレベリング以外に金策も必要だとでもいうのかね。

 そろそろレア装備がほしくなったのかね。

 むしろいっそ、意を決してボス狩りにでもいそしむかね。



「いやもう出ていってくんない? 僕のからだから」



 あっはっはっ。

 あっはっはっはっはっ。

 あっはっはっはっはっはっはっ。

 あっはっはっはっはっはっはっはっはっ。

 あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ。

 あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ。

 あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ。




「笑ってごまかさないで!!」





†††






 エドガー家の秘密会議室、もとい物置にかくれてこそこそふたりで話しあうこと約10分。


 学校への登校時間がせまるなか討議は煮つまり、エドガーが「次の効率的レベリング手段をさがす」という主目的をわすれ、からだから出ていくだの成仏するだのといった訳のわからんことをいいはじめてしまった。


 ここからさきは私ひとりで効率的レベリング手段について考えをめぐらせねばなるまい。



「出てってよ頼むから! へたな悪霊よりやっかいだよ!!」



 やかましいぞ甘ったれ。

 くず。

 あほ。

 マッシュルーム。

 猫背。

 へたれ。

 妄想癖。

 ニート。

 豚のケツ。

 肌質がおじいちゃん。

 口臭がドラゴンの死骸。



「必死」で狩りにいそしみレベルアップをはかるのも。

「必死」で次の効率的狩場をさがしまわるのも。


 すべては学校いちの魔法つかいになり、主席で卒業し、聖騎士パラディンの称号を得るためじゃないか。


 生半可な努力でサーバー1位を独占できると思うなよ。

 収入すべてを課金にそそぎこみ、睡眠時間を極限まで減らし、親のスネをかじりまくる羞恥心を乗り越えてこそ、偉大なる目的は達成できるというものだ。


 エドガー。


 きみには「必死」が足りないのだ。

 野望にむけて、火をくべずとも燃え上がる「必死」が。



「うっ……。最初の悪口はあきらかに言いすぎだしサーバーとかまた意味わかんないことば出てくるし晋作がダメダメ人間っぽい気配はプンプンするけど……。たしかに、僕に『必死』さは足りていないのかもしれない」


 わかってくれたかね、エドガー。口臭がドラゴンの死骸。


 ハズレスキルを持って生まれてしまったきみは、ランキング上位にのしあがるために他のだれよりも努力と工夫が必要なのだよ。口臭がドラゴンの死骸。


 さて、これから効率的レベリングをするにあたって私からふたつほど提案があるのだがね。口臭がドラゴンの死骸。




「ちょっと待っててね!!! 歯磨きしてくるから!!!!」




 いや、エドガー。

 もう時間がない。そろそろ家をでなければ学校に遅刻して担任のガンダム伊藤からまた熱湯破壊光線をくらうはめになるぞ。


 やむをえん。


 今日はドラゴンゾンビ・ブレスのまま登校しようじゃないか。

 レベリングのプランはまた授業中にでも練り上げよう。



「だれだよガンダム伊藤! うちの担任そんな必殺技ださないよ! ていうか磨かせて、たのむから! 臭いの自分でもわかってるから! ねえ! なんで磨かせてくれないの!? ねえ! なんでかってに玄関へ駆けだすの!? 下手ないじめっ子よりやっかいだよ、この幽霊!!」



 私たちはエドガー母が準備してくれた朝ごはんを尻目に、家を飛び出した。

 今日いちにち誰とも会話できないであろう試練を予感しながら。


 偉大なる夢の実現にむけて、少年の苦行は、つづく。


 まけるな、エドガー!

 とべ、エドガー!




「へんなエンドロールつけんな! とばねーわ!! 歯磨きさせてよおおおおおおおおおおお」

 

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MMO効率厨の幽霊が魔法学校の落ちこぼれを鍛え直す 英雄たかはし @hero_takahashi

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