私
気付いた時には自分の家の玄関にいた。もう、何をする気力もなかった。壊れかけた絡繰り人形のように傾いで歩き、自分のベッドに倒れこんだ。鞄からクマを引き剥がして両手で強く握りしめる。
「私は、私は、私は……」
ゆっくりとクマを手繰り寄せ、その鼻先にキスをした。触れただけでは飽き足らず、舌を口に絡めた。そのまま舌をクマの耳から手足に這わせ、唾液を身体中に纏わりつかせた。時々抜けた毛が気管に入って咽せ返ったが、それでもなお深く深く愛し続けた。唾液に塗れた毛は冷たく、醜く、汚かった。日はとうに暮れ、部屋は真っ暗になっていた。暗い。冷たい。寒い。
季節は冬だ。
恋は雪よりも冷たくて 前花しずく @shizuku_maehana
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