雫の煌めき#2
大会が終わった。
長い1日だった。この遠征も残りは遊ぶのみ。
引率がいないから生徒だけ。そんな状況は私たちの気分を昂らせた。
夜は長い。しゃぶしゃぶを食べた帰りにコンビニに寄り、お菓子とどん兵衛を買いこんだ。
夜は暑い。間違いなく暑さに耐えきれないと判断した私たちは凍った麦茶を買った。あまりにも冷たすぎたので1日目の夜には暑すぎて引っかかった検温も、麦茶のおかげで問題なく通過することが出来た。
こんな状況下だし一応高校生だし。そんな暗黙の了解のもとで今夜の夜会はリモート開催となることが決まった。
「じゃあ夏樹、お風呂上がったら電話掛け直して〜」
『了解』
通話の向こうで消えた1人部屋の夏樹を放置して私は見たかったクイズ番組を点け、こっちはだらだらと過ごす。
「先入る?」
「どっちでも良いよ」
「天智天皇」「え?十七条の憲法は聖徳太子でしょ?」
小中学生の知識で解けるクイズに見入っていた。着信音が鳴る。
『出たよ』
「ごめんなさいこっちはお風呂入ってすらいません!」
『いや、大丈夫。想像はしてた』
「んじゃ先私入る。爆速で上がるから寝ないでね!」
「いてらー」
熱いシャワーによって汗が溶ける感覚がする。大会にも出たし一日中外を歩いたんだ。
自然乾燥で良いか。髪の毛に溜まった雫が滴る。
「出た!」
「じゃあ行ってきまーす」
私と入れ替わりで有来がシャワールームに向かう。荷物を持って布団にダイブすると、通話に使っていたiPadが跳ねた。
『……澄乃暴れた?』
「そりゃね。ベッドにダイブしたもん」
『どうせ澄乃明日の朝バタバタするんだから荷造り始めな』
「はーい」
ベッド脇に散乱した私物を、適当にボストンバッグに詰め込みながら夏樹と喋る。
1人だけいた2年生はベッドに横たわったまま動かない。たまに私たちの話に笑い声を上げているので起きていることはわかる。
有来はまだまだかかるだろう。
「明日どこ行く?」
『俺の予想言っていい?』
「どうぞ」
『夜会して朝起きれなくて結局チェックアウトまでダラダラするに1票』
「じゃあ私は起きる気あるけど結局起きれないに1票」
『遅く起きるなら朝ごはん食べに行かない?』
「明日の朝の気分次第」
「出たよー」
「何からやる?」
「リモートで出来そうなやつ!」
『ウミガメのスープは?』
「いいねそうしよ」
サイドテーブルに置いてあったiPadの目の前で有来がドライヤーのスイッチを入れる。ドライヤーの轟音に暴力反対、と騒ぐ夏樹の声が遠くで聞こえる。後輩はどのお菓子を食べようか、と選んでいる。
横になると寝そう。後輩が選んだお菓子を開き、テレビは無難なバラエティにチャンネルを合わせる。凍った麦茶を保冷剤にして首元を冷やし、私は問題を調べ始めた。結露した雫が首筋に流れる。
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