第4話:夜に沈む

昼食を食べ食堂を出たモクヤは一人郊外に出ていた。


  〜カバード郊外〜


人を襲う獣は基本的におらず野生化した家畜がのんびりと過ごしているのどかな平原。

多種多様な植物が生えており特に王国の東側は実験に使われた珍しい植物も多くカバード郊外東の湖付近では数万フッラもする植物が生えていたりするそうだ。


そこでモクヤは野生化したスーと呼ばれる豚の体にうさぎの耳、しっぽが獅子のような生物と戦っていた。

武器はもちろん短剣のイルシカ咆哮、攻撃力の低い短剣で100kg以上の豚と戦う。

相当な危険があるのは承知だ。豚は雑食で人も食べる。前の世界での記憶が言う。恐怖よりも優先する理由があった。


強くなりたい、学校の誰よりも弱い自分が今足りないものは何か、魔法が使えない自分を知って、まずはどれくらい戦えるのか知ろうと手頃な獣を探していた。


油断している一匹のスーに斬りかった。

咄嗟にかわすスーの柔らかな肉に切れ込みが入る。だが浅い。すかさず素早い突進という反撃がモクヤの腹に突き刺さり、くの字に折れ吹き飛び低い草を薙ぎ倒しながら転がる。


大の字で寝転がった状態で止まったモクヤに冷や汗が垂れる、胃の中から迫り上がる吐き気を誤魔化しなんとか起き上がる。


目の前へ迫るスーが汗なのか涎なのかを撒き散らし舌をだしたままの表情は不思議と御馳走で喜んでいるかに見えた。


(冗談じゃない)


真っ黒な蹄が横腹につきそうになり身を捩りお返しに喉目掛けてイルシカを振るが外れた剣先が微かに肉を引っ掻くだけで無傷に等しいスーの前足が肩に当たった。


嫌な音がした、先程と比べ物にならない量の冷や汗が瞬時に吹き出した。

体が嫌に波打ち、上がらない利き手を見る。


スーの顔が近い、泥の匂いがした。笑っているかのように見えた不気味な顔だった。そしてわずかに血の匂いもした。


すぐには気付かなかった。


地面につけて体重を支えていたはずの左手に違和感が走る。


ぐらりと倒れる。


そんなわけがない、支えているのに何故倒れるのか。


左肩にスーの横顔が見えた。


スーの横顔が見えた。




声にならない声が出た。漏れ出すかのような声。

咄嗟に折れているであろう右手が動いた。

本当は痛むであろう右手に不思議と感覚はなく掴んだ短剣でスーの首を刺す。


抜いた瞬間に血が舞う、豚らしい声をあげて暴れ振った顔が体に当たり何もできずに吹き飛ぶ。

地面に動けず伏せたままスーが去るのを祈った。


嫌な声がした。


スーの声だ。一匹、一匹、また一匹少しずつ近付き増えるスーの声に震え出す体。


足だけでなんとか体を起こす。


8匹ほどのスーたちが嫌に輝く目と口から溢れる涎を隠さずモクヤを囲んでいた。


震えだす体、垂れる汗を無視して今に集中する。


一番小柄で痩せたスーが初めに飛びかかる。


狙いは太もも、踏み込み潰しにくる前脚を間一髪で体を転がしてかわし短剣を振るいスーの 脹脛ふくらはぎに確かな傷がつく。体制を崩したスーの首にすかさず短剣を振った。

だが入りすぎた力のせいで骨にまで到達した短剣が慌てふためくスーに奪い取られる。

次の瞬間好機とみた2匹のスーが走り出した。

肋骨に確かな衝撃が入る一回転する体、頭突きが入ったのだと後から気付く、追撃にくる2匹。

撒き散らされる涎が目の前、顔の前にくる。悪臭。血の匂い。

のけぞってかわすがもう後がなくなる。

もう1匹が首に向かい顔を伸ばす。必死に折れた右腕で抵抗するが押し負け……

 



