青春サイダー

楓月

夏空に弾ける

夏空に弾ける

「あ」

「おはよう」


 高校の最寄り駅で降りようと席を立った時、ずっと頭の中にいた人と目が合った。

「遅刻じゃない?」

「ね」

 最近話すようになった彼。多分彼は、私のことをただのクラスメートとしてしか認識してないかもしれない。

 時刻は8時20分。ここから高校までは徒歩15分。登校完了時刻は8時30分。とりあえず走るか、彼は改札を抜けるとそう言った。朝っぱらから運動会の開幕。

 

 

 よーい、スタート!

 

 そんな勢いで地上に出るなり私たちは走り出した。

「あっつい!!」

「こりゃ溶ける!」

 さんさんと降り注ぐ朝の日差しに耐えかねて、私たちはかけっこをやめた。暑すぎる。汗が止まらない。

「これだけ走ったらあとは歩いても間に合うんじゃない?」

「そうね、てか疲れたわ」

 真夏の朝の青空が輝く。

 私たちの間に会話はほとんどなかった。

 制服の青いワイシャツが真夏の陽射しに映える。

 

 あっつい、そう言って太陽を眺めるその笑顔が眩しかった。

「そこの角、曲がる?」

「おっけ」


 彼が指さした手を下ろすと、私の手とぶつかった。

 

「あっ」

 弾かれたように手を引っ込め、恐る恐る彼の顔を見上げた。

「ごめん……」

 

 彼の顔を隠しきれなかった手からのぞいた耳が赤かったのは、きっと夏の暑さのせい。

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