第3話:学び

始まりの悲鳴

今日を明日を人生を楽しんでいた先輩たちの氷漬けにされた下半身

吹き出す血の雨、いやに静かな空間

最強の魔獣 氷獣の王 コンル・カムイの赤く塗られた爪や牙

優しい一言、最後の突撃、一緒に進めなかった後悔




目を開けると見慣れぬ天井だった。

割れそうな頭を持ち上げあたりを見回す。


所狭しと並べられた木製の簡素なベットには何かしらの処置を施された人達が横たわっている。

ふと違和感を覚え自分の体を見てみると右肩から腕にかけて包帯が巻かれており鈍く痛んでいる。

それ以外にも所々に処置が施されており体の半分は包帯で巻かれていた。


「…」


永い眠りの中で何度もみた夢は覚めても頭をよぎった。


「すいません先輩方…」


ぐちゃぐちゃな心、やけに静かな部屋…

窓まで向かい外を見渡した。

曇り空、下を見るとちょうどいい高さだなんて馬鹿げたことを思う自分がいた。


「モクヤ君!」


小さな猫耳に溌溂とした声、ゆった白髪が左右に振れる。

突如小さな体がモクヤの胸に飛び込んだ。


「本当に良かった!心配した!」


灰色の長袖ワンピースに白いエプロンをした中学生くらいの女の子が明るい笑顔を胸の中からのぞかせた。


「…どうも」


力なく返事を返す。

寝起きで回らない頭の中、呆然とするモクヤをよそに猫耳女児は話を続ける。


「本当に危ない状況だったんだよ!脳みそが一回転したくらいヤバイって聖護騎士様は言ってた!」


まだまだ話す猫耳女児をよそに力なくベットに腰掛け適当にうなずく。


「とりあえず聖護騎士様呼んでくるね!」


三十分ほど話しただろうか、上機嫌をしっぽで表しながらさっそうと病室を走り抜ける。


静かになった病室のベットに横たわり猫耳女児の言った情報をかみ砕く。

まずコンル・カムイは氷漬けのまま生きており駆けつけた王都騎士第一に処理されたこの事件は作業員八名の死亡、一名の重体で処理されビローツ伯爵に保証金が支払われ幕を閉じた。

コンル・カムイの討伐功績は主にモクヤに送られ特別褒章 王級氷獣勲章と王都第一騎士訓練学校入学の権利、コンル・カムイの素材五割の贈呈また懸賞金十万フッラの贈呈を行う。


(そんなこと言われた所で僕はどうすればいいんだ)


まるで夢物語のような権利が沸いたてでたが沈んだ心は重いままだった。

その後病室にきた聖護騎士様から説明があり

「モクヤ君、君は3日間ずっと寝たきりだった。本当に危ない。いや本当は死んでいるはずの状態から生き返ってる。奇跡中の奇跡だからね。神に感謝しなさい。あと今後三年は魔法の使用を禁ずる、もし使えば頭が爆発して死んじゃうから覚悟して」


さらに三日の入院をへて退院となった。

入院中は3日間で失った筋肉を戻すためのリハビリを受けた。

毎晩悪夢がよぎりその度汗だくで飛び起きた。


退院の日病院の門の前で

「訓練学校でも安静にしておくように」

と釘を刺され病院を後にしようと背を向ける。

呆気のない退院に少々驚きつつも前の世界の病院ほど長いする理由がないのかもなと思い足を進める。

突如、見送りに来ていた猫耳の小さな看護師が背中に飛びついて顔を背中にうずめたまま何か言っているがすぐ見送りの聖護騎士様に「絶対安静といっただろ」と拳骨をもらっていた。


「ばいばい!またすぐに会おうね!」


と元気よく縁起でもないことをいわれながら王都第一騎士訓練学校へと向かった。


その途中にあるビローツ伯爵の作業場に寄った。

少し覗くだけのつもりだった。何もできる事はないし今更顔を見せたところでどうなるのか分からなかったから。

作業場を覗くと数日前と変わらず働く見知った顔が何人かいた。

だが不思議と中に入る気になれなかった。だが帰ることもできなかった。足が入り口から動かなくなっていた。

何分そうしていただろうか、誰にも気付かれずただただ作業をする人の流れを見つめて息をする、それだけを繰り返していた。


「返すのは君が仕事を辞めると決めた時だ」



ふと突然に後ろから声がかかりモクヤの面接に当たった男が横にいた。


「君は気にしなくていい、あれは不慮の事故だ。君が生きているだけで報われるものだよ」


「はい」


「うん、よろしい。君が王都第一騎士訓練学校に入るのは聞いている。ビローツ伯爵も君を雇用し続ける気でいたが君は学校に行けるのなら行った方がいい」


用済みなのか、そんなわけない、だけど…

嫌な気持ちが嫌な想像を膨らませる。


「僕はさ学校に行ったことが無いんだ、叩き上げで君と同じ何も持たない7歳児から始まりここでもう20年働いた。ビローツ伯爵へ感謝の気持ちは忘れたことが無い、君もきっとそうだろう」