「ヴェントビィア!!」


平原を切り裂いた一陣の風


現れた赤色の髪をした少年が佇む。

帰ってきた透き通るガラスのようなブーメランをまた構え


「ヴェントビィア!」


放たれたブーメランが先導してあらゆるものを切り裂く風を運ぶ一陣の風の道を作る。

道はあるものを全て切り裂いた、草であろうとスーであろうとお構いなしに。


モクヤの胸元に頭だけのスーが転がる。

8匹のスーは皆散り散りになり数匹はブーメランの餌食となったようだ。


左肩から血が溢れ出した。朦朧とするモクヤは柔らかな草原に倒れ込む。


急いで少年は駆け寄った。


「まだ!死なせない!ルクスピ!」


淡い白い光が暖かく出血部位を包む。

じんわりと暖かくなる左肩から出血が少なくなる。


しばらくしてモクヤは起き上がる。


「ありがとう」


頭を下げてお礼を述べる。


「気にしないで、たまたま近くに居ただけで騎士の下っ端なら誰だってそうするから、でも気をつけてね。スーは見た目より凶暴だし野生化した奴らは肉や卵をよく食べる傾向にあるから家畜の成れの果てだから弱そうだなんて思って戦っちゃダメだ。そもそも弱そうなんてどんな相手であろうダメだけどね」

