幼馴染みが告白されたからウザ絡みしてみる

いなばー

幼馴染みが告白されたからウザ絡みしてみる

 昇降口の廊下側。

 下駄箱の横側にもたれかかってアイツを待つ。


 アイツ、今どんな顔してるだろ?

 そんなに仲良くしてるわけでもない女子から告白された時の中学生男子の顔。

 迷惑そうにはしないだろう。あたしの幼馴染みはそういう奴だ。

 じゃあ……うれしそうに?


 いやいや、よけいな想像して勝手にヘコむなんて訳わかんない。

 悪しき妄想をポイッと捨てて周囲を見回したら、昇降口にはあたししかいないと気が付いた。

 部活が終わった子らも、ほとんどが下校したみたいだ。

 

 思ったより時間がかかってるな。


 焦ってる自分に気付かないふりを決め込んでると、ようやくアイツが現れた。

 とぼとぼとした足取りで、廊下の向こうから近付いてくる。

 よかった、ひとりだ。


 幼馴染みはずっとうつむいてた。

 ちょっと心配になったけど、あたしに気付いた途端顔をしかめやがったから、憐憫の情って奴は一瞬でどっかへ飛んでってしまう。


 あたしは陽気なステップなんて踏みながら、顔を背けたアイツの側まで行く。

 そして体当たり。


「よう、モテ男!」


 モテ男はよろめいて壁にぶつかる。いつもなら余裕で耐えるのに。

 ギロリと睨んできたけど、やっぱりいつもの元気はない。


「うるせぇ! 絡んでくんな!」


 精一杯、低い声で脅すように。


「なーんか、めちゃくちゃヘコんでるね? せーっかく告られたのに浮かれたりしないんだ?」


 ホントは慰めてあげたいけど、思わずいつもの言い方になってしまった。


「ヘコんでんの分かってんなら、放っといてくれよ」


 あたしを置いて下駄箱へと早足。

 当然、逃がすあたしじゃない。


「そーんな冷たいことできないよ。優しい優しい幼馴染みさんとして、ハヤトのケアをして差し上げないと」

「へっ! マトメのはいつもの野次馬根性だろうが」


 ハヤトは乱暴に自分の靴を取り出しながら悪態をつく。

 クラスが違うあたしは一旦離れて自分の棚へ。

 スニーカーを履こうとスノコに座ると、向こうは立ったまま自分のスニーカーに足を突っ込んだ。かかとを踏み潰してさっさと行きやがる。


「ちょっと待ってよ! せっかく待っててあげたのに!」

「待っててくれって頼んでねーし」


 ようやく靴を履いたあたしは、もう校舎の外に出たハヤトを走って追いかける。


「そうそう。前の時は待っててくれって泣いて頼んだくせに、なんで今回は黙ってたの? 遠慮なんてする仲じゃないでしょうに」


 がしっと右腕で肩を抱いてやる。背はあたしの方が高いけど、中学に上がって一年ちょっと経ち、こいつはなんか骨格が変わってきていた。

 ハヤトが片手を使って簡単にあたしの腕を引き剥がす。もうあたしから力ずくで何かするなんてできない。


「遠慮なんかじゃねーし。前ん時、めちゃくちゃウザい絡みしやがったから今回は放置だ」


 そう言って、どんとあたしの肩を押してきた。乱暴に見えるけど、ちゃーんと力の加減はしてある。

 それでもよろめいたあたしを、野犬みたいな目で睨んできた。


「なのにテメーは知ってやがった。なんでだよ!」


 人間嫌いの雑種犬みたいな男に向かって、あたしは大きく胸を張って威張ってやる。


