【短編】学園のアイドルが実はコスプレイヤーでエロい写真撮られてる場面に遭遇したけど、正直死ぬ程どうでもいい

夏目くちびる

第1話

「あれ、白井しらいじゃん。何してんの?つーかそれエロ過ぎない?」


 それは、別の高校に進んだ友達の赤嶺あかみねと出かけた日。秋葉原のイベント会場とやらでの出来事だった。


「く、黒野くろの……くん?」


 赤嶺は、いわゆる不良仲間だ。誰かと喧嘩したり、親の原付で遊んだり。そういう悪い事をする友達。しかし、どうやら俺の知らない間に二次元的な趣味にハマっていたらしい。そこで、この町に赤嶺の趣味のドージンシを買いに来てみると、何やらイベントが開かれているようだったから好奇心で覗きに来たのだ。


「かわいいじゃん。いつもと雰囲気違うから、声掛けようか迷ったわ」


 そして、彼女は白井。黒髪のストレートでお目クリクリの眉目秀麗。絵にかいたような清楚な見た目をした、多分学校中から一目置かれている美少女。マンモス校だからあまり当てにならないかもしれないが、テストの成績も学年トップとかだったはずだ。才色兼備ってヤツだな。


「あの、こ、こ、こ、これは……」


 そんな彼女が、何やら布を張り付けただけのような、どう考えても黒ギャルの水着の4倍はハレンチな服を着て笑顔でポーズを取っていたのだ。人間は見かけによらないとは言うが、こうまで極端にやられると驚きを通り越して感心してしまう。


「おう、黒野。ここにいたのか」

「おせーよ。……そんじゃな、白井」

「あ、あうあう……」


 何かを言いたげに手をこまねいていたが、やがて人が集まって来たから俺は軽く手を挙げてその場を後にした。


「知り合いか?」

「おん、クラスメート。それより、どんなん買ったん?」


 そして、その後は俺は興味のあったメイドカフェで赤嶺のオタ話に耳を傾けていたのだった。帰ったら、俺もアニメ見てみよっかな。


 × × ×


「それでよ~、これが結構おもろかったんだよな~」

「へぇ、そうなんだ。でも黒野がアニメって全然ガラじゃないね」

「そうか?昔っからゲームとか好きだけどな」


 翌日の昼休み、俺はクラスメートの茶川ちゃがわと弁当を食べていた。昨日の事と夜に見たアニメの話をすると、こいつも少し興味が湧いてきたようだった。なるほど、趣味ってのはこういう風に広がっていくんだな。サンキュー赤嶺。


「あ、昨日と言えば……」

「黒野君」


 思い出したことを話そうとすると、いつの間にか話題の白井が俺たちの隣に立っていた。少し顔が赤い。


「よぉ、今からお前の話しようとしてたんだよ。あれなんてキャラ……」

「茶川君、少し黒野君を借りてもいい?」

「なんで?」


 すると、白井は教師に頼まれた力仕事を俺に手伝わせたい旨の話をした。


「まぁ、僕は別にいいけど」

「俺より浜田に任せろよ。あいつはレスリング部で力持ちだ」


 あと、多分白井に惚れてる。


「いいから、ちょっと来て」

「えぇ……」


 少しごねると、茶川が耳打ちする。


「ちょっとは察しなよ。白井は黒野にしか話せないことがあるんだってば」


 という事だったから、俺はコンビニ弁当の残りをかっこんで白川の後に続いた。ひょっとして、告白だったりして。


「お願い。何でもするから、昨日の事は黙ってて」


 全然違った。


「昨日のって、あのコスプレ?」

「そう」

「なんで?色んなヤツに見られたいから、あんなカッコして外出てんだろ?普通、見られたくないなら家でやってんだろ」


 言いながら、備品室の段ボールの中を見る。ここからカーテンの替えを取って、いくつか持って行かなきゃいけないらしい。探しながら白井の表情を確認すると、モジモジと腕を抱いて恥ずかしそうにしている。