「はい」


不思議と声に出た。

間違いないと確信できる。

職にあぶれ明日の補償がない僕を死の淵から救ってくれたのは間違いなくこの職場だ。


「ならさ、大丈夫だよ。結局、恩義ってやつはそこで働く以外でもきっと返す方法がある。場所も立場も違えどビローツ伯爵の助けになる道が君の進む道にあるさ、勝手に、それを縁って言うのかもしれないけど」


「はい」


よろしい、励みたまえ

懐かしい埃だらけの部屋の鍵を返し学校へ歩を進めた。



道中とくに迷うことなく大通りをぬけ目的地である学校にたどり着いた。


「王都第一騎士訓練学校」


金で綴られた名前にふさわしく間違いなく王都一の学校であり小中高一貫の貴族道一直線な学校である。


大きさは前いた世界の大学院と同じほどの敷地にケンブリッジ大学のような見た目の石造りでできた大きな建物だった。

内装も外見通りの石の廊下に光る石のランタンが均等にかかった薄暗い廊下を進みモクヤが校門でいた生徒に手紙を見せるとすぐ教員たちがいる部屋に案内をしてくれた。


そこへの途中入学を許してくれたのは八年前大通りで怒鳴っていた紺色の髪をしたおっさんがモクヤを覚えておりこの学校の副学長をしていたからに他ならない。

前々から才能を感じていた少年がまた大きな功績を出し立派な成長を見せると確信したおっさんは投資としてモクヤを入学させる手続きをしたのだった。


「おお!きたか、いらっしゃい!すばらしき氷の使い手、王級氷獣勲章の持ち主、モクヤ君!」


ばたばたと鉄のチェストプレートを皮で繋いだものをきた相変わらずの姿で四十近くなったおっさんが出迎えてくれた。

部屋まで案内するといわれ道中いかにコンル・カムイ討伐のすごさを語り、いかに王級氷獣勲章がすごいのかを語りその後、ようやくついた寮兼兵舎に案内され部屋のカギを渡された。

去り際まで王級氷獣勲章を語っていたがモクヤは金の飾り物より今日寝れる宿のほうがありがたいと思った。


部屋には木製ベットに光属性の光石こうせきを入れたランタン簡素な机と椅子にメモ帳と羽ペンがおかれていた。

そして簡素な部屋に豪勢な作りの箱が二つ。異質を放っていた。

一つ目は氷獣の牙で作られた短剣 イルシカ咆哮という名の白濁の刃に氷獣の皮の持ち手で作られた簡素なナイフ

軽く切れ味は良さそうだがそれ以上の感想は湧かなかった。


二つ目は氷獣の皮で作られたマントアクぺ・コンル枷なる氷

真っ白な毛皮のマント、保温性が高そうで見た目よりは軽い印象を受けた。


コンル・カムイの素材の五割で作られた素材だろう。

残りはチパパ・ライケ英雄狩りの効果を持った爪は王都に持ってかれたらしい。


大したことでは無いなと思い床に着いた。

不思議と眠りは深く苛まれていた夢はこの日一回も現れなかった。


翌日半年前にはありえないほどいい眠りから目覚め短剣咆哮マント枷なる氷を身にまとい朝食の前に全校生徒百名ほどの前でモクヤは紹介を受けた。

孤児であること、王級氷獣勲章を持つ若き英雄であること、第三騎士養成部門二年に配属されることなどがつたえられた。

最後の第三騎士養成部門二年はクラスであり上から三番目つまり小学生の騎士育成部門二年生となる。簡単に言えば小学二年生である。

ちなみに小学生は三年で終わる、中学、高校も三年となっている。


その後食堂で朝食をとるため並んでいると後ろに並んだ眼鏡をかけた少年が話しかけてきた。


「初めまして僕はドイル・ザッバーグ ドイルって呼んでほしい。君はモクヤでいいかい?もしなんだったら様でも英雄でもつけるけど…」


君ってあんまり好きじゃなさそうだったから、と続け素直にモクヤでと返す。


「そりゃよかった!もしよければ一緒に朝食を食べたいな、もう待ち合わせてる人がいるなら譲るけど」


「いないよ」


それはとっても幸運だ、と嬉々とモクヤの後ろに並ぶ。

朝飯は順番に小鉢をとってゆくバイキング形式となっており自由席で食べる作りとなっている。

低品質のしけったせんべいのような薄いパンから一変、貴族向けの一口サイズのバゲットにジャムを乗せる暮らしに喜びつつ軽めに朝食選ぶ。


この時代の貴族の食事のイメージは香辛料まみれの水分油分多めだったが味付けはいたってシンプルな塩が多くシンプルな調理でそこまでおかしな料理はなくほっとした。

 