これ戦闘の基本ね、と笑う。


2人だけの草原に柔らかな風が吹く。

先程の戦いは何処へやら泉のせせらぎ虫の声、鳥の歌が優しく流れていく。

ふとモクヤが口を開く。

「君は?」


「んー?王都第二騎士訓練学校第三騎士養成部門二年ウェルテクス一応サウル君って子の下にいる、君は」


「王都第一騎士訓練学校第三騎士養成部門二年モクヤ」


「早口だね、所属はないのかい?君のところだとピューレって言う羽虫が上にいるはずなんだけど」


首を振る。


「へーじゃあ女の子の方に所属してるの?」


首を振る。


「…第3番目新しいグループのトップ、調停者、王級討伐に貢献した伝説モクヤ、パローマが騒いでたやつか…」


強い一陣の風が2人を扇ぐ。

モクヤはまだ痛む右腕をチラリと見て汗が垂れた。



「まっ仲良くしようよー」



優しい風が吹いた。


「うちのグループと敵対しているのは羽虫が率いるグループだけだからね、君とは関係ない。あーよかったせっかくお話しできたのにどこかで喧嘩なんて悲しいからね」


へらっと笑い寝転がるウェルテクスに倣い寝転がる。


それからはだらだらと色々なことを話した、主にここまでの学校の流れ、グループ同士の衝突、他のグループの勢力などを教えてもらった。

モクヤもなるべく多く喋ったつもりだ。

数刻が経ち夕暮れ時2人は帰路についた。


「じゃあまた」


「うん、また」


それぞれの寮へ帰る二人に夕暮れが背中を押した。

寮の階段を登りながら、痛む体の為さっさと風呂に入り飯を食べて寝ようと、いやまず寝てからにしようかなどを考えつつ扉を開ける。自分1人の城。我が家だ。




「おそいー!!」




灰色の長袖ワンピースに白いエプロンの猫耳少女が立っていた。

仁王立ちでわかりやすく機嫌を悪くしている猫耳の少女は何も言わない。


「すいません」


とりあえず謝る。

きっと何かに遅れたようだ。


「はい、良いですよ。じゃあ、訪問看護のお時間です」


柔らかな笑顔に変わり手際良くカバンから清潔なタオルや薬品を取り出して並べる。

そう言えば聖護病院の病室で話をしていた事を思い出した。その時も明るく接してくれた覚えがある。あの時は寝起きでボーとしていたが今ならしっかりと思い出せた。


「はいじゃあモクヤくんは上を脱いでおいてくださーい」


大人しく上着を脱ぎベットに腰掛ける。


「まずは右肩にお薬塗りますねー」


鼻歌まじりに右肩を洗い緑の薬を塗り込んでゆく。

顔が近い。ゆった白髪が鼻にかかり、甘い香りがよぎる。伸びた首筋、艶やかなうなじが見えた。

ふと見た横顔は何倍も大人になっていた。大人の雰囲気がそこには確かにあった。

きっとこの人は昔会ったことがある。それも世話になった大切な人。働いていた時か…いやもっと前、修道院の時…


「昔から頭いいなーって思ってましたけどまさか王都第一騎士訓練学校に入っちゃうなんて思っても見なかった、昔はご飯を嫌々って駄々こねて、ずっとわからないはずの本を眺めて…おねーさんは置いて行かれた気分です」


はい、次足ねー、と手際良く処置を施す。

じんわりと暖かくなっていく右腕を眺めつつ口を開く。


「ツナお姉さん」


「はーい、なんですか王級討伐の英雄モクヤくん」


「…ありがとう」


どういたしましてと鼻歌まじりに処置を進める。

しばらくして左肩のスーの傷が見つかり怒られたりもしたが特に何かを話すわけでもなく全身の処置が滞りなく終わった。

ふと何故だろうか、じんわりと心が暖かくなった気がした。


「もーまた3日後に訪問処置あるので今度こそ遅れないでくださいね?」


素直に頷く。どこかで訪問看護の話は聞きそびれたか聞き逃したのだろう。


「ちょっと成長が見れてお姉さん冥利に尽きます。いい体になっちゃってもっと成長したらモテモテですよー」


素直に頷く。


「…前より表情豊かになりましたね、昔はこう…人を信じてなかった気がします。今の方がお姉さん好きですよ」


じゃあまた3日後にお忘れなくー

すっかり更けた夜に彼女は消えていった。


ボーと処置された左肩を見ながら部屋の窓を開け外を眺める。

月が上り澄んだ星空は前いた世界の5倍は綺麗に見えた。


食堂へ向かう。


すっかり眠気は覚め、ピークを過ぎた食堂に1人、夕食を食べていた。

豚肉の塩漬け、野菜のシチュー、パン。


(弱かったな)


豚の塩漬けを口に運ぶ。

切った口内が塩で痛んだ。


(所詮数年こっちの世界に来て色々したけど根はデスクワークの不健康体なんだな)


シチューを飲み干し口を拭う。


(なんでなりたいんだろう、なる意味があるのか騎士なんかに、きっと誰も守れない弱い騎士に)


「あれ?モクヤさんじゃないですか」


紺色の長髪を三つ編みにして昼間よりも柔らかな印象の寒色系の服装で…パジャマだろうか。

昼間より優しい目をした委員長が立っていた。


「どうしたんですかこんな時間に1人ご飯だなんて」


斜め前の席に座る。


「委員長」


「はい」


なぜ呼んだのか咄嗟に理解できなかった。

だから仕方なく思い浮かんだ言葉を紡いだ。


「なぜ………騎士…に?」


色々な思いが数文字発するだけでよぎった。

甘い事言って欲しいとか、とても大きな夢を語って欲しいとか、そもそも何も聞きたくないとか


「3歳の時に両親が死んだんですよ、騎士団の作戦中、一部隊を全て倒す強大な何かに、噂だと幻の闇の王級じゃないかって言われました」


悲しそうな顔が俯いた顔から読み取れた。


少しほっとした自分がいた


「でも、その闇の王級なんてどうでもいいんです!死んだ両親に代わって祖父母はよくしてくれました。騎士団でも慕われていた両親は私の事を騎士団内で凄く気にかけていたそうです。そのおかげで毎日飽きませんでした。沢山の騎士様に会えて多くの話が聞けてみんな誰かしら辛い事を味わってるけど前向いて子供の私に明るい希望を見せてくれたそんな人達と居たいと思った…から…ですかね」