「そ、そうだけど。知り合いにはちょっと」

「そうか、せっかく宣伝してやろうと思ってたのに」


 そして、俺は空きの段ボールにカーテンを詰めて持ち上げた。


「まぁいいや、分かった。赤嶺にもそう言っとく」

「……え?」


 立ち上がって部屋から出ようとすると、白川は俺の前に立ちはだかってゆく手を塞いだ。


「ちょっと、どうしてそんなにあっさりなの?」

「は?黙ってろって言ったから分かったって話じゃねぇか」

「だ、だって黒野君ってヤンキーじゃん。ヤンキーが学園のアイドルの弱みを握って何もしないなんて普通あり得なくない?」

「……お前、頭がおかしいのか?」


 こいつ、露出狂なだけあって頭の中身も相当クレイジーだ。やべぇのに捕まったかもしれん。


「あ、わかった。どうせみんなに言いふらして笑い者にするんでしょ」

「しねぇし、大抵のヤツは人の趣味なんて笑わねぇよ」


 笑うほど興味ねぇし。


「それじゃ、安心したところをやっぱり襲うんだ。それで、薬を使って何時間もエッチなことして、もう普通じゃ気持ちよくなれない体にするんだ」

「どっからそんな薬手に入れんだよ」


 すると、彼女は扉を閉めて俺を捉え、壁ドンの体勢になった。段ボールのせいで、女の白井では壁に手が届いていない。あと、場所の関係で少し胸の部分に手が触れてる。もう少しデカけりゃよかったのに。


「なんで?私だよ?学園のアイドルの私が何でもいう事聞くって言ってるんだよ?そして、黒野君はヤンキーなんだよ?なら、道は一つしかないじゃん。弱みを振りかざして乱暴するでしょ?普通は」

「……なぁ、白井」


 押しのけて、足で扉を開いた。


「お前と話してるとシンドイわ」


 そして、備品室を後にした。やべぇ女だった、もう二度と関わらないようにしよう。


 × × ×


「おかしい……、意味わかんない……」


 放課後。忘れ物をしてクラスに戻って来てみれば、白井が俺の机に座ってブツブツと一人で呟いていた。夕焼けの色と相まって、かなりダークな雰囲気だ。怖ぇ。


「何してんだよ」


 二度と関わらないと決めて、舌の根も乾かないうちに関わってしまうとは。俺も存外、運の悪い男だ。


「……おかしいもん、だって」

「おかしいのはお前だ。定期がそこにあるはずだからどいてくれ」


 すると彼女はポケットを探り、俺の定期券をポンと投げ置いた。


「お前の仕業かよ」


 それを取ってポケットの中に仕舞う。鞄は持って来ていない。筆記用具や教科書・ノートは全てロッカーだから、財布とスマホだけ持ち歩いている。


「あんま意味わかんねぇことすんなよ」

「話があるからこうしたの」


 どうして喧嘩腰なのかは分からんが、白井の怯えたような真剣なような表情は見たことが無かった。


「なんだよ」

「私って、そんなに魅力ない?」


 なるほど、人気者のプライドってヤツか。


「どうでもいいだけだ。お前、別に俺の何でもないだろ」


 すると、豆鉄砲でもくらったような面持ちから一変、子供を取られた鬼子母神のように怒りはじめ、俺の腕を強く掴んだ。


「ねぇ、なんで?私の事を見てよ。どうでもいいなんておかしいじゃん!あのコスプレ見たんでしょ?普通だったら惚れるでしょ!?」

「お前が思ってるほどお前の事気にして生きてるヤツなんて居ねぇんだよ。離せコラ」

「ムキィーー!」


 何なんだよこいつは。


「やだ!離さないから!見て!ねぇ見てってば!ねぇ!!」

「ちょ、じゃあお前のファンとかにやってもらえよ。知られたくねぇって事と矛盾してんじゃねぇか」

「自分からバラすなんて無理に決まってんでしょ!?こっちにはプライドがあんの!」

「知らねぇよ。つーか泣くなよ」

「うぅ、見てよぉ……。知らないなんて言わないでよぉ……」


 しかし、ついに腕どころか腰に纏わりついて俺を見上げ始めた。こいつ、影が薄い事にコンプレックスでもあんのか?拘り方が尋常じゃねぇぞ。


「わか……、分かったから!そんなに露出したの見られてぇならとっとと脱げコラ!あのコスプレと下着なんざ大して変わらねぇだろ!」

「……や、やっぱり酷い目に。黒野君も私の事をエロ同人みたいに犯すんだね」

「お前ホント死ねな?」


 思わず口に出てしまった。


「じゃあ、脱ぐから。脱ぐからどこにもいかないでね?あとかわいいって言ってね?」

「おう」


 しかしその瞬間、廊下の奥から物音が聞こえてきた。


「……あれ?」


 一度冷静になって確かめてみる。事実はキチガイ女に絡まれて謎のストリップを拝めさせられる憐れな男子生徒だが、周りから見ればどうだろう。泣きながら纏わりつく学園のアイドルを無理やり立たせて、服を脱ぐのを頭上から見下ろしているドSの不良という事になるんじゃないか?


