後日談的な

あれからしばらく経って、私は普通の高校生らしくなった。少し休んでいただけだし、みんな体調悪かった、で分かってくれた。でもいつか、ちゃんと本当のことが言えたらいいと思う。


死神さんは、もう私の前に現れなくなった。もともと走馬灯を見せるためだけに出てきたんだから、見れないのが正解なんだろうけど。少しだけ、寂しかった。



あと変わったことといえば、前より少し過ごしやすいテンションを見つけたこととか、キャッチしてくれたチンピラとよく話すようになったこととか。


「おい!この間言ってた小説!書けたか?」


「うるさいなぁ。まだ出来てない」


「えぇーーー早く書けよ!お前が話してたの小説化したら絶対面白いんだから!!」


「分かってますぅ!言われなくてもすぐ仕上げるわよ」


それと、物語を書き始めた。


これがあの人に繋がるかは分からないけれど、書いてみたくなって。ひとりの屋上に意味もなく行っては原稿用紙に言葉を綴る。


「どんな話を書いているんです?」


「ぅわあ!!」


「お久しぶりです」


「え、なに、な、なんでいるの!?」


「仕事が落ち着いてひまだったので。これからもちょくちょく遊びにきます」


「はっ?え、えぇ?」


突然現れた死神さんに驚きを隠せない。相変わらずの無表情に謎の安心感を覚える。



「ほら、私たちもう友達みたいなものじゃないですか。で、どんな話を書くんです?」


「…しーちゃんとの話」


「おぉ、光栄です」


前と同じ無表情で手をパチパチと叩かれる。


しーちゃん呼び初めてだったのに、流された。まあそういうところがこの子っぽいんだけど。



あのチンピラと仲良くなって少しした頃、死神さんことしーちゃんとのことを話した。


そうしたら目をキラキラさせて「それ小説にしろよ!!」なんて言うから、乗せられてしまった私は実際に筆をとっている。


たしかに、こんなに面白い子の話を書かないのはもったいない気がするから後悔はしていない。


私は文章、小説を書いたことなんて、夢小説ぐらいでしかしてこなかったからうまく書けないかもしれないけれど、これもきっとなにかに繋がってくれるはず。


「書き終わったら読ませてくださいね」


「絶対イヤ」



憧れの人の元まで、あとどれくらいだろう。


この先続く道は全くの未知。でもそんなのみんな同じで。怖いし不安だし、正直進みたくない。でも、どっかわくわくする時もたまにあって。そういう感情が起こる瞬間がすごく好き。


生きてるって感じがする。



自ら命を手放したら負け。


なんとかなる。なんとでもなる。


流れに身を流して、頑張る時に頑張ればいいんだ。


重く深く考えるのはたまにでいい。


ふわふわ生きていこう。



「もう死のうとなんて思わないでくださいね」


「んーがんばる」


「あなたがあなたとして生きるのは、この人生だけなんです。嫌でも辛くても、自ら手放すなんて許しません」


「ん、」


文字を綴りながらだから、という言い訳を盾に、震えそうになる声を出さないようにした。今のも小説の一文にしてしまおう。


この子が言うセリフはどれも死神が言う言葉とは思えないくらい綺麗で正義だ。


「お褒めに預かり光栄です」


「ちょっ、もうほんと黙っててくれる???」



おわり。

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走馬灯の旅 ひらた @unitabenai331

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