「聞いてる?」


横でいろいろと質問を重ねるドイルに答えつつ朝食を進める。


「で、実際イルシカ咆哮はどんなもんなんだい?さっき触らせてもらった感じ攻撃力は市場に売られてる鉄の両手剣ほどのはずだけど、破格の性能、一つで100人の騎士同等になれる性能と歌われる王級としては攻撃力だけで言ったらちょっと少なめだと感じたけど」


「使ったことない」


「そうなのか、残念だけど確かに最近まで入院していたそうだし仕方ない!あっ!マントのほうはどうだい身に着けた感じとか不思議なところはないかい?」


「ない」


「そうなのか!…」

などと話すうちに食事を終えクラスへ向かう。


教室は西日が優しく差し込む石の廊下を進み奥から2番目の部屋にあった。

食堂からの道中もずっとドイルは質問を繰り返していた。



教室に入る。


陽光差し込む昔懐かしい木製の部屋に長机と教卓があり大学の席はこのような形だろうなとモクヤに思わせた。

天井に吊られたランタンは色ガラスで装飾されており今まで見た中で一番しっかりと作られた机に座る。

ふと前を見ると教卓はあれど黒板やホワイトボードがないことに気がついた。

だが誰かに質問する事を嫌がりモクヤは授業が始まれば自ずとわかると、座席表を確認してから記された席についていた。

ドイルは相変わらず何か質問を繰り返している。


「あっ…」


モクヤを見る黒色の短髪にインナーカラーで緑色を入れた耳長の俯きがちな少女がたたずんでいる。

2人は何も言わない。静寂が2人を包む。

前にドイルが紹介する。


「この方は代々王都聖護騎士団に所属する光魔法の使い手ノチェ・ルーナさんで、光属性の主に癒し系統を使います、この歳で魔力量は平均の2倍!第二騎士養成部門級です!僕も何度か治療を受けましたがあれは本当に奇跡のような体験でした!それ以外にも…


紹介を続けるドイルを無視しルーナは一礼した後モクヤの隣に座る。

どうやら隣の席はルーナのようで、自分の席の隣に新しい人がいたから少し驚いたのだろう。


無視されたドイルは何を思い違えたのか

「あっ!モクヤの、僕の友達モクヤの紹介をしなきゃね!何を語るにも彼はまずその年で王級を倒す力だね。彼が言うにはよくわからないらしいんだけど必殺技を隠してると僕は予想する!さらにこの体格、群を抜いた筋肉…


ルーナの説明より2倍は早口で喋るドイルを無視してモクヤも一礼を返し各々教科書を眺め授業が始まるのを待つ。


数分後、教室がやけに騒がしくなった。


「で、第二学校の第三の二年を仕切ってるトカゲの2番手ブタをしばいたわけ、大口叩くわりにめっちゃ逃げ回って言い様だったぜ」


「すげえ、ピューレ君はやっぱ違うなー」


「おう、もう委員長もしばいた俺に二年は制覇ようなもんよ」


大柄な少年が複数人の同い年を連れて教室に入る。

真ん中の大柄な少年は透き通った羽を模したようなマントをたなびかせ時折乱暴な素振りを見せるもののガキ大将のような立ち位置なのかそれなりに好かれているようで彼の周りにいる少年たちも面白がってついて行っている。


「…あっ、ピューレ君、噂のモクヤってやつがいますよ、俺が挨拶させましょうか」


「おう、しなかったら俺が向かう」


嬉々としてモクヤの元に向かってくる同級生をよそにさっさと退散しようと席を立ち足速に立ち去る。

それを弱腰と捉えたのか啖呵を切って肩を掴む。


「おい、この教室きたからにはピューレ君に挨拶するのが当たり前なんだよ、さっさとしろ」


「…」


モクヤは考えた、ここで挨拶するということは穏便にすませる正しい方法かなのか、ここで従わず目をつけられて過ごすか、なめられて良いものか。


(まぁ最悪、無茶苦茶を言い出してからしばけば良いから一旦ここは大人しく挨拶くらいしておくのが大人の対応だろう)


