第5話:本当の言葉
学校生活が始まり3ヶ月がたった。
学校生活には慣れて、大きな出来事もなく順当に過ごしていたある日。
「モクヤー!明日から4日の休校があるのは知ってるよね?その間に一泊二日の遠征に出たいなーと思っててどうかな?目的は沢辺の森で樹滑油っていう木から取れる素材を集めてくるんだけどその護衛としてきて欲しいなーって」
「うん」
2つ返事だった。この頃スーを軽く倒せるようになり前に出会った風のブーメランを使う赤髪の少年ウェルテクスに指南をお願いして特訓を毎日繰り返しているのでその実力を測る絶好の機会だと思った。
未だに弱さが足を引っ張る時があった。毎日の筋トレと指南を受けても上がったはずの実力が分からない。
社会に出たときに痛感した。知っているとできるは全く違うのだなと、思いもしない事が想像もしてなかった事が次々と起こるのが現実なんだなと、所詮知った気になっていた子供だったんだなと知った。
「沢辺の森は昆虫型の魔物がいるけど害獣級にも満たない臆病な奴ばっかりだから心配いらないと思うけど一応ね」
その後もよく喋るドイルの話を聞いていると授業が始まった。
今日最後の学科、4限目 魔法
「えー最近の研究では魔法と精神力の繋がりが深いという結果が確認されたらしい、精神の安定性や社会性の高さが魔法を使える数と質である魔力に関わると言う研究が有力となっている。だがまた一方凶暴性や反社会性からなども魔力の上昇が確認されており二つで意見が分かれているようだ」
「魔法って何なんですかね」
「魔法は精神力の入れ物という意見が先生的にはしっくりきたな、頭に魔力の器がありそれを魔力回路と呼ばれる第三次元の機関から発現させる感じだろうな、一応使ったものは皆等しく死んだがこの魔力回路が太く、魔力の量が膨大な器をひっくりかえす事象も起きてはいる。どれも天変地異の如き破壊力だったそうだ」
「ではモクヤ魔法の発現方法を答えよ」
「世界文字の詠唱」
「んー、まぁ大体あっているな。世界文字と呼ばれる世界の6大元素に干渉できる記号を頭の中で描き任意の場所に発現させる。世界への干渉具合で詠唱の長さが変わったりする。一番長いのは炎その次が氷だ。では頭の中で描かなくて魔法を発現させる方法が2つありその一つは先ほど言った魔力の器ひっくり返す方法、そしてもう一つのよく使われる方法がある、それは何か、えードイル」
「はい!スクロールや魔導書に世界文字を書いておきそれを丁寧に上からなぞる事でも発現が可能です」
そうだな正解だと授業は進む。
慌しく紙に授業内容を書き写しながらモクヤたちは必死に学んだ。
放課後いつものようにウェルテクスの元へ向かおうとするモクヤをドイルが止め明日の詳細な事を語り出した。概要は大体把握しているので聞き流す。
周りのクラスメイトたちも浮かれているようでピューレ達も邪魔してやるなどの危険な言葉が出ているがつくのは全力でも夜と言っていた為目的地が被る恐れはないようだ。委員長達も何やらせわしなく動いている。
「て事だからモクヤくん明日はよろしくね!」
話終えたドイルは機嫌良く颯爽とどこかへ去っていった。
部屋に戻りこの数ヶ月でしっかりと馴染んだ短刀のイルシカと王のマント アクペ・コンルをつけ目的の場所へ向かう。明日が楽しみで浮かれているのか街を駆けるモクヤの足は浮き立っていた。
カバード郊外に見知った顔が泉の近くの草原で寝転がっている。
「ウェルテクス」
「んーきたかい、モクヤ」
強い風を起こし起き上がるウェルテクスにいつものように斬りかかる。
もちろん布を巻いて入る。だが実際のパンチはどこにあたろうが痛い。武道を知らないものなら尚更だ。
躱すウェルテクスの服をイルシカが掠る。
「んー今日調子いいねー明日いい事でもあるのかい?」
