第9話
後半戦開始の笛が鳴る。
サイドラインからボールを投げ入れ、時計の針が動き出す。ボールをの行き先は相手チームへ渡り、スムーズな連携でゆーや先輩に渡り、あっさりと僕をかわしてゴールしたの190センチはあろう熊を彷彿とさせる男へとボールは渡る。
「ゴール下で俺にパスが渡る時点でお前らの負けなんだよ!!!」
ドガッッ!
鈍い音が鳴る。体育館スポーツのはずなのに何故か金属音の余韻が残り続ける。その日常では聞くはずのない音にさっきまで自分達の練習に集中していたバレー部やバトミントン部の部員達もこちらを見ている。口は半開きだ。
「ふ〜、ギリギリ!けどやっぱりダンクはスカッとするぜ!」
「大学生でダンクするやつなんてそうそういないよ。いや、まず日本人であんまりいないか。」
一瞬時が止まった。時間が止まるというのはこういうことを言うのだろう。ダンク?嘘だろ。NBAじゃないんだからそんな冗談はやめてくれ。
「おい、大丈夫か??怪我してないか??」
夏哉が駆け寄る。怪我はなかったようだが、まだこっちの世界には戻ってきていない。あんなものを目の前で見せられたら無理もないだろう。
そのまま時が流れる。
そこからの時間は早かった。得点はみるみる離されていき、10分のブザーと共に笛が鳴り響く。
得点板は45-7を指す。
バスケには野球のコールド負けのようなシステムはない。だが僕は野球のそのルールを考えた人は素晴らしいと思う。何故なら必要以上に恥と絶望を味わなく済むからだ。バスケにそのような弱者を擁護する制度はないが、得点が2倍以上離れていることをダブルスコアという。これだけ離れてたらもう逆転できないよね、というやつだ。このスポーツにはサヨナラホームランのような一発逆転はない。
45-7。僕は酸素の足りない量で小学生でもわかる計算に手こずった。
「あぁ、5倍以上あるな。」
「それ以上言うな、気が狂う。」
「俺らこんな弱かったけ?」
「なー。いや、単純に相手が強すぎた。大学生だもんな。いくらなんでも大人げないっつうか、あのダンクした熊みたいな人大学4年生だって。」
「4年生って。みんな就活してる歳じゃん。こんな所に何しにきたんだろ。」
「お前、それはあれだよあれ。就活で圧迫面接続きで溜まったストレスを発散しにきたんだろ。」
「そのストレス全部こっちに流れてきたよ。てか大会1週間前でしょ?俺らの心を折りにきてどうすんのさ。」
その日の練習が終わり、部室にて僕らの反省会。及び愚痴大会が行われた。
部室で着替えを済ませ、上を見上げると空には相応しくない分厚い雲が広がっていた。
長編 かすみ @tamaki_kouichi
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