「幼馴染みさんに隠し事なんて不可能だし! クラスが違っても、ハヤトの情報は筒抜けだもんね! 今回は田中君」

「田中の野郎、裏切りやがって……」


 ギリリと歯ぎしりの音が聞こえてきそうだ。


「告白したのは佐藤さんだよね? テニス部のすごい足がきれいな子。ハヤト足フェチだし、今回はオッケーするかも? って野次馬……ちょっと気になったの」

「別に足フェチじゃねーし」

「ウソつけ。前に女子の足の品評会やってたくせに」

「なんで知ってんだよ!」


 目をひん剥いて焦りやがる。

 そんなのやってたなんて、他の女子に知れたら寄ってたかって吊し上げられるもんね。

 弱味を握るあたしはニタニタと笑ってやる。


「三井君が教えてくれたの。『おいおい小塚。お前の旦那さん、自分の嫁さんのことダイコン足だとか言ってたぜ?』って」


 ヘンに巻き舌な三井君のモノマネをするあたし。

 「俺が言ったっての、内緒だぜ?」って三井君が言ってたの、今思い出した。


「なんでそういちいちチクるんだよ、あいつ!」


 頭を抱える陰口男。

 陰口は言いすぎか。こいつは似たようなことを直接あたしに言ったりもしてるんだし。


「あたしの華麗な跳び膝蹴りが、あんたのみぞおちに炸裂するとこ見たかったんじゃない? 『夫婦喧嘩はサイコーのエンターテインメントだぜ!』とかほざいてんじゃん、ハヤトの仲間ども」


 それが分かってるから、三井君の挑発には乗らなかったんだけどね。

 逆に傷ついて泣いたふりして、ジュース一本おごらせてやった。


「あいつらいっつも夫婦喧嘩夫婦喧嘩。いつ俺達が夫婦になったってんだよ!」

「まったくもってそのとおり。あたくし、自分より国語の成績が悪いオトコを夫になんてしませんから」


 ふふん、とバカにした自慢顔。


 そしたら向こうもバカにした顔を返してきやがった。さらにアメリカ人みたいに両手を上にしたヤレヤレポーズだ。


「たまったま! この前の試験でいい点取れただけだろうが。それ以外は? 数学は? いっつも土下座で教えてくださいって言ってるのはどちら様でしたか?」

「土下座なんてしてません~。報酬払って雇っただけですし~」


 毎回その報酬をうれしそうに受け取ってるだろうに。


「報酬? あの焦げたクッキーっぽい粉の塊のことですか? それとも、あの異様に固いチーズケーキっぽい塊のことですか? なんでレシピどおり作らないんだよ、毎回毎回」

「オリジナリティがちょっぴり暴発しただけじゃん。ハヤトなんてお皿すら洗えないで割っちゃうくせに」


 おばさんお気に入りのドイツかどっかのお皿まで割っちゃうし。

 家追い出されてしばらくあたしの部屋に住み着いてた。


「ああいうチマチマしたのは性に合わねーんだよ。抑えきれねー程のみなぎるパワー。我ながら恐ろしいぜ」

「漫画かよ。それでフラスコ割っちゃって反省文じゃん」


 危うく火事になるところで、責任問題になりかけたから先生がめちゃくちゃブチ切れたんだよね。

 リアルの炎は出なかったけど、怒りの炎はすごかった。


「反省文はマトメの方が多いだろ。遅刻多すぎ」

「ハヤトだっていっつもギリギリじゃん。家出るのはあたしより遅いくせに、走ってさっさと行っちゃうんだもん。ヒドいよ」


 最近はあいさつすらせずに走っていきやがる。

 遅刻して先生に怒られた後に、「マトメ、おはよ」とか言われたらすごいムカつくんですが?