クルッとUターンしてピューレに挨拶する。

「おはようございます」


「おう、で、王級の装備持ってんだろ出せ」


大人しく差し出すとこの次にどうなるかは目に見えていた。

だがモクヤは何も言わず差し出した。


「…よし危ないから一旦俺が預かっておく!まだ教室来たばっかりだから色々ルール知らないだろ?一旦、一旦預かるわ」


大人しく頷く。


「おーモクヤお前わかってんな、ピューレ君の凄さは学校きてなくても知ってた感じか?」


「本能だろうな」


爆笑する少年たちをよそに立ち去る。

席ではえらく焦った様子のドイルがいつも以上に早口でまくしたてる。


「モクヤ君!やばいよあれ渡しちゃ!王級は絶対渡しちゃダメ!もうピューレ君に逆らうことはできなくなったし、それだけじゃ無いあれがある限り更に彼はめちゃくちゃを言い出す、先輩達ですら今の彼に勝てない可能性があるんだよ!」


ドイルの話を聞き流し先程渡した装備の価値を少し考えていた。

教室にざわめきが起こる。先程の少年たちに1人の少女が立ちはだかっていた。

その少女は紺色の髪をたなびかせ仁王立ちでピューレの前に立ち、強い剣幕とその華奢な体に見合わぬ覇気で詰め寄っていた。


「それはモクヤ君が命懸けでとった王級の秘宝だよ!絶対に返しなさい!」


一気に少年たちの空気が変わる、緊張が走った。

ピューレが構え何かを静かに唱え、少しずつ淡い小さな緑色の風が彼の右腕を覆い出す。

マントが風でたなびき更に場の空気が冷えた。



ーーーーーーーー刹那




一瞬小さな踏み込みと放たれる一瞬の弾丸のような拳、透き通ったマントが風により一気に煽られ強く舞う。まさに天を打つ蜻蛉のように煌めき踊る。


それはモクヤの知っている小学生のじゃれあいではなかった、プロボクサーのパンチ、音と共に射出される一撃、まともに喰らえば内臓を砕かれかねない。生死に関わる一撃を齢8歳の手から繰り出したのだ。冷や汗が静かに滴れる。

そんな一撃をまともに食らった少女の腹から水色の透き通る破片が陽光に照らされた部屋に散る。

青髪の少女はくの字に曲がり苦しそうに顔を歪めている、だが手には水色の粗く削られた氷の破片を継ぎ接いだ片手サイズの槍が握られている。

血みどろの殺し合いが起こる事が誰でもわかった。


「…やめやめ、おいモクヤ返すよ、気をつけて使えよそれ」

まとった風が消え短剣咆哮マント枷なる氷を紺色の髪をした先程の少女に投げる。


「さっさとそうしとけば良いものを、モクヤ君!それ絶対渡しちゃダメだからね!」

気をつけてね大切なものなんでしょと念を押され短剣咆哮マント枷なる氷を渡される。


「ありがとう」


と一礼をすると


「気にしないで!私この教室の委員長だから、何かあれば頼ってね騎士として委員長として助けるわ」


そう言って友達と話し出す委員長を見ながら戻ってきた装備達を眺めつつ数分前に前に考えていた(まぁ最悪、無茶苦茶を言い出してからしばけば良いから一旦ここは大人しく挨拶くらいしておくのが大人の対応だろう)をひたすら後悔していた。


弱者である事を王級討伐に浮かれ忘れてしまった自分を呪い、心内にひたすら弱者である事を刻んだ。


(そもそもこの王級の装備は僕の力じゃない。先輩達の気遣いが繋いでくれた釈迦の糸じゃないか、今は亡き先輩たちの形見をあんな簡単に僕は捨てようとしたんだ)


涙をこぼし静かにマントをつけ一緒に働き自分の弱さゆえに亡くなってしまった先輩達に誓った、必ず弱さ忘れず誰かを守れる人になると…


教師が入り先程の騒がしさはなくなり聴きなれぬ科目が並ぶ授業が始まろうとしている。


「えー今日からこのクラスの新しい仲間として一緒に学ぶモクヤだ。王級討伐の貢献報酬として今年度から王都第一騎士訓練学校に入学した。孤児院育ちで色々と分からないことが多いだろうから是非先輩としてみんな彼に教えてあげてほしい。はい、モクヤ君も挨拶して」