左足で払う。見切った様子でウェルテクスはギリギリにゆっくり交わし間髪入れず右ストレートを放つ。鈍い音が胸元に響く。重い一撃を喰らってもまだ振るう。
呼吸をしっかり保ち相手をしっかり見て焦らない。侮らない。見極める。
今日も擦りはしたが届く刃は無かった。
「今日は4回も掠ったしだいぶ腕が上がったねー話を戻すけど明日からの4連休、どこかいくのかい?」
「うん、森に」
「そりゃいいね。僕は3泊2日でサウルくんとメンバー用の素材集めをする予定、もし黒と金の制服がいたら僕達だから会えたらいいね、僕たち川辺だから遠そうだけど」
「うん」
「今回狩るのは川辺トカゲってやつ、スーより凶暴で害獣級に分類されているけど数いれば勝てると思う」
慢心はしないけどねと笑う。
彼は強い。そして優しさがあり覚悟があるように見えた。信頼できる友達だ。
その後特訓を再開し夕方まで続け解散となった。
部屋に急いで帰ると部屋の前でちょうど猫耳の白髪をゆったいつもの格好のツナとあった。
「んー今日は遅刻しませんでしたねピッタリです」
柔らかな笑顔のツナと並び部屋に入る。
手早く薬品を並べモクヤもいつものように上着を脱いで座る。
「明日からちょっとの間会いませんけど久々にあったらボロボロなんてやめて下さいねーお姉さんこれでも心配してるんですよモクヤくんの事」
王級を倒せてもいつまでも心配なんですよ、ぽつりと呟き処置を進める。
暖かくなる左肩を見ながらゆった髪が鼻を掠める。
「ありがとう」
「はい、どういたしまして。じゃあ全部終えたので帰りますね。くれぐれも安静に」
絶対死なないでくださいね。そう言って去って行った背中はいつもより小さく弱々しくみえた。
死が前いた世界よりも身近にある、それは何度も感じてきた。きっとツナ姉さんも何か知ったのだろう。
薬の匂いが残る部屋で寝転がったまま天井を見つめていた。
その後腹の虫が体を起こし食堂へ向かうとドイルがいた為一緒に食事をし風呂に入り部屋に戻った。
眠りに落ちるまでの間ずっと筋トレを続け床に着いたのは丑三つ時をずっと超えたあたりだった。
翌朝、集合地点に少し早めに着いたモクヤはボーと行き行く人を眺めながら考え事をしていた。
今日はどんな日になるのだろうか、大丈夫なのだろうか安全に全て終えれるだろうか。色々な心配が付き纏った。
そもそもキャンプすらした事ないのになどと心の中でぼやいていた時
「モクヤくん」
耳長の黒髪ショートヘアの少女が大きな荷物を持って立っていた。
荷物を下ろし髪をかき揚げ緑のインナーカラーが覗く。
今日はいつもより前を向いているように見えた少女の後ろから騒がしく大荷物を持ってドイルが現れる。
「今日一緒に来る事になったルーナさん!たまたま同じ素材が欲しかったんだってー」
「よろしく」
「うん、よろしく」
挨拶した2人はそれぞれの荷物を持ち進み出す。これから20km近くの散歩が始まった。
目的の沢辺の森にたどり着いたのは予定通り夕方近くだった。
皆それなりに疲れたようだが無理のないペース配分をドイルが気にかけていた為か地べたに倒れ込むほどの疲労は感じなかった。
「じゃあモクヤとルーナは火おこしをお願いするね」
そう言いながら手際よく野営の準備を進める。
言われた通りまずは火をつける薪をそれぞれ探しに森へ行く。
モクヤは夕暮れの虫の声だけを聞きながら着実に薪を集めていた。
ふと風を切る音が聞こえた。
真っ赤な短髪の髪の少女が虚空に向かってただひたすらに拳を振るう。左右に揺れステップを踏み突然何もないはずの攻撃をみえているかのように顔を逸らし体をずらし躱す。
またすぐにステップを踏み拳を振るう。
軽くきめ細やかそうな短い髪が動きに合わせて振れる。流れた汗を振り払うように左右に揺れまた拳を突き出す。