「お前は足遅すぎるんだよ。俺の鍛錬の邪魔にしかならねー」

「寝坊して走って登校するのを鍛錬とは言わないよ」

「けど実際、走るの速くなったからな。体育祭でも大活躍だ」

「そうそう! リレーのアンカーで三人抜いたよね。カッコよかった!」

「結局、一位にはなれなかったけど。あん時、お前も応援してくれたよな? チーム違うのに」

「あ、気付いてた? 応援団員のくせに敵に声援送っちゃってたよ」

「マトメのチーム、おかしかったよな。応援団なのにメイドコスってなんだよ」

「いや~、あれ恥ずかしかった。あたし、足太いのにスカート短くってさ」

「けど、マトメのあのメイドコス……」


 と、ハヤトが立ち止まる。

 あたしも歩みを止め、隣にいるハヤトを見た。

 ふたり、視線が重なる。


 目の前の男子はいつもと違う甘やかな表情で。

 あたしは次のセリフを期待してしまい、隠せないくらい顔が熱くなり。


 が、ハヤトの野郎は首を傾げやがった。


「え? なんの話だっけ?」

「待てや、コラあ!」


 空回りした乙女心が叫び声になっちまう。


「急に怒るなよ」

「怒るに決まってんでしょうが!」


 思わせぶりなことしやがって。


「なんで?」

「ああ!? なんで!?」


 いつもの百倍ぐらいガラが悪くなっちゃってるけど、あたしは悪くない。


「わかった、わかったから睨むな」

「がるるる……」


 ハヤトが視線を逸らす。

 頬をかいたり、照れてる様子。

 それを見つめるあたしはドキドキが止まらない。


 ようやく覚悟を決めたらしく、ハヤトがしっかりとあたしを見る。


「マトメのメイド、すげぇ似合ってた。かわいかった」


 途端にあたしは溶けたみたいになる。

 顔がにやけるのを抑えられない。


「そっかぁ~、ハヤトはかわいいって思ってくれてたんだぁ~」

「ま、まぁな、今日まで言わなかったけど」


 言われたあたしはうれしいけど、言ったハヤトは恥ずかしいらしい。

 なんだか落ち着かない男子ととろとろに溶けてる女子が向かい合ってるヘンな状況。


「その場で言えない方がハヤトらしいか。でも、今言ってくれたからオッケーだよ」


 幼馴染みのこういう不器用なところはお気に入りなんだよね。


「あ、それと三井とかもメイドコスに興奮してたぞ。マトメも割と評判よかった」

「三井とかそんなんどーでもいーし」


 心が一気に氷点下まで冷える。


 この幼馴染みの不器用な……不器用なところが……


「わかった! 悪かった、三井はなしで」

「そうしてください」


 ふたり揃って重いため息をつく。


「じゃあ、帰るか」


 ハヤトが家のある方を向き、歩きだそうとする。

 あたしは慌ててその左腕を両手で掴み、力一杯ぐいっと引き寄せた。

 そうやってもハヤトは少しよろめくだけ。歩くのだけは止められた。


「なんだよ? 早く帰ろうぜ」


 不思議そうに言うハヤトだけど、そこに誤魔化しが混じってるのをあたしは知ってる。

 だから聞く。


「なんて応えたか聞かせてよ」


 ハヤトが顔をしかめる。不快そうに、ではなく、困ったように。


「なんの話……って、とぼけるのはナシだよな」

「ナシだね」


 ハヤトから手を離し、まっすぐ立ってあたしは言う。


「ハヤトは佐藤さんに告白された。今までそんな仲良くしてたわけじゃないけど、佐藤さんはすごい足がきれいだし顔もかわいい。聞いてたとおりなら、ハヤトにクッキーを渡したはず。とっても上手に焼けたのを。そんな子を初カノジョにできるなんてラッキーもいいとこだ」


 ふたりとも真面目な顔をして見つめ合っていた。

 今どんな表情をしたらいいのかお互い分からないから。


「ハヤトはなんて応えたの? 好きって言ってくれた女の子に」

「それを……お前に言わないとダメか?」


 気が進まないみたいに言う。

 このままやり過ごしたい? けど、そんなのあたしは許さない。


「あたしには聞く権利がある!」


 ハヤトは何も言い返してこない。

 もう何回も言ってることを、またあたしは宣言する。


「あたしはハヤトが好き! 好きな人が他の子に告白されて、平気でいられるわけないよ。なんて言ったのかホントのことだけ聞かせて!」


 昇降口でハヤトを見つけた時、この告白された男子はうなだれてヘコんでた。

 告白に応えられず、相手の女子を悲しませたから?