「し、白井。少し待て」

「……興味ないの?」

「そうじゃねぇ、外に人が……」

「やっぱり、黒野君は私に興味が……」

「最後まで聞けよ」


 涙を滲み始めた。やべぇぞ。これでさっきみたいに暴れ始めたら確実にバレる。おまけに、どうやら全ての教室を開けて回ってるみてぇだ。ここを確かめるのは間違いない。だが、半裸の状態のこいつは?服を着せようとすれば暴れるだろうし、何より無理やり着せようとすれば逆に犯してるみてぇじゃねぇか。


「もう、隣の教室に……」


 ガキが泣く前みたいに、白井が空気をチャージしたのが分かった。また騒ぎ出すぞ。やべぇ。やべぇやべぇやべぇ!喧嘩や反抗でくらうならともかく、無実の不純異性交遊で停学なんてゼッテー嫌だ!ダサすぎるだろ!


「クソ。テメー、ちょっとこっちこい」


 言って無理やり引き寄せ、掃除用具のロッカーの中へ入り込む。間一髪のところで、見回りの教師がやって来た。生徒指導の柴﨑だ。隙間から覗くと、ふと柴﨑が俺の机の前に立った。マズイ、白井の鞄がバレた。


「こ、こ、こ、こ、これはどどどどど」

「うるせぇ」


 小声で言うと、柴﨑は鞄を俺の机の上に置いて腕を組んだ。当然だ、俺と柴﨑は関わりが深い。俺が鞄を持って来ていないことを知っている。しかし、中身を見るわけにもいかないから困っているんだろう。


「誰のだ?」


 考えるなら、外でやってほしいんだが。そんな事を思うと、白井が息を切らしてフーフー言い始めた。やべぇ、また興奮しだしたぞ。


「んぅっ!!??」


 無理やり口をキスで塞いで黙らせる。手は強く俺のシャツを掴んだが、やがて諦めたように弱く腰に置いた。初めてなら悪いけど、お前が蒔いた種だ。諦めろ。


 数十秒の後、柴﨑は中を見ることなく鞄を元に戻して外へ出て行った。あぶねぇ、九死に一生を得るってヤツだな。

 体を離してロッカーの外へ出る。籠った熱気から解放されて、僅かにかいていた汗がポタリと垂れる。その後の筋を拭って振り返ると、白井は惚けたような表情で顔を赤らめ、開けたままのシャツを直す事もなく俺を見上げていた。


「帰ろうぜ、昨日の事も含めて全部忘れろ」

「ふぁ……」


 アホみてぇに固まった白井は一歩も動こうともしないから、ボタンを閉めてやってから鞄を持つと手を引いて教室を後にした。


 × × ×


「それは大変だったな」

「おん」

「でも、学校で一番かわいい女とキス出来たんだろ?」

「あぁ」

「じゃあいいじゃん。あの子そーとーかわいかったし、俺はお前がムカツクけどな」


 昨日の夜、赤嶺に電話で白井のコスプレの話を黙っておくように言ったついでに話したのだが、考えてみればまさしくその通りだった。ぶち抜けてクレイジーな女だが、ラッキーキッスを頂いたことは紛れもなく事実だ。差し引きゼロだな。


 そんなワケで、今日は授業をサボって屋上の影で眠っていた。気が付けば午前中も終わっている。茶川んトコに行って、飯を食おう。


「黒野君」


 こいつ、何なんだよ。


「もう関わるな、忘れろって言ったろ」

「やだ」

「悪かったとは思ってんだよ、でも強姦未遂なんて停学どころかブタ箱にぶち込まれてもおかしくねぇし、仕方なかったんだよ」

「やだ」

「……なんの用だよ」

「黒野君って童貞じゃないよね?」


 こいつ、マジで何なんだよ。


「だったら何だよ」

「相手は誰?どこで?」

「中学ん時、先輩の家で」


 聞いて、白井は瞬きを四回した。


「なんでやったの?どうして私以外の人とそういうことしちゃったの?おかしいよね?」

「おかしいのはお前だ。どうして自分で自分の傷を抉ろうとするんだよ」

「私、学園のアイドルだけど?」

「それ、やたら主張してくるよな」


 そう言うのって、無自覚だからかわいいんじゃねぇの?