50代くらいの少し膨よかで大柄な優しい顔つきをした教師はモクヤに挨拶を促す。

言葉に詰まる、思い出す入社式の挨拶「よろしくお願いします」の一言ですまし冷ややかな視線を受けた記憶、半年は挨拶を部長に引っ張られ事あるごとに注意を受けた記憶が蘇った。

あれから9年が経っている、異世界で色々あった、喋る機会もあの社会人の頃より増えた。

息を吸い、口を開ける。


「よろしくお願いします」


一例して戻る。


「はい、拍手ー」


小さな拍手が所々で起こる。

これでいいのだと言い聞かせる自分と残念だと言う自分が心の中でいるのを感じた。

教卓で立った時は緊張もあった、見栄を張らなくてはとも思った。今回はいけると謎の自信すら僅かにあった。

上がる時の伸ばした背中は降りる時には少し小さくなった気がした。


「喋るの苦手?」


小さな背中が席についた時、隣から声がかかった。

少し俯いているモクヤの顔を少女は長い耳に髪をかけ覗き込んだ。

交わった視線が思ったより近く少し驚いたモクヤは質問に頷く


「私も」


少し微笑んで億劫そうな顔をした少女は立ち上がる。

ふと何か机に押し込んだ。


「次、ルーナ自己紹介」


「ノチェ・ルーナです、光属性の適性が高く、その中でも癒し系統を使います、将来はお父さんとお母さんを見習って聖護騎士団に入りたいです」


一礼をして戻る。


「…」


「…」


席に戻ったルーナは何も言わない、もちろんモクヤが自分から話しかけることはない。

順調に自己紹介は進み、朝礼が終わり授業が始まる。


一限目は文法、二限目は修辞、三限目は算術、四限目は体育となっておりそれぞれ年齢相応の内容となっていた。


文法は文字をかけるように覚える授業、修辞は文字を読めるように発音する授業、算術は文字通り数学教育、体育も同じく体の使い方を覚えるものだった。


体育では魔法は禁止、自分の体だけでどこまでやれるのかを測定した。

やはり1年間の坑道での作業により周りの生徒より2倍のスコアをつけて測定を終え大変教師からも良い評価を得れたのは今日の授業での良かった点と言える。


授業が終わり掃除がありそれを終えると午後は放課となりみんなと同じくモクヤも帰宅の準備を整える。

その時


「モクヤさんこのあと少しお時間よろしくいですか、大切なお話があります」


不穏な空気を感じてか焦るドイルをよそにモクヤは大人しく委員長に連れられていく。

ついたのは食堂

先に座っている人物が叫ぶ。


「早くしろよ、こっちは後に仕事入れてんだ委員長」


机に足を乗せ揚げ物を摘むピューレが鋭い眼光で睨んでいた。


要件はクラスのパワーバランスの話だった。

荒れていたクラスの秩序を守るためこのクラスに限った話であるが委員長とピューレの間で結ばれた協定

女子と男子の力は拮抗している為時間の無駄として喧嘩をお互いしない、上下関係などもないものとする。

その協定の前提、お互いのパワーバランスを崩す存在が来た事での話し合いだった。


「話も何も女子の第二位『紅』が不登校になった女子のパワーなんざ今の俺たちに勝てるわけがねぇだろ」


「だからこそです、また朝から晩まで授業中構わず喧嘩していても良いのですか、疲弊し負け戦が起こっても良いと」


渋い顔をするピューレ


「だが女子に入れるとどうだ、一変してバランスは女子に傾く違うか?王級討伐に貢献できる2年なんざどっちに入れてもバランスを壊すんだ、なら男側が妥当じゃねぇのか」


「いえ、扱いに難しいからこそこの私とあなたの二強体制をモクヤ君率いる三強体制にしましょう、第三の勢力として均衡を保てる力が彼にはあると思います」


「…潰して乗っ取るってのは」


「またそれもいいでしょう、その時は全力です」


ピューレは考える。

沈黙を破ったのはモクヤだった。


「それで良い」


驚きつつも睨みを効かせるピューレに何も言わない。

誰かの下につき喧嘩に明け暮れる日々よりは自分で宣言する。

誰も第三のモクヤの勢力に入らなくて良い、ただ誰かに使われて名前だけの王級討伐を掲げられ恥を弱さを晒すよりは一人で逃げ続けたほうがマシだと思った。


「なんか気にくわねぇな」


まぁ良い、覚えとけ。

彼はそう言って席を立った。


「じゃあそう言う事だから女子の方には私が伝えとくね」


そう言って席をたった彼女は意外だったな、そう漏らした。

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