 そうかもしれない。そう期待してしまう。

 だけど、期待してしまうからこそ、はっきりと本人の口から聞きたかった。


 今年のバレンタインデーにした告白じゃ、勝手な思い込みのせいで大失敗をやらかしてる。

 クリスマスに他の女子の告白を断ったのは、あたしのことが好きだからに違いない、なんてバカみたいな思い込み。


 あんな恥ずかしいのはもうしたくない。

 あんなにハヤトを困らせるなんて、もうやっちゃダメなんだ。


「分かったよ」


 ハヤトが一度うなずく。


「ホントは他の女子にベラベラ言うなんてありえねーけど」


 しっかりとあたしの目を見て、


「マトメだけにはちゃんと言う」


 そう、言い切ってくれた。


 どんなふうに言われても平気でいられるように、できるだけ何も考えないようにする。

 平気でいられるなんて、そんなのありえないのに。


「部活が終わった後、佐藤さんにユニフォームのすそを引っ張られて、旧校舎の裏まで連れてかれた。佐藤さんは明るい子ってイメージなのに、ずっとうつむいてて何聞いても答えてくれなくってさ」


 連れてかれるところは周りにいた部員に見られてる。その中のひとりがあたしに教えてくれたのだ。


「旧校舎裏で振り返った佐藤さんはすげぇ緊張してた。胸の前で自分の両手を握り合わせて。けど、真剣な目で俺を見て、はっきりと『好き』って言った。付き合ってくれって」


 その時のことを思い出したのか、ハヤトの表情がちょっとだけ歪んだ。

 好きって言われたのがそんなに困ること?


「ハヤトはなんて応えたの?」


 我慢しきれずに先を急いでしまう。

 テンパりすぎたあたしの顔は、きっとヒドいことになっている。


「ちゃんと断った。お前の時と同じこと言って」


 ハヤトは深く息を吐きながらうつむいた。

 頭の後ろを右手でガシガシとかく。


「分かんねーんだよ、好きとかそういうの。全然ピンとこねー。俺、ガキだし」


 好きとか分かんねーから応えられない。

 あたしもそういうことを言われた。


 向こうもあたしのことが好きだと思ってたのにそんなこと言われて、パニクったあたしはなんて言い返したのか未だに思い出せない。

 気付いたら泣いてた。ハヤトを困らせた。


 けど、後になってあたしは思ったのだ。


「ハヤトは分からないってちゃんと言った。それがハヤトのいいとこだよ。自分にウソつかない」

「ありがと。結局泣かせちまうんだけどな」


 佐藤さんも泣いたのか。

 泣いたら好きな人を困らせちゃう。だけど涙があふれてきて止められない。


 そうなっちゃうよ。

 恋が実らないのは悲しいもん。


「佐藤さんが泣きやむまで側にいてあげたんだ?」

「ああ。普通そうするだろ?」


 どうだろ?

 面倒になって逃げ出すとか、ヒドい男ならやりかねない。


 ハヤトは、あたしの幼馴染みは、あたしの好きな男は、そんなことしない。


「あたしの時もずっと慰めてくれたよね。その日だけじゃなくて、一週間くらいブーたれてたのに」

「マトメは二週間はブーたれたぞ。途中から俺もイラついてたし」

「そうだっけ?」


 すっとぼけて笑ってみせる。

 それを見たハヤトもわざとらしく顔をしかめた。


 一歩二歩、ハヤトに近付く。

 真正面に驚いた顔の幼馴染み。

 背はあたしの方が高いから、向こうは見上げてこっちは見下ろして。


 あたしは両手を勢いよく前に出し、ハヤトの腕の内側に差し込んだ。


「どーん!」


 ぶつかるみたいにして身体をくっつける。

 そうやっても成長した幼馴染みはよろめいたりしない。


「何すんだよ、マトメ」


 そんな照れ混じりの抗議には応えない。

 