「……今、彼女いるの?」

「いない」

「ふ~ん、好きな人は?」

「いない」

「なんでよ!?」

「なにがだ!?」


 どうしてそこで怒り出すんだよ。


「普通、好きな人はいるし相手は私だよね?」

「なぁ、一回病院に行った方がいいぜ?いや、ネタじゃなくてマジな方で」

「まだキスだけだし、妊娠してないよ?」


 こ、こいつやべぇ……。なんか、すげぇ頭が痛くなってきた。ぶっ倒れそうだ。


「あ、黒野君。またこんな所に」


 ふらつくのを堪えて扉の方を見ると、そこには委員長が立っていた。後ろには、彼女の友達が三人。


「なんだよ」

「ここ、入っちゃいけないっていつも言ってるでしょ?危ないんだよ?」

「ならこいつにも注意してやんな」


 そこで、委員長は白井に気が付いたようだ。


「あれ、白井さん。ここにいたんだ」

「なぁに?」


 あ、いつもの清純な感じに戻った。


「白井さんの事、みんな探してたよ?戻ってあげたら?」

「でも私、黒野君に少しお話があるの。もう少しだけ、ダメかな?」


 にこやかに小首を傾げて答える白井は、憑き物でも落ちたかのように穏やかだ。先週までの俺が抱いていたイメージの通りだな。


「そ、そっか。でも、屋上はダメだから。お話するなら教室で、ね?」

「うん、ありがとうね。いこ?黒野君」


 突っ立っていると、すれ違いざまに耳元で囁かれた。


「放課後、私のところに来てくれないとあの女を抹殺する」


 ……委員長、お前貸し一つだからな。


 × × ×


 そんなわけで放課後。俺は白井の家に来ていた。


「これ、どう?」

「あぁ、いいんじゃねぇ?」


 さっきからもう2時間。俺は彼女のコスプレを鑑賞している。見せびらかして、キャラクターとアニメの説明を事細かにしやがるから、お蔭で随分と時間が経ってしまった。


「なぁ、その説明は必要なのか?」

「キャラ愛のないコスプレは冒涜だから」


 コスプレイヤーには、そういうこだわりがあるみたいだ。


「そもそも、私はエッチな格好がしたくてこれをしているんじゃないの。キャラになり切りたいの」

「いや、お前自分で見られたいって」

「仕方ないじゃん。そういう気持ちのキャラが好きになっちゃうから、演じてるうちに私もそうなっちゃったんだもん」


 人格乗っ取られてるじゃねぇか、コスプレっておっかねぇんだな。


「次、最後ね」


 そう言って、彼女は廊下へ出ると悪魔のような恰好をして戻って来た。


「私の一番のお気に入り。かわいいでしょ?」

「おん」


 かわいいのはいいんだけど、そろそろ見慣れたせいで嬉しさも半減だ。それに、こいつがやべぇヤツだと知っているせいで、興奮する神経的なモノが麻痺してるのかもしれない。全然響かねぇ。


「この子はね?ほんとは誰かに甘えたいけど素直に慣れなくれて、だから悪戯したり生意気な態度を取っちゃうの」

「ほぇ」

「かわいいよね?」

「おん」


 素直に頷くと、白井は無邪気に笑って喜んだ。まぁ、マジでアニメが好きなのはわかったよ。


「……だから、わからせっていうのがあるんだよ」

「おん」


 いけね、適当に聞いていたせいで内容を忘れた。


「ちょっとだけ、やってみてくれない?」

「なにが?」

「だから、キャラになりきるには協力が必要なんだってば」

「……俺が何を?」

「分からせ的な、そういうヤツ」


 ワカラセ。聞き流していたからさっぱりだ。俺の知ってる分からせるって事でいいのか?


「お前、ホント変な趣味なんだな」

「私じゃなくてこの子だから」


 しかし、大人しく従っておかないと今度はどう暴れるかも分からない。そう思い、立ち上がって目の前に立った。


「ホントにいいのか?多分、結構痛いと思うぞ」

「い、痛い!?ちょ、いきなりそこまでやるの!?」

「いきなりって、まぁ俺はいつもそうするけど」

「……何人もやってきたの?」

「仕方ねぇだろ、また向こうからナメられねぇようにシメなきゃいけねぇんだからよ」

「な、舐める!?そんなこと、初めてでいきなりするもんなの!?」

「そんなん、基本初対面だろ。かち合って互いでナメ合うから、そういう状況になるんだからよ」

「な、な、な、舐め合う。しょしょ、初対面で……」


 すると、白井は視線をあちこちに向けて、ぎこちなく首を回し、はす向かいに俺を見上げた。


「で、でもぉ。確かに興味あるけどぉ……。漫画ではいっぱい見て来たけどぉ……。その、初めてはもう少しソフトな方がいいって言うかぁ……。戻れなくなりそうって言うかぁ……」