きっとそれだけじゃないのだろう。

きっと遊びに来てくれた騎士達もそうだろう、多くの恨みつらみがあるはずだ。

でも1番の理由は希望を見せてくれた事だろう、それが幻想だとしても。

鋭く何かが心に刺さった、そんな気がした。

明るく優しい笑顔で委員長は問う。


「なんでモクヤさんは騎士になりたいんですか?」


なんでだろうね。


「望んだ入学ではなかったのですか?」


「…」


「カゲツキモクヤです」


高校を卒業し親戚の勧めで入った会社だった。


自己紹介一礼して戻る。

部長のため息と「最近の若いのは」

やけにデカく感じたのを覚えている。


よくわからない新たな分野での仕事、関わりのない隣の人。


そういえばなんであの職場で頑張っていたんだろう。

流され着いた結果の職場を何故頑張ったのか…



理由は…理由は…理由は…



なんでだろうね。









「望んだ入学ではなかったのですか?」


「………わからない」


「…そうですか…まぁいずれわかりますよ、いえ…きっと理由付けしますよ」


素直に頷く。

きっとまた流され、がむしゃらに進むんだろう。

1人、与えられた仕事とそれ以上のものに食らいついて、そしてまた部屋で積み込んだ仕事から手が差し伸べられるのを待つのか。何一つ選ばず来る結果を見るだけなのか。


おやすみなさいと去る委員長を見送り重くなった心に邪魔されながら最後の一切れを飲み込み食堂を立つ。






風呂を浴び部屋に帰り、眠りについた。





「先輩」


「おう、どうした!」


「いえ」


「そうか!」


坑道でツルハシを振るっていた。

横で働く先輩は汗を流し笑顔で働いている。

安心した顔でツルハシを振り上げ、なれた動作で岩に打ち込む。岩石が弾けヒビが入る、の繰り返しだった。


ふと首筋が冷える。 


坑道に冷気が満ちる。


察した足が情けなく震えだす。


頭の警告に逆らって振り向くと巨体から溢れる光、逆光で照らされた真っ黒で大きな巨体がはるか先、坑道の入り口で叫んでいた。

全身が情けなく震え出し崩れ落ちる。浅くなる呼吸。不思議と鋭く痛む両足。



「助けてくれ…モクヤ…」


横を振り向く。


伸ばされていた氷漬けの手が地面に落ちて砕けた。


凍てつく風


凍った下半身、周りにいつのまにか10を超え100に迫る足と太ももだけの亡骸が氷の暗い世界で墓標のように佇んでいる。


また王の咆哮が聞こえた。







吹き出した汗を拭い咄嗟についた左腕が痛んだ。

浅く乱れた呼吸、爆発寸前の心臓。

もうこうなれば眠れないのを知っている。

暗闇の部屋でやる事は限られている。仕方なく両腕を床につけ筋トレを始めた。



朝日が上り、真っ暗な部屋で数時間かけて流した汗を流しに風呂に向かう。


(部屋が変わってはじめての夢だった)


病院で何度も見た夢だ。

呆れるくらい見た夢がまだ襲う。


(助けて…なんて…先輩は…言ってない)


それは知っている。

だけど出てくる言葉は助けてなのだ。


ずっと


ああ弱いな。覚悟が弱さで鈍ったな。


風呂に沈む。






風呂から上がり朝の朝食をとりに食堂へ向かう。


「おはようモクヤ!風呂上がりかい?」


「うん」


スープをとりつつ、次の食べ物を選ぶ。

鶏肉のような肉がある。筋肉を育てるにはアミノ酸含む鶏肉を摂取するのが常識だがこの鶏肉にどのような成分が含まれるのか。もしかしてカエルの肉なのではないかとも頭をよぎった。