どれくらいの間だろうか、一連の熟練された動きにモクヤは見惚れていた。
「モクヤくん…」
「…」
サボる背中に突き刺さる視線、澄まし顔で振り返る。
何事もなかった顔で何もなかったかのように進む。
「サボり」
小枝が折れる音と突き刺さる言葉。
「ごめん」
「…許します」
ちょっと微笑んで隣に着く。
無口な2人は2人合わせてようやく一人前ほどの薪を持って帰る。
日はもうすぐ沈む。綺麗な夕焼けを背中にゆっくりと野営地へ向かった。
「遅いー!火がないと野営ははじまりまらないんだよ!」
ご立腹の様子に謝りながら薪を渡す。
手際よく火を起こす魔道具を使い、慣れた様子で薪に火をつけ十分後には温かな優しい火がパチパチと灯っていた。
夕食はドイルとルーナが持ち寄った食材を刺し塩で味付けをして食べた。
素朴な味で見た目も焦げて悪いが全く気にならないほどに美味しく自然と無言で3人は食べ進める。
食後ゆったりと3人で夜空を眺めていた。
横ではドイルが何やら星に語っていたが少しずつ話すペースが落ちていきしばらくすると寝息が聞こえてきた。
「寝ちゃったんですか?」
「うん」
体を起こしドイルを覗く。
あどけない顔で大の字に寝る友達を尻目にボーと火を眺める。
「さっきごめんって言ってくれて少し嬉しかったんです」
同じように火を眺めてながらぽつりと話しだす。
「日頃敬語じゃないですか私に、でもごめんってドイルくんに言ってるみたいに言ってくれてちょっと嬉しかったんです」
気にしすぎですかね、と火を見つめたまま溢す。
「うん」
「…何か話して下さいよモクヤくん」
と言われても困るのはモクヤだ。
呪いか何かのように数単語しか喋らないモクヤに話は難しすぎる。
ぽつりぽつり1人でに語るなんて事はモクヤにはできない。
何か喋らなくてはと焦る、2人きりなのだ相手に悪い。
頭を回しなんとか思いついた話題を口にしようとルーナの方を向く。
「…?」
少し長めの前髪が目にかかり目元に影を落とした優しそうな横顔、柔らかな微笑み。
弾ける火の粉、宵闇の中2人、虫の声
出かけた言葉を戻す。
「…話すの不得意」
「…そっか私も」
「…」
「でもモクヤくんの前だとちょっと喋れる」
「そっか」
夜空を眺める。
小さな焚き木の灯りしかない森の中から見上げる星空は広大で神秘的だった。
吸い込まれそうな夜空を眺める。
ふとこの世界に来たきっかけを思い出した。
伸ばされた手、浮き上がる体。
結局あれはなんなのか。
ここまでの軌跡を思い返しながら夜空を見ているといつの間にか寝ていたルーナの寝返りが手に触れる。
長い前髪を触る。あどけない顔で瞳を閉じて寝息をたてる。
(これでも8歳なんだな)
記憶の8歳はもう薄れきっているがこんなにも大人びてはいなかった。
しばらくしてドイルがゴニョゴニョ言いながら目覚め何か呟きながらテントに入って行った。
夜も更けてそろそろ寝るべきだとルーナを抱えてテントに入る。
軽く小さく柔らかな感触、自分も同じサイズなのだと幼く小さな姿なんだと改めて思う。
ルーナをマントに包み自分用のマントを掴み横になる。
「…お兄ちゃんみたい」
いつの間にか目を覚ましたルーナがつぶやく。
寝ている背中が暖かくなる。
朝まで寄り添って2人は寝ていた。
その日はここ数ヶ月で一番よく眠れた日だった。
朝日が上り目を覚ます。
軽く水で顔を洗い戻ると焚き木の前でドイルが朝ごはんを作っていた。
パンに肉と野菜を挟んで焼いたものを受け取り頬張る。
脂少なめの鶏肉にほうれん草に似た味の葉っぱのサンドイッチだった。朝にふさわしい軽くすんなりと食べれる朝食にとても満足した。
のっそりと起きてきたルーナにドイルが笑いながら水と朝食を差し出す。
