最終話 女神か悪魔か

「...っていうのが、本当のシンデレラの姿なのよ」

王国の昼下がり。客の少ない喫茶店である令嬢と男はこの国の王妃であるシンデレラについて話していた。

「そうですか...でもそのお話はどこで?」

そういうと令嬢は鞄から一冊のノートを取り出した。

「これはシンデレラ《あいつ》の日記よ。今話したことが全部、これに書いてある。

これが大々的に公表されれば、少なくともシンデレラのイメージダウンにはなるでしょうよ...そのために新聞記者あんたの力が必要なの。

今話したこと、記事にしてくれるんでしょ?」

「まぁ、そうですね...それぐらいにはなるかもしれませんね...今話題の王妃の話ならいいネタにもなりそうだ」

二人はにんまりと笑った。

「いいんですか?このようなこと...仮にも貴女はでしょう?」

「いいのよ...あいつとは血も繋がってないし、なりよりあいつばっか上手くいって気に食わないの。あいつは死ぬまで私たちの奴隷なのよ。私たちより幸せになる権利なんかない」

「そうですか...」

そこで記者は何故か残念そうな顔をした。

「何よ」

「!!」

帽子を取った記者の顔は、男装をしていたが間違いなく令嬢の義理の妹、シンデレラだった。

「あんた...なんでここにっ...!!」

ですもの。お姉様たちといつまでも一緒なんです」

そう言ってシンデレラは微笑んだ。

どこまでも冷たい瞳で。

「お姉様...私、お姉様に何かしましたか?処刑する事だってできたのに、今だってこうして自由に暮らさせてあげてるじゃないですか。こんなにも慈悲深い王妃わたしの...どこが『気に食わない』んです?」

「ぜっ...全部よ!!あんたが姿も心も美しいだなんて嘘!!全部日記に書いてあるもの!!これが証拠よ!!」

「...」

「王子も国民も騙されてるのよ...仮面を被ったあんたの姿にね。これを公表すればあんたは終わりよ!!」

「どうでしょうね」

シンデレラは笑った。

「日記が私の直筆だと裏付ける証拠はない。それにこの世は王族の言うことが絶対です。

あなたがどんなに反論しようと、私は可哀想なシンデレラなんです。それでも反論するというのなら...」

シンデレラは胸元から短剣を取り出し、義姉に迫った。

「首を刎ねることもできるんですよ」

「っ...!!」

義姉は死を覚悟した。

だが、身体に痛みは走らなかった。

「...え?...こ、殺すんじゃないの...?」

「まさか」

シンデレラはまた笑った。

「そんなはしません...私がお姉様達にされてきたこと...ひとつひとつ倍にして返すまで死んでもらっては困りますから...」

シンデレラはそう言って短剣を胸元に戻し、義姉の耳元でこう囁いた。

「逃げられると思うなよ」

すっかり腰を抜かして立てなくなった義姉を置いて、シンデレラは喫茶店を後にした。


「行きましょうか。馬車を出してください、ジャン」

はい、と頷くと王妃は召使いである私にさえ、とても素敵な笑顔をなさる。

本当に素敵な王妃様で、誰も彼女のことを批判するものはいなかった。

なんでも自分をひどく虐めていた義母や義姉たちを庇い、露頭に迷っていた彼女たちに職を紹介なさったらしい。

本当に、こんなにも慈悲深い王妃はどこを探してもいない。

今彼女が立ち去った喫茶店の方を見て、冷たい微笑を浮かべたように見えたのは、きっと気のせいだろう。

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姫は愚民に笑わない 永山文佳 @msae200517

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