「早速なんだけど君のグループに入れてもらえないかな第三のグループ」


「うん」


「そりゃよかった!ピューレくんのところは強い子ばっかで居心地が悪くてね」


最後にいつものパンを取って席に戻る。

ドイルだけは第三のグループに入るかもと予想はしていた。信頼していたのかもしれない。声をかけてくれて少しホッとした自分がいるのを感じた。


「今日は魔法の学科があるけどモクヤは魔法が聖護騎士様から禁止されていたよね、何するのかな」


「さぁ」


その答えは魔法の学科の時にわかった。


「えーじゃあ魔法とは何かを解説していく」


「せんせーい!魔法の実技じゃないんですかー!一年時に魔法基礎は学びましたー!」


「…話聞いてたかピューレ、第三騎士養成部門にいるうちは実技はしない、第二騎士に上がれた者だけが実技で学べる。前年度から言っている!」


わかりやすく咳払いをして話を続ける。


「えーそうだな、まずせっかくモクヤが入ったんで魔法の原理をぱっぱと説明しておく。みんなは知ってると思うので復習がてら聞いていてくれ」


「魔法とは世界に溶け込む6属性を頭の中にある機関を通し実体化させ世界に干渉する能力のことだ。これも自由というわけではなく属性ごとに適性がある為5属性に適合がない場合だってザラにある、ただし土属性だけは始まりの属性として絶対的に適性を持っている。持ってなかったら人間じゃないぞ」


わかりやすく咳払いをして続ける。


「…えーじゃあドイル、魔法の属性を説明せよ」


「はい!魔法は神が与えた元素を体内機関で調整して扱う技術であります!世界の基礎である土属性、土から派生した風属性、闇属性、光属性、さらにその上位に炎属性と氷属性があります、変化体として風から雷属性が生まれ、氷から水属性が生まれます」


「よし完璧だな、じゃあ委員長、魔法の学科と神学の繋がりを説明せよ」


「はい、神はまず地の属性を生み出しその後、風を起こし夜と朝を設けた。その後神は休息に入り地の属性から人を形作った。人は神に背き出し怒った神は罰として炎の元素と氷の元素で人々に神の怒りをあらわにした。次第に神は人を統治する機関を世界に組み込み傍観を続けた。次第に氷が水を呼び、風が雷を呼んだ。創生物語第一編より、つまり現在の6属性を作り、今ある人は神による恩恵を受けているに過ぎないと言う話です。また属性も神からの恩恵に過ぎず魔法を使う時に神への感謝を忘れないようにすべしということです」


「よし、完璧だな。それでは今日は魔獣級の存在に関して話していく。えー魔獣級は我々人型にある属性を扱える機関を宿し自由に制御できるまでに力をつけた魔物の総称である。その下には野獣級その下に害獣級がいるのは知っているな。では、この上の位に割り振られた怪物をなんと言うかノチェ」


臨級りんきゅうです」


「よしその上をピューレ」


覇級はきゅうでーす」


「よし、その次は…モクヤ!」


「…王級おうきゅう?」


「そう!そして王級とは6属性の最も強い個体がつけられる最強の称号だ、それ以上はそうだな母級と言うのがいる」


「聞いたことがありません!それはどれほどのものなんですか?」


「うん?俺の嫁さんだよ王級より間違いなく怖い」


小さな笑いが起きる中わざとらしく咳払いをして授業は進んだ。


「魔獣級とはどの種族でも高い属性を蓄え何度も死戦を潜り抜けた個体が魔法を使えるようになった時につけられる総称であり気性が荒く魔法を使いこなせる為かなり危険とされる。特徴としてどの種でもここまでは辿り着ける事だ。これ以上の等級は限られた種になってくる」


「戦いの中で進化するってことですか?」


「そうだな実際文献には戦闘時に突然魔法を使うようになったとの報告が多数上がっている為その場合が多いと思われている」


授業はその後も滞りなく進んだ。

教壇に立ち板書などなく手元の資料から授業を語り教え積極的に生徒に発表させる授業だった。

積極性のないモクヤだがしっかりと一字一句を紙に書き写し学んでいた。初耳の専門用語の羅列で手一杯になりながら一つずつ飲み込んでゆく。まだまだ覚えるのには時間がかかりそうだと思いながら手を動かし続けた。



放課となり懲りずにスーの元へ向かいまた負けたが今回は致命傷をもらうことなく退避できたのは成長と言える。

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