「まぁ、戻れなくなるってのはあるな。一回あの快感を覚えちまうと、普通の事じゃドキドキしなくなるっつーか。命削り合ってやり合うってのは、何つーか俺たち不良の生き甲斐みたいなところがあんだよ」

「……黒野君って、すっごい変態だったんだね」

「ひでぇな。でも、スポーツも勉強も出来ねぇし、今はそういう生き方しか出来ねぇんだ。まぁ、お蔭で年中傷だらけだけどな」

「傷が出来るまでやるって……」

「そりゃお前、いつも楽勝なんて事はねぇよ。俺一人で相手が何人もいる時もあるしよ」

「ふぁっ!?な、な、何人も!?何人もと舐め合って傷だらけになるまでヤるの!?」

「大抵負けちまうんだけどな」

「わ、分からされるってこと?」

「まぁ、そう言う事だわな」


 ただ、負けっぱなしは性に合わないし、そう言う時は居場所探しだして闇討ちしてでもブチのめす。こればっかりは、絶対に引けない。相手も同じ場所に居るから、気持ちだけは負けちゃいけねぇんだ。


「まぁいいか。そんじゃ、マジでやるぞ?ホントにいいんだな?」

「ま、ま、まだ早いような気もしますですけれども。そういう風に意識したの、昨日のキスからなのであれなんですけれども。……で、でも。黒野君なら、私……」


 女相手に、しかも喧嘩してるワケでもない相手にこんな事をするのは流石に気が引けるが、暴れられるよりマシだ。


 しかし、白井も本当に変なヤツだな。


「じゃあ、やるぞ」


 胸倉掴まれて、二度と歯向かわねぇように恫喝されるのが好きなキャラになり切りたいなんて。


 × × ×


 翌日。俺はまた授業をサボって、今度は校舎裏に来ていた。特に理由はないけど、こう言う暗い場所は結構好きだ。


「や、やぁ」


 あまり聞きなれない挨拶をしながら、白井が現れた。こいつ、俺を見つけるプロか。


「やぁって、お前も懲りねぇなぁ」

「だって、まだ話は終わってないから」

「そんなこと言ってよ、少しは自分の立ち位置考えて行動した方がいいんじゃねぇの?」


 実際、昨日の昼も今日の朝もこいつとの関係を色んなヤツから聞かれた。その中で上級生にぶん殴られたからやり返して逃げて、だからほとぼりが冷めるまでここにいたってワケ。


「まぁ、アイドルですから?むしろこうしてお忍びでないと男の子と二人でお話も出来ないって言いますか?」


 他のヤツにこの態度を見せてやりてぇよ。


「あんだけヒデェ目に遭ったのにか?」


 すると、今度は怯えたように身を斜めに置く。


「で、でも、すぐにぎゅってしてくれたから……」

「声も出ねぇくらいビビってんのに、そのままほっとけるわけないだろ」


 まな板の上の魚みたいに震えて、目を逸らして「ごめんなさい」なんて言うものだから、慰めるためにやったのだ。


「これじゃDVの手口と一緒だ」

「まぁ、あれはあれでよかったよ。二回目は絶対に要らないけど」


 変な趣味を植え付けてしまったのか、元々ジェットコースターとかが好きなのか。とにかく、しばらくは俺の罪の意識は消える事は無いだろう。後味が悪すぎた。


「それで、今日は何の用だよ」

「なにって、そんなの私を意識させる為の作戦その一に決まってますけど?」


 意識という意味で言えば、俺は罪の意識で日中ずっとお前のこと考えてたけどな。


「そんで、何をやらかそうってんだ?」

「えっとね~」


 そして、俺は白井の作って来た弁当を頂き、アニメのキャラクターの話を聞いていたのだった。俺の目には、下手な小細工を弄するよりも好きな事を話している笑顔の方がよっぽど魅力的に見えた。

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【短編】学園のアイドルが実はコスプレイヤーでエロい写真撮られてる場面に遭遇したけど、正直死ぬ程どうでもいい 夏目くちびる @kuchiviru

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