 ただ、ギュッと抱きしめた。


「つらかったね、ハヤト」


 自分の知らない感情を向けられる。

 相手にとってはとても大切な感情。けど、自分には分からない。


 もし恋を知ってたとしても、応えられないと伝えるのは難しいだろう。

 ハヤトは恋を知らないのに、応えられないと伝えたのだ。


 つらいに決まってる。

 あたしの時も、きっとそう。


「……ありがと」


 お礼の声がちいさく聞こえる。


 好きな男の子に抱きついてるのに、ドキドキだとかは全然なかった。

 ふたりがずっとずっとちいさかった頃。

 気の弱い幼馴染みが泣きべそをかいた時、おなじようにギュッとしてあげてた。

 そんなことを思い出す。


「もういいぞ」


 落ち着いた声が聞こえたので、そっと離れる。


 ハヤトは耳まで真っ赤にした顔を横に向けていた。


「んん? 照れちゃったかね、ハヤト君?」


 からかってやっても突っかかってこない。


「お前……におい……ヘン……」

「はあ!? におい!? くさいっての!」


 聞き捨てならねーこと、ほざきやがった。

 こちとら華の女子中学生。毎日のお風呂は欠かしてないんですが?


「いや、くさいってんじゃねーよ。けど、なんかヘン……? お前、そんなにおいだっけ……?」


 首を傾げながら、違う星の生き物を見るみたいな目を向けてくる。


「んな、身体のにおいなんて変わるわけないじゃん! せっかく慰めたげたのに、ブジョクするなんてとんでもねーヤローだよ!」


 あたしは失礼千万な男子を置いて家へと歩きだす。


「悪かったって! もう言わねーから」


 追いかけてきて横に並んだけど、あたしは相手してやんない。

 

 ふいに左手が温かくなった。ハヤトが手を握ってきたのだ。

 振り払うなんてせずに、あたしも握り返す。


 ちいさな頃からよくこうしてた。

 うれしい、悲しい、腹が立つ。手をつなぐとお互いの気持ちが伝わった。共有できた。

 ちょっとくらいのケンカなら、手を繋いでるうちにどうでもよくなったもんだ。

 

 今もそんなかんじ。


「ふふん」

「お、機嫌直りましたか?」

「それはそれとして、ケーキおごれ。最低二個」

「お前、また太るぞ?」

「太ってません~、成長期です~」


 こいつ、あたしの機嫌取りたいなら徹底しろよな。


「分かった、ケーキな。コンビニの」

「駅前のに決まってんでしょうが」


 そしてふたり、立ち止まる。

 左にある一軒家があたしの家で、右にあるのがハヤトの家。

 あたしたちは生まれた時からお向かいさんだ。


 手を離したあたしは自分ちの門まで跳ねる。


「じゃね、ハヤト。明日、寝坊すんな?」


 ところがハヤトは道の真ん中に突っ立ったまま動こうとしない。


「どした?」


 訊いてから気付いたけど、なんだか真面目な顔をしてる。

 さっきみたいに。


「マトメ」

「うん」

「俺はまだ、好きとかそういうの分かんねー」


 あたしを指さして続ける。


「もし、好きが分かったら、真っ先にマトメに教える。お前の好きに応えられるか分かんねーけど」


 まっすぐに伸ばした指の向こうにある、まっすぐな視線を受け止めた。

 これだけハヤトに想われてるあたしは十分に幸せだ。


「うん、待ってる」


 笑顔を見せたら向こうも笑う。

 昔っから変わらないあの笑い顔を、いつの頃からか好きになっていた。


 くるりと背を向けたハヤトが家に駆け込むのを、玄関扉が閉まるまで見送る。

 姿が見えなくなった途端、ホッとしたのか泣けてきた。

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