髪はボサボサ、半開きの目、覇気のないおはように少し笑ってしまった。
その後テントを片付けてリュックサックにしまい最低限の荷物と共に森に入る。
予定はドイルが朝食時に説明しているのでその通りに行う。
森の中ではキノコを尻の方につけた蟻型の生物がいたが特に襲われる事なく樹滑油を集める。
その間モクヤはひたすら見つけた蟻型の生物を追いかけては討伐していた。
鋭い顎で噛み付いてくるが見切り難なく切り裂く。
確かにスーを討伐していた頃よりだいぶ体の動きが様になっているように思えた。
だがこれだけでは魔法が使えないと言うハンデを覆すほどではないのを重々承知している。
(まだ全然足りないな。)
確かな成長の感覚とまだ程遠い成長の道のりを感じた。
ーーーーーーー突如
遠くで叫び声が聞こえた。
鬱蒼としげる森を駆ける。
枝がかかり、根が足を絡める。葉が視界を遮り、枯葉が歩を遅らす。
一緒にいたはずのドイルとルーナを置き去りに進む。
視界が開けた。
そこは崖だった。切り立つ崖の上、下には広い河原と澄んだ急流。煌めく水面。
爽やかな風に混じる怒号と咆哮。
「下がれ!下がれー!」
叫ぶ少年は金と黒の制服だった。
王都第二騎士訓練学校の制服を着た生徒が十数名河原を逃げ惑っていた。
咆哮の正体が河原を駆ける。
頭から尻尾までで長さ3mほどだろうか背中と尻尾の先に鋭い岩を生やしたくすんだ灰色のトカゲ。
明らかな危険な見た目通りに人を喰らい引きちぎり尻尾で肉塊へと変えてゆく。数十キロの棘付きハンマー型の尻尾と岩をも砕きそうな鋭い歯が逃げる人を次々と蹂躙する。轢き殺す。圧殺する。
鮮血と引きちぎられた誰かの右腕が悲鳴と共に舞った。
逃げ遅れた短剣使いの少年が足を食われ左右に振られ遠心力のまま空中に放り投げ出される。
空に描かれる赤い線と化物の口元にある片足がやけに綺麗に見えた。
水音
煌めく水面が赤く染り急流が片足を無くした少年を攫った。
勇敢な少年が斬りかかる。
確かに通った刃は2度目が出る前に捕まれ崖に打ち付けられる。
壁に投げつけたトマトのようだと思ってしまった自分がいた。
夏の道路で見かける干からびた蛙のような格好で体の中身を撒きながら壁で眠りについた。
急に痛む両足。
太ももから下が鋭く痛みだした。
動悸がする。目眩が吐き気が震えが情けなく起こりだす。
「逃げろー!!」
1人の少年が化物に向かい拳を振るう。
金と黒の制服、紺の鉢巻、短髪黒髪の少年は拳を振るう。
足元に張り付き腹、首、足に連打を加える。
素早いステップで噛み付く刃をなんとか躱して反撃を返す。
突如図体を活かした振り払い、河原を横薙ぎ。
土埃に確かに傷ついた鉢巻の少年がなんとか立っている。
(厳しいだろうな)
震える体の中嫌に冷静に感じる自分がいた。
「ヴェントビィア!!」
「ようやった副団長」
全てを切り裂く風が怪物の体を一周する。
小さな切り傷が無数に入った怪物は叫ぶ。
隙を逃さず肉薄。ラッシュを入れる。どれほどのダメージが入っているのかわからない攻防。
前足で踏み潰そうとする怪物を間一髪でかわし返し怒涛のラッシュを打ち込む。
「ヴェントビィア!!」
ラッシュ後の息をつく隙に放つ旋風。
「みんなが逃げ切るまでは付き合ってもらうで副団長」
死が目下で迫る中で鉢巻の少年は笑っているかのように見えた。
「油断しないでくださいね団長」
赤髪の少年、透き通ったブーメラン、真剣な顔つき。
間違いなく友達であり先生である少年ウェルテクスだった。
「逃げろみんな!俺は大丈夫だー!!」
叫びながらも繰り出す打撃は確実に怪物を止める。
大きさは3倍ほどの差がある。パワーも格が違う。一撃入れば体は持たないだろう。
それでも少年は笑いながら打撃を繰り出す。
