不老不死の先にあるもの

刻堂元記

第1話 不老不死

 不老不死の研究。それが、いつから始まったのかはよく分からない。しかし、死に対する恐怖が不死の研究へと人々を駆り立てたのは言うまでもないだろう。これは、21世紀からはるか先の遠い未来ではなく、すぐそこに迫っているかもしれない近未来のお話。


「フューチャー・サイエンス・タイムズより速報が入りました!我々、人類が長年、待ち望んでいた不老不死がついに、実現可能となったのです!この不死を実現させたのは、あのベニクラゲ研究の第一人者カズシロさんです。日本で生まれ……」


 このニュースは瞬く間に広がり、様々なコミュニケーション・ツールによって世界中の人々に拡散されていった。しかし、肝心の不老不死になる方法が発表されていなかったので、どのような手段で人が不老不死になるのか、ベニクラゲの生態を説明しながら、自ら考察する者も現れた。


 次の日、フューチャー・サイエンス・タイムズでは、カズシロさん本人と実験対象者である白髪の男性が巨大カプセルを背に映りこんでいるニュース映像がライブで放送されていた。カズシロさんによると、このベニクラゲカプセルと本人が呼んでいるこの巨大カプセルに入ることで不老不死になれるということだった。白髪の男性がカズシロさんに促されるようにカプセルの中に入っていった。カプセルのスイッチが作動する。すると、カプセルの中が何かによって満たされいき、やがて、中にいる白髪の男性の姿は見えなくなった。


 カプセルが動きを止めた。どうやら、実験は終わったらしく、カズシロさんはカプセルから小さな男の子を抱えるようにして出した。衝撃という言葉以外の表現が見つからないくらい人々は驚いた。白髪の男性がカプセルに入って男の子に若返りしたのだから。これだけでもニュース映像は見る価値のあるものだったが、もう1つ驚くべきことを伝えてくれた。その小さな男の子には、一切の記憶がなかった。それゆえ、小さな男の子はカズシロさんが聞いた幾つかの簡単な質問にも全く答えることができなかったのだ。


 ニュースキャスターは、これはどういうことかカズシロさんに説明を求めた。カズシロさんは言った。


「年をとってもこの巨大カプセルに入れば、何度でも若返ることができます。しかし、それまでの記憶は全て忘れてしまうのです。もちろん、言葉だって何も話せません。彼は、私が先程出した質問の意味さえ分かっていないでしょう」


 人々は絶望した。いくら不老不死になれたからって、記憶がなくなるのであれば意味がない。そこで人々は、自身の脳をコンピュータ上に移すことで、デジタル空間で永遠に生きることができる「脳のデジタル化」による不老不死を研究する科学者たちに次なる期待を寄せ始めるのだった。

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