「俺は王じゃない、政治家じゃない、お前らの前に立ち笑う背中を見せる男第三騎士養成部門二年団長サウル!まだまだ付き合ってもらうで副団長ー!」
早いステップでテンポをずらし位置を変え予想させない。
左右に体を振りタイミングを変え意識をずらす。
狙い済まされた必殺の噛みつきに合わせて小さなバックステップ。
両手に掴んだ岩、渾身の叫びが聞こえた。
「形状変化!!!」
そこらへんに転がっていた丸い河原の石が叫びに応え槍先のように鋭く鋭利な形に変わる。
鼻先に確かに突き刺さった岩が引き金となったのだろう。
咆哮、突進。
見切るために深く構える。どちらに躱す。
突如、地面から伸びだした岩が腹を突いた。
空中に打ち上げられ河原を転がる。
「ヴェントビィア!!」
叫びながら駆け寄ると、肩を掴み血反吐を吐き捨てる。
鼻血に切れた口、全身打傷だらけで起き上がる。
「逃げろみんな」
全てを切り裂く旋風を喰らって尚突進を止めない怪物。
足が一歩勝手に進んだ。
ーーーーーーーー跳躍
全てを凍てつく王者の牙が怪物の頭に刺さる。
振り払われるまえに刃を引き地面に降りる。
(暴れられて剣を失うのは死に直結する)
浅い呼吸、震える手。
思い出すスーの時に起きた失敗、取られる刃、絶望。
(繰り返さない)
地面が確かに揺れる。
河原に飛び込んで避ける。石で腹を打つ。あざは確定だろう。
振り返ると伸びた岩の柱が先程までいた場所にそびえていた。
化物の背中から背中の岩が少しとれて転がった。
(害獣級の上、野獣級が質の高い戦闘で昇華して魔獣級になる。危険性は高く正規の騎士でも一対一は危険とされる等級)
安全な校舎で学んだ情報。
記憶を探る。振り返る。思い出す。
(土魔法の基本は形状変化、土属性の物資の形を変化させる変えられる限度があり、そこまで大きくないのが基本)
そんな事どうでもいい、何にも役に立たない。
何か、もっと確実に役に立つことがあったはず。
踏み潰しを躱して返しの刃を振るう。
さらに遡る。
(魔力の器は魔物にもあるが人型と違い頭以外にわかりやすく溜め込まれている場合が多い)
背中の岩が少しとれて転がった
閃きがあった。
背中に登りきっと魔力の器である岩にダメージを入れる方法。
チャンスを待つしかない。
「ヴェントビィア!!」
「形状変化!!!」
強風に乗った鋭い岩が突き刺さる。
「しゃあー!ありがとう名も知らぬ同士よ!」
傷が軽くなったように見えた。それはきっとモクヤも世話になった光の魔法だろう。
聞く間もなく横薙ぎの一線、土の柱が飛び出す。
左右に飛びなんとか躱す2人。
「まだまだぁー!!」
横に立つとわかる確かに笑っている。
この人は
爪で岩を撒く。
咄嗟にマントで体を覆い守る。
すぐさま反撃に転じる。
攻防一体が続いた。
「ごめん」
小さな謝罪が聞こえた。
旋風が一閃、帰るブーメランを受け取る人がいた場所には
伸びた岩の柱。
河原で血を流し横たわる友達。
驚愕で目を見開く団長に振るわれる一撃、体を切り刻む鋭利な爪が迫った。
天を打つ蜻蛉のように煌めき踊るマントが見えた。
「おらぁ!」
強い風が舞う。
透き通った羽、風を纏った打撃。
「だぜぇなトカゲェ」
「さすがピューレくん!」
10数名の見知った顔が河原にいた。
ーーーーーーーーー咆哮
顔面を強打された怪物は叫ぶ。
その叫びに応えるように怪物の後ろから10匹ほどの1mほどのトカゲが現れる。
川の石のような灰色のトカゲ、ウェルテクスの言っていた害獣級川辺トカゲだろう。
「団長ー!!」「団長ー!!」
「さすがモクヤくんだね」
笑う友達はやけに口少なめに笑っていた。
「みんなを連れてきたよ団長さん」
金と黒の制服。ボロボロの格好で戻ってきた彼らは襲いかかる川辺トカゲにすぐさまかかる。
咆哮。
その度に思い出すいつもの悪夢。
凍る脚、いつも聞こえる助けての幻聴。
「おらぁ!」
強打がまた頭に入る。
「団長!」
「よしきた!」
鉢巻の団長サウルは岩石を抱え放り投げる。
刹那
「形状変化」「ヴェントビィア!!」
風を受けた岩が天高く登る。
昼下がり煌めく陽を浴び爽やかな風が吹き一瞬陰る。
「おらぁ!!!!」
重力の乗った岩石は形を変え槍のように急行直下
沈む巨体。
垂れた頭を踏みつけ、背中へ駆ける。
背中から生えている岩を切りつける。
王者の牙、全てを、先輩たちを噛み砕いた王者の牙で岩を喰らう。
「うおおおおお!!!」
起き上がる巨体、落ちる体。
【
怪物の背中にあった岩が弾け天高く飛ぶ。
空中で形を変え一つ一つが氷柱のように降り注ぐ、その数数百。
陰った地面では範囲外へ出るには確実に間に合わないモクヤ達が岩の雨に目を見張る。
弾丸の雨、死の大地が築かれるだろう。その数30程の墓標がたつことになる。
最悪だ。
「おらぁぁぁぁぁ!!!!」
透明な羽が大地を撃った。
刹那、強い風に煽られ皆大きく吹き飛ぶ。
先ほどまでいた場所は無数の岩でできた弾丸が所狭しと降り注いでいた。
土埃が舞う。
「ピューレくん!!」
立ち上がり駆け寄る。
「うるせぇよ」
強い風の煽りか奇跡的にピューレの周りには落ちる事なく岩柱の大地に1人立っていた。
ウェルテクスが光の元素を構えて駆け寄る。
「邪魔だ豚」
振り払い巻き添えを食らった川辺トカゲを何匹か拾う。
「じゃあなトカゲ、貸しだからなこれ」
それなりに傷ついた仲間を引き連れ帰るピューレの背中を見送る。
彼なりにきっと想いがあったはずだ。考えがあるはずだ。
1年間クラスの男子をまとめ上げた彼だ。人もそれなりにいてそれぞれの思いがある決して一筋縄じゃいかないだろう、それでも対立しているであろう彼らを皆を率いて救った。
決死の攻撃だったのだろう。いつの間にか怪物は消えいつもの煌めく水面に血だらけの川原がそこにはあった。
「団長ー!」
皆さらにボロボロになった金と黒の制服の生徒たちは支柱である団長に駆け寄る。
真ん中で屈託のない笑顔でサウルは言う。
「ボロボロだなぁ」
続いて笑い出す。つられて皆が笑い出す。
皆傷つき土埃に汚れ青アザと切り傷が至る所に見える中で笑っていた。
そんな集まりを少し離れたところで傍観していたモクヤだった。
「バカでしょあの人」
腹の傷の手当てを終えたウェルテクスが隣に座る。
「バカでしょ」そう言いながら顔は優しく笑っていた。
「今回は羽虫…いえピューレくんに助けられました。もちろんモクヤや両面にも」
助けたつもりなどない、助けられた借りを返しただけ…でも無い気がする。
救いたい。少しでも貢献したい。護りたい。
彼らは助けてなんて言ってない。ただ僕が護りたかっただけだ。それが望みがなさそうかは関係なく。
「逃げろ」先輩の本当の言葉が思い出せた。
「そういえばこの後団長達は亡くなった仲間たちを探し弔うそうですが僕は残念ながら参加せず帰るんですけどモクヤくんも一緒に帰りませんか?」
ほら、と言って見せる腹はごっそりと修復した後が残り痛々しい姿となっていた。
「今はもう魔力も無くなって動くだけで痛むんですよね、なので護衛が欲しいなと」
「任せて」
僕らはその後各自の荷物を持ち急いで帰路についた。
帰りは夜になりウェルテクスを聖護教会へ送り届けモクヤも部屋に帰った。
その日は久々にいい夢が朝まで続いた。
笑う友達達と過ごす学園生活のそんな夢だった。
1歳から始まりいずれ終わる異世界生活 ぐりもわーる @